親友に式も婚約者も奪われた私の逆襲第1話
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10年前、相良茉莉(さがaら まり)は安っぽいチュールのワンピースを着て、路地裏でチンピラたちとつるんでいた。
誰もが、あの子には近づくなと言った。
それでも私・は家族全員の冷たい視線に耐え、たばこの火を押しつけられた痕だらけの彼女の手を取った。
英単語を教え、一流ブランドの服の着こなしを教え、ワイングラスを優雅に持つ方法まで教えた。
自分の交友関係にも迎え入れ、財界の御曹司、九条朔間(くじょう さくま)とのデートにさえ、わざわざ彼女の席を用意した。
初めは茉莉を見下していた人たちも、やがて、逆境の中で気丈に咲く棘のあるバラのようだと褒めるようになった。
ところが結婚式の前夜、兄のパソコンを借りてファイルをコピーしていた私は、偶然、自分だけが入っていない家族のグループチャットを開いてしまった。
グループ名は【茉莉を守る会】
母がこう書き込んでいた。
【茉莉は妊娠してるのよ。明日の式、本当に挙げるつもり?】
兄の神谷聡介(かみや そうすけ)が返信していた。
【式を挙げたら、もう後戻りできないぞ。本当に茉莉を犠牲にするのか?】
私だけを愛すると誓ったはずの婚約者も、すぐに返信した。
【実は今日の午後、茉莉と婚姻届を出してきた。明日の式は、澪への償いだと思ってる。結婚式は澪のために挙げる。でも、戸籍上の妻になるのも、俺が愛しているのも茉莉だ】
画面に並ぶ言葉を見つめながら、全身から熱が失われていった。
いつの間にか、彼らは固い絆で結ばれた家族になっていた。
部外者だったのは、私――神谷澪(かみや みお)だけだった。
* * *
「澪、オープニングムービーのファイルをコピーするだけで、まだかかるのか?」
書斎の外から、兄の穏やかな声がした。
私は画面に残る残酷なやり取りを凝視していた。指先は冷え切って痺れ、息をするたびに体の内側を引き裂かれるような痛みが走った。
カーソルは「茉莉を守る会」というグループ名の上で止まっていた。
自分の歯がかすかにかち合う音まで聞こえた。
「もう終わる」
どうにか平静を装って答え、USBメモリを抜くと、パソコンに残った閲覧履歴を消した。
書斎を出ると、リビングは暖かな色の照明に包まれていた。
朔間はソファに座り、銀色のナイフで丁寧にりんごの皮をむいていた。
茉莉は母の肩にもたれ、温かいミルクの入ったカップを両手で包みながら、目を潤ませて笑っていた。
聡介は切ったばかりのさくらんぼを皿に盛ってキッチンから出てくると、茉莉の前に置いた。
「澪、こっちに来いよ。見ろよ、朔間さんがこんなにきれいにむいてくれたんだ。皮が一度も切れてない」
茉莉は顔を上げて私を見た。その目に一瞬だけ動揺が走ったが、すぐにいつもの無垢な表情を取り繕った。
落ち着かない様子で立ち上がり、朔間の手からりんごを受け取ろうとした。
「朔間さん、自分でやりますよ。澪さんも見てますから……」
朔間は優しくその手をかわし、皮をむいたりんごを一口大に切った。芯を取り除き、ピックを刺して茉莉に渡した。
「最近、食欲がないんだろ。少しでもフルーツを食べたほうがいい。澪も気にしないよな?」
彼が私を見上げた。7年もの間、愛し続けてきたその目には、後ろめたさなど微塵もない優しさが浮かんでいた。
私はその場から動かず、ローテーブルに置かれた挙式の進行表に目をやった。
「食欲がないって、どこか悪いの?」
広いリビングに響いた自分の声は、わずかに掠れていた。
茉莉の手が大きく震え、りんごが一切れ、カーペットに落ちた。
母はすぐにティッシュで拭く、いたわるように茉莉の手の甲を軽く叩いた。
「大したことじゃないわ。あなたたちの式の準備で忙しくしてたから、疲れが出ただけよ」
聡介は眉を寄せ、どこか咎めるような目を私に向けた。
「茉莉はもともと体が弱いんだ。明日はやることが多いし、ブライズメイドも務める。今日はゆっくり休ませてやれよ」
黙って彼らを見ていると、あまりにも滑稽で笑いたくなった。
妊娠しているブライズメイド。
そのブライズメイドと、すでに婚姻届を出した花婿。
そして他人と結託し、実の娘を欺く母と兄。
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