親友に式も婚約者も奪われた私の逆襲第3話
この話は約1607字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。
試着してみたかった?
私の予備のドレスを着て、朔間と婚姻届を出しに行くためだったのだろう。
「分かりました。ありがとうございます」
電話を切り、川沿いの空き地に車を停めた。冷たい雨がフロントガラスを打ち続けた。
かつて、いかにも柄が悪く、口を開けば下品な言葉ばかりだった茉莉を、少しずつまともな生活に戻していったのは私だった。
チンピラに絡まれたときは、彼女の前に立ってかばった。
ナイフとフォークの使い方を知らず、周囲から笑われたときは、手を添えて何度も教えた。
今や彼女は上品に振る舞うことも、無垢を装うことも、私の人生を奪うことも覚えていた。
突然スマホの画面が光り、茉莉からのLINEが表示された。
【澪さん、朔間さんを取られたって怒ってるんですか?ごめんなさい。明日はおとなしくしています。絶対に澪さんを怒らせません】
画面越しでも、健気な被害者を演じる彼女の顔が目に浮かんだ。
返信せず、スマホを助手席に放った。
翌朝早くから、新婦の控室は慌ただしい空気に包まれていた。
ヘアメイクのスタッフたちに囲まれ、念入りに支度を整えられていた。
茉莉は淡い金色のドレスをまとい、部屋の隅に静かに座っていた。
顔色は確かに悪く、ときおり口元を押さえては眉を寄せていた。
母はホットミルクの入ったカップを手に部屋へ入ってくると、私の前を通り過ぎ、まっすぐ茉莉のもとへ向かった。
「茉莉、温かいうちに少し飲みなさい。今日は一日中付き添うのよ。体は大丈夫なの?」
茉莉は恐縮した様子でカップを受け取り、また目を潤ませた。
「ありがとうございます。私は大丈夫です。澪さんが幸せな花嫁になれるなら、少しくらい無理をしても平気です」
ヘアメイクの女性が笑顔で応じた。
「神谷様はお幸せですね。こんなに優しい親友がいて、婚約者様にも大切にされて」
鏡に映る、華やかに着飾った自分を見つめた。まるでひどく滑稽な道化師だった。
聡介がドアを開け、ベルベットのジュエリーボックスを手にして入ってきた。
私の背後で箱を開くと、中には眩いダイヤモンドのネックレスが収められていた。
「朔間さんが、お前のドレスに合わせてフランスから取り寄せたそうだ」
聡介はネックレスを取り出したが、私には渡さず、そのまま茉莉のもとへ歩いていった。
「茉莉、首元が寂しいな。今日はこれを借りておけよ。澪の物なんだから、澪も気にしない」
ヘアメイクの手がぴたりと止まり、部屋が静まり返った。
茉莉は慌てて両手を振り、怯えたように身を引いた。
「だめです。これは朔間さんから澪さんへのプレゼントでしょう?私が着けるわけにはいきません」
聡介は聞く耳を持たず、茉莉の首にネックレスを着けた。
「澪はほかにもいくらでも持ってる。一つくらい構わないさ。今日はブライズメイドなんだ。みすぼらしい格好で澪に恥をかかせるわけにもいかないだろ」
私は鏡越しにその光景を見つめ、何も言わなかった。
あのネックレスは、九条家で代々、跡取りの妻に受け継がれてきたものだった。
朔間はそれを聡介に預け、こんな形で堂々と茉莉に着けさせたのだ。
「澪、別にいいよな?」
聡介は牽制するような目を私に向けた。
私は口元に笑みを浮かべ、ゆっくりと振り返った。
「ネックレスの一つくらい、好きにすればいい。借りられるのは今日だけの物もあるけどね」
茉莉はドレスの裾を強く握りしめ、顔を真っ白にした。
廊下から司式者の声がした。
「花嫁様、ご準備はよろしいでしょうか。まもなく挙式が始まります」
チャペルの扉がゆっくりと開き、まばゆい照明が一斉に私を照らした。
バージンロードの先には、上質な白いタキシードをまとった朔間が立っていた。すらりとした姿は、まるで童話の王子のようだった。
両脇に並ぶ参列者たちから羨望の眼差しと賛辞が注がれた。
父の腕を取り、本来なら生涯を共にするはずだった男のもとへ、一歩ずつ進んだ。
けれど朔間の視線は何度も私を通り越し、後ろに続く茉莉に向けられていた。
縦書き表示中:本文は右から左へスクロールします(← → キーでも移動できます)
第4話は公式アプリで
当サイトでの試し読みはここまでです。アプリをインストールし、下のアプリ用コードを入力すると、この作品の第4話からそのまま読み進められます。
R78504- 下のボタンから公式アプリをインストールします(無料)。
- アプリを開き、「コードを入力」にこのコードを入れると、この作品が本棚に入ります。
作品ページへ戻る 当サイトに掲載しているのは試し読みの章だけです。