見間違えられた双子第3話
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颯真の言葉はあまりにも軽く、その軽さがかえって澪の胸に重く沈んだ。
澪は奥歯を噛みしめる。
「でもあの日、私は大学の図書館にいるって、ちゃんと話したよね?」
問いかける澪の頬を、颯真は宥めるように折った指の背でそっと撫でた。
「急だったんだよ。お前かもしれないと思ったら焦って、そこまで頭が回らなかった。あとで玲奈だって分かったけど、今さら言い直すのも気が引けたし。ほら、実の姉だろ?もう必要なことは俺が済ませたんだから、どっちだっていいじゃないか」
わずかに間を置き、さらに声を和らげる。
「心配するな。お前に影響が出るようなことにはしてないから」
澪は思わず笑いそうになった。
この採用のためにどれだけ時間と労力を費やしたかも、それが澪にとってどれほど大切なものかも、颯真は知っている。それでも彼は、玲奈をかばうことを選んだ。
表情の変化に気づいた颯真は、今度は澪の肩を抱き寄せる。
「もういいだろ。こんなことで大騒ぎするなよ。仕事が1つ駄目になったくらいで、俺がお前を養えないとでも思ってるのか?」
澪はひとつ深く息を吐くと、その手を肩から静かに払った。颯真を見ないまま、踵を返す。
「澪――」
呼び止める声を背に、歩みは緩めなかった。ポケットのスマホが何度か震えても、そのままにする。
2つ先の通りへ出る頃には、胸の奥で荒れていたものも、ようやく少しだけ静まっていた。そこでタクシーを拾い、法律事務所へ向かう。
必要な委任手続きを済ませ、不服申立てに必要な証拠の整理と提出は弁護士に任せた。結果が出るまでには時間がかかる。今回の採用に間に合わないことは、もう分かっていた。
それでも、玲奈が起こした事故の責任まで、自分の名前に残すわけにはいかない。
事務所を出てスマホを開く。颯真から届いていた何通ものメッセージには触れず、連絡先から1つの番号を選んだ。
呼び出し音が2度鳴り、受話口から聞こえてきたのは、落ち着いた年配の女性の声だった。
「当ててみましょうか。やっと気が変わって、こちらへ来る気になったのね?」
声の主は、以前から澪を自分の学生にと声をかけていた久我由紀子(くが ゆきこ)教授だった。
喉がかすかに詰まる。
「先生。以前お声をかけていただいた件……まだ、間に合いますか?」
電話の向こうで、由紀子が笑った。
「もちろん。前は、恋人のために国内に残るから、進学はしないって言っていたでしょう?」
澪は目を伏せた。
「もう、恋人はいません」
受話口の向こうが一拍だけ静まり、やがて穏やかな声が戻ってくる。
「手放したほうがいい縁なら、早く手放しなさい。そうすれば、もっと先へ進めるわ。必要な書類の一覧を送るから、すぐに準備して」
通話を終えると、澪は大学へ戻った。成績証明書、推薦状、志望理由書を1つずつ確認しながら、必要な書類を揃えていく。
それから2、3日は準備に追われ、すべてを提出し終えてようやくひと息ついた頃、同級生から集まりへの誘いが届いた。
卒業を控えた時期だけに、こうした誘いは珍しくない。普段の澪なら、賑やかな席は好きではないと断っていただろう。
けれど今回は、少し考えた末に短く返信した。
【場所、送って】
玲奈と見間違えられたことで、また何かを背負わされるのはもう御免だった。
だから髪も服も、姉とははっきり違うものにした。できるだけ多くの人の前に出て、自分が「藤宮澪」だと覚えてもらう。その必要が、今の澪にはあった。
午後8時。個室の扉を開けた途端、笑い声と音楽が一気に押し寄せる。
真っ先に気づいた同級生が、目を輝かせた。
「澪?その髪、すごく似合ってる!」
「こうして見ると、玲奈より澪のほうがきれいかも。前はずっと地味な格好だったから、もったいなかったよね」
澪は微笑んで返そうとした。
けれど、その前に視線がソファの一角で止まる。
颯真がいた。
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