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見間違えられた双子第3話

この話は約1557字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。

颯真の言葉はあまりにも軽く、その軽さがかえって澪の胸に重く沈んだ。

澪は奥歯を噛みしめる。

「でもあの日、私は大学の図書館にいるって、ちゃんと話したよね?」

問いかける澪の頬を、颯真は宥めるように折った指の背でそっと撫でた。

「急だったんだよ。お前かもしれないと思ったら焦って、そこまで頭が回らなかった。あとで玲奈だって分かったけど、今さら言い直すのも気が引けたし。ほら、実の姉だろ?もう必要なことは俺が済ませたんだから、どっちだっていいじゃないか」

わずかに間を置き、さらに声を和らげる。

「心配するな。お前に影響が出るようなことにはしてないから」

澪は思わず笑いそうになった。

この採用のためにどれだけ時間と労力を費やしたかも、それが澪にとってどれほど大切なものかも、颯真は知っている。それでも彼は、玲奈をかばうことを選んだ。

表情の変化に気づいた颯真は、今度は澪の肩を抱き寄せる。

「もういいだろ。こんなことで大騒ぎするなよ。仕事が1つ駄目になったくらいで、俺がお前を養えないとでも思ってるのか?」

澪はひとつ深く息を吐くと、その手を肩から静かに払った。颯真を見ないまま、踵を返す。

「澪――」

呼び止める声を背に、歩みは緩めなかった。ポケットのスマホが何度か震えても、そのままにする。

2つ先の通りへ出る頃には、胸の奥で荒れていたものも、ようやく少しだけ静まっていた。そこでタクシーを拾い、法律事務所へ向かう。

必要な委任手続きを済ませ、不服申立てに必要な証拠の整理と提出は弁護士に任せた。結果が出るまでには時間がかかる。今回の採用に間に合わないことは、もう分かっていた。

それでも、玲奈が起こした事故の責任まで、自分の名前に残すわけにはいかない。

事務所を出てスマホを開く。颯真から届いていた何通ものメッセージには触れず、連絡先から1つの番号を選んだ。

呼び出し音が2度鳴り、受話口から聞こえてきたのは、落ち着いた年配の女性の声だった。

「当ててみましょうか。やっと気が変わって、こちらへ来る気になったのね?」

声の主は、以前から澪を自分の学生にと声をかけていた久我由紀子(くが ゆきこ)教授だった。

喉がかすかに詰まる。

「先生。以前お声をかけていただいた件……まだ、間に合いますか?」

電話の向こうで、由紀子が笑った。

「もちろん。前は、恋人のために国内に残るから、進学はしないって言っていたでしょう?」

澪は目を伏せた。

「もう、恋人はいません」

受話口の向こうが一拍だけ静まり、やがて穏やかな声が戻ってくる。

「手放したほうがいい縁なら、早く手放しなさい。そうすれば、もっと先へ進めるわ。必要な書類の一覧を送るから、すぐに準備して」

通話を終えると、澪は大学へ戻った。成績証明書、推薦状、志望理由書を1つずつ確認しながら、必要な書類を揃えていく。

それから2、3日は準備に追われ、すべてを提出し終えてようやくひと息ついた頃、同級生から集まりへの誘いが届いた。

卒業を控えた時期だけに、こうした誘いは珍しくない。普段の澪なら、賑やかな席は好きではないと断っていただろう。

けれど今回は、少し考えた末に短く返信した。

【場所、送って】

玲奈と見間違えられたことで、また何かを背負わされるのはもう御免だった。

だから髪も服も、姉とははっきり違うものにした。できるだけ多くの人の前に出て、自分が「藤宮澪」だと覚えてもらう。その必要が、今の澪にはあった。

午後8時。個室の扉を開けた途端、笑い声と音楽が一気に押し寄せる。

真っ先に気づいた同級生が、目を輝かせた。

「澪?その髪、すごく似合ってる!」

「こうして見ると、玲奈より澪のほうがきれいかも。前はずっと地味な格好だったから、もったいなかったよね」

澪は微笑んで返そうとした。

けれど、その前に視線がソファの一角で止まる。

颯真がいた。

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