親友に式も婚約者も奪われた私の逆襲第2話
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「そんなに疲れてるなら、明日のブライズメイドはなしにしよう」
ソファの前まで歩き、USBメモリをローテーブルに放ると、乾いた音がした。
茉莉の顔からさっと血の気が引き、前触れもなく大粒の涙がこぼれ落ちた。
「澪さん、私に怒ってるんですか?私が要領悪くて、何の役にも立てないのは分かってます。でも、澪さんの花嫁姿を、この目で見届けたいんです」
一歩近づき、私の袖をつかもうとする。
私は反射的に身を引き、その手を避けた。
一瞬、空気が凍りついた。
朔間の優しい表情が強張った。立ち上がって茉莉を背後にかばい、私の肩にそっと手を置いた。
「澪、明日は俺たちの晴れの日だ。こんなことで意地を張るなよ。茉莉はお前の式のために、何日もろくに寝ずに準備してきた。ただ、そばで見届けたいだけだ」
かつては、その大きく温かな手に触れられるだけで、何より心が安らいだ。
今は服越しに触れられているだけなのに、毒蛇が肌を這っているように感じた。
「私が、意地を張ってるって?」
朔間をまっすぐ見つめ、その目に少しでも罪悪感がないか探した。
けれど、何もなかった。彼はまるで、聞き分けのない子どもでも見るように私を見ていた。
聡介が近づき、茉莉をソファに座らせると、険しい顔を私に向けた。
「澪、さっきから何が言いたいんだ?茉莉は足が棒になるまで、お前のドレス選びに付き合ったんだぞ。それを一言でなしにするなんて、茉莉を何だと思ってる?」
実の兄が茉莉の涙を見ただけで私を睨みつけている。胃が激しく縮むように痛んだ。
何だと思っているのか。
親友だと思っていた。家族同然だと思っていた。
では、彼女にとって私は何だったのだろう。いつでも取って代われる、滑稽な存在だったのか。
「分かった。じゃあ、予定どおりでいい」
胃の痛みをこらえ、冷え切った笑みを浮かべた。
玄関へ向かい、コートハンガーに掛けてあったコートを手に取った。
母が立ち上がり、苛立ちを滲ませた声で言った。
「こんな時間に、今度はどこへ行くの?明日は朝5時から支度なのよ。これ以上、余計な手間をかけさせないで」
ドアノブを握ったまま、振り返らずに答えた。
「明日使うベールを取りに行ってくる。みんなは先に休んで」
「澪、俺も行く。外は雨だ」
背後から朔間の優しい声がした。彼は車のキーを手に取り、大股で近づいてきた。
腕に私のコートを掛けて近づいてくる姿は、どこから見ても気遣いに満ちた婚約者そのものだった。
あのグループチャットを見ていなければ、私は今も、彼が作り上げた幻の中に溺れていたかもしれない。
「いい。茉莉のそばにいてあげて。食欲がないんでしょう?」
ドアを開けると、冷たい風と細かな雨が顔に吹きつけ、混乱していた頭が少しだけ冴えた。
朔間は動きを止め、複雑な表情を浮かべた。
ため息をつき、風に乱れた私の髪を直そうと手を伸ばす。
「澪、今日のお前は本当におかしい。前は誰より茉莉を気にかけてただろ?」
顔をそらすと、彼の手は宙で止まった。
「人は変わるものよ、朔間」
それ以上は相手にせず、エレベーターに乗って地下駐車場のボタンを押した。
車内は冷え切っていた。私は両手でハンドルを強く握り、指の関節が白くなるほど力を込めた。
頭の中では、あの一文が何度も繰り返されていた。
【実は今日の午後、茉莉と婚姻届を出してきた】
スマホを取り出し、ブライダルサロンの担当者に電話をかけた。
長い呼び出し音のあと、疲れの滲んだ声が応じた。
「神谷様、夜分にどうなさいましたか?」
「予備のウエディングドレスを、今日の午後、誰が持ち出したのか教えてください」
電話の向こうが数秒沈黙した。記録を確認しているらしい。
「九条様です。ブライズメイドの相良様もご一緒でした。相良様が予備のドレスを試着してみたいとおっしゃり、九条様がお持ち帰りになりました」
目を閉じ、短く乾いた笑いを漏らした。
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