親友に家を贈った彼と別れます第2話
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翌日も、私はいつもどおり会社に出た。半年以上担当してきたこの案件だけは、最後まで仕上げておきたかった。
何百枚も図面を引いてきたのだ。ここまでやって、途中で投げ出すわけにはいかなかった。
会議が始まると、景吾はまず柚希の名前を挙げた。
「前の案件を予定より早く仕上げられたのは、柚希が何晩も徹夜してくれたおかげだ。今回、一番頑張ってくれたのは柚希だな」
そのあと、景吾は私に目を向けた。
「ただ、メインを任されてるなら、もう少し進行も意識してくれ。新人にフォローさせるようじゃ困る」
図面もプランも、全部私が作ったものだった。昨夜も一つずつ整理して、チームに送ったばかりだ。
3晩続けて徹夜して仕上げたのは私なのに、会議では私がみんなの前で注意を受けた。
会議のあと、景吾はチーム全員を連れて、少し値の張る和食店へ行った。
「柚希、刺身好きだったよな。ボタンエビとウニも頼んどこう」
一通り注文すると、景吾はメニューの中で一番安いコースを指した。
「詩織はこれでいいだろ。家のために貯めてるんだし、節約できるところは節約しないとな」
柚希の好物はちゃんと覚えていたのに、私が魚介類を食べられないことはすっかり忘れていた。
それでも、私に節約させることだけは忘れなかった。
半年前、仕事を失って途方に暮れていた柚希を景吾に紹介したのは私だった。
「柚希、この仕事の経験もあるし、真面目な子だから。何とか力になってあげられない?」
柚希が入社してからは、私が少しでも不満を口にすると、景吾にはわがままにしか聞こえないらしかった。
同じように深夜まで残業していても、柚希にはタクシーで帰るように言い、料金も会社で精算していた。
一方、私がまだ席に残っているのを見ると、景吾は眉をひそめた。
「まだ帰らないのか?会社の電気代だってタダじゃないんだぞ」
柚希が「いちごのショートケーキが食べたい」と言えば、景吾は5キロ遠回りしてでも買って帰った。
なのに、私が熱を出して解熱剤を頼んだ時は、家にある風邪薬で済ませればいいと言われただけだった。
それでも景吾は、柚希のことをいつも気が利いて、物分かりもいいと褒めていた。
けれど、何度も徹夜して図面を仕上げ、生活を切り詰め、そのたびに我慢してきたのは私だった。
食事を終えると、景吾は当然のように私の手を取った。
「あのマンション、見に行こう。内装のことも相談したいし」
私はその手を振りほどいた。
「行かない」
すると柚希が笑いながら腕を絡めてきた。
「詩織も一緒に行こうよ。ね、ちょっと相談に乗って」
景吾は呆れたように言った。
「まだ怒ってるのか?マンション1室くらいで、いつまで引きずってるんだよ」
そう言いながら、景吾は助手席のドアを開けた。柚希がそこへ乗り込むのを、ごく自然に待っていた。
後部座席に乗り込んだ瞬間、ふと気づいた。
いつの間にか、助手席は柚希の席になっていた。
柚希が会社に来てから半年、私は景吾の車に乗ること自体なくなっていた。
柚希の家までは、バスなら20分ほどしかかからない。それでも景吾は「遠いから」と言って、毎日わざわざ迎えに行っていた。
私は街の南の外れに住んでいて、バスと電車を乗り継ぐと会社まで片道2時間近くかかった。それでも景吾は、一度も私の通勤を気にかけたことがなかった。
マンションに着くと、柚希は寝室もリビングも書斎も、間取りから全部やり直したいと言い出した。
景吾は少しも迷わず「いいよ」と答えた。
景吾はもう、私がこの家のために、分厚い束になるほど図面を描いたことすら覚えていないのだろう。
構造や方角、生活動線、採光まで、一つひとつ考えて仕上げたものだった。それなのに、柚希が変えたいと言っただけで、景吾はあっさり全部やり直すことにした。
でも、もう私には関係のない家だった。
そんなことを考えている間も、柚希は私の図面をめくっていた。
「詩織のこのプラン、すごくいいね。でも、ちょっとクールすぎるかな。私はもう少し温かみのある雰囲気が好き」
「じゃあ、柚希の好みに合わせて、もう1案作ってくれ」
景吾は当然のように続けた。
「プロなんだから、直すのも早いだろ。3日あればできるよな?」
私は柚希の手元から図面を取り返した。
「これは自分の家のために作ったプラン。あなたたちに使っていいなんて、一度も言ってないけど」
景吾は露骨に顔をしかめた。
「どうせもう使わないんだろ。持ってたって仕方ないじゃないか」
私は何も言わなかった。窓から差し込む陽射しがやけに白く、目に刺さった。
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