裏切り局長の夫を捨て、天才物理学者へ第2話
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佳奈は静かな口調で、しかし揺るぎない決意を込めて言った。「ありがとうございます。指定された時間通りに必ずお伺いします」
「ですが、藤堂さん」受話器の向こうの声が改まった。
「ご存知の通り、このプロジェクトは非常に特殊です。一度参加すれば、直ちに機密扱いとなるため、基地に長期間駐留して外界との連絡を絶たねばなりません。短くて3年や5年、長ければ……10年、あるいはそれ以上になる可能性もあります。ご家族、特にご主人やお子さんのご理解は……」
「ご心配には及びません。私の夢は、国の科学技術の発展に貢献することです。家族のことは……すでに手配を済ませています」
佳奈は生まれ変わったその初日に、すでに離婚届を提出していたのだ。
離婚の理由も十分で、法的手続きも踏んでいた。
相手はホッとしたようだった。「分かりました!藤堂さん、あなたのその覚悟と決意、本当に心強いです!月末に専用車でお迎えに上がります。詳細な日時と場所は改めてご連絡しますので、万全の準備を整えておいてください!」
「はい」
通話を切ると、佳奈は長く背負っていた重荷を下ろしたように、小さく息を吐いた。
自分自身で経験していなければ、生まれ変わりなどという出来事を、佳奈は絶対に信じなかっただろう。
だが、神様がもう一度やり直すチャンスを与えてくれた以上、この人生は自分自身のためだけに生きると決めていた。
前世で、彼女と慎吾は上層部の紹介でお見合いをした。
それ以前から慎吾の噂は聞いていた。若くして、凛々しく勇敢な彼は、数え切れないほどの女性たちの憧れの的だった。
当時の自分は気にも留めておらず、どうせ大げさな噂にすぎないだろうと思っていた。
だが、お見合いの当日、待ち合わせの公園に早く着いた佳奈は、酔っ払いに絡まれてしまった。
慌てる佳奈の前に、制服を着た背の高い男が足早に近づいてきて、見事な身のこなしで、あっという間に酔っ払いを押さえ込んだ。
慎吾が振り返ると、肩に降り注ぐ陽の光が、その部隊章をまばゆく照らしていた。
「怪我はないか?申し遅れたが、俺は藤堂慎吾、今日の見合い相手だ」
その瞬間、佳奈は自分の心臓が激しく鼓動するのを、はっきりと感じた。
慎吾はあまりにもまばゆく、まるで太陽のように直視できないほどだったが、それでも強く惹きつけられた。
しかしその日の、慎吾は佳奈に対して礼儀正しい一方でどこかよそよそしさがあり、その後も一切連絡はなかった。
佳奈はてっきり自分が気に入られなかったのだと思い込み、長い間落ち込んでいた。
ところがしばらく経った後、慎吾が再び突然現れ、佳奈の両親に彼女との結婚を直接申し込んできた。
佳奈は舞い上がるほど喜び、幸福に頭がくらくらしたが、彼がなぜ急に態度を変えたのか深く考えることもせず、ただうれしさを胸に彼に嫁いだ。
結婚後、二人は互いを尊重し合いながら、穏やかに暮らしていた。
彼は仕事が忙しく、家にいないことも多かったが、彼女は不満ひとつ言わず、家庭の事をしっかりとこなした。
やがて息子の樹が生まれると、佳奈はすべてを家庭と子供に注ぎ込んだ。
そんなある日、佳奈は国立先端物理学研究所が外部から研究員を募集するという話を耳にした。それは彼女が学生時代から胸に秘めていた夢だった。彼女は密かに応募し、空いた時間をすべて受験のための勉強に費やした。
ところがある日、佳奈は勉強に没頭しすぎていたあまり、4歳の樹が一人で外に遊びに出ていったことに気づかず、樹は路地で自転車とぶつかり、足を骨折してしまったのだ。
病院に駆けつけた慎吾は激怒し、無責任だと佳奈を責め立て、「研究所に入るか、離婚するか」の二択を迫った。
佳奈は罪悪感に押し潰されそうになった。
その時、研究所から合格の知らせを告げる電話がかかってきたのだ。
電話の向こうの興奮した声を聞きながら、泣き叫ぶ息子と怒りに満ちた夫を見て、佳奈は震える声で辞退を申し出た。
それ以来、佳奈は専業主婦として生き、夫に尽くし、息子を育てた。二人がそれぞれの分野で輝いているのを見守りながら、彼女自身は誰にも知られることなく、静かに枯れていった。
やがて佳奈が重病で命の瀬戸際に立たされたとき、慎吾と大人になった息子の樹は、目を真っ赤にしながら、彼女に真実を打ち明け、謝罪したのだ。
そのとき佳奈は、あの事故は慎吾と樹が仕組んだ芝居だったのだと、初めて知った。
理由はただ一つで、当時、慎吾の初恋の相手である理央もその研究所に入りたがっていたが、採用枠は一つしかなかったからだ。
慎吾と理央は、佳奈が子供を最優先する性格だと知っており、彼女の心のやさしさを利用したのだ。
その時、佳奈はさらなる真実を知った。あの時、慎吾がお見合いを承諾し、自ら結婚を申し込んできたのは、藤堂家が理央の命を盾にして彼を脅迫したからだった。理央は子供が産めない体だったため、藤堂家は理央が慎吾に嫁ぐことを絶対に認めなかった。
慎吾は理央を守るために、やむを得ず佳奈との結婚を選んだのだ。
自分の人生は、嘘と搾取の中でもてあそばれ続け、まるで救いようのない馬鹿のようだった。
最期の時、佳奈が見たのは、テレビの中で授賞式のステージに立ち、まばゆい光の中でインタビューを受けている理央の姿だった。その美しく誇らしげな顔には、成功者の自信が満ち溢れていた。
一方で佳奈は、冷え切った病室で痩せ衰え、まさに命の灯が尽きようとしていた。
絶望と怒りが胸を満たし、佳奈は血を吐くと、意識を失い、二度と目を覚ますことはなかった。
そして、再び目を開けたとき――彼女は生まれ変わっていた。
すべてはまだ間に合う。
この人生は自分のためだけに生きる。
奪われた夢を取り戻し、本来自分が立つべきだったステージに立つために。
慎吾も、樹も、そしてこの冷え切った家庭も――これからは、もう何の関係もない。
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