裏切り夫には、身代わりを用意した第2話
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その夜、恵美は海斗を待たずに、先にシャワーを浴びて寝てしまった。
次の日の朝、隣のシーツが少し乱れているのに気づいた。スマホにもメッセージが届いている。
【家に書類を忘れちゃったんだ。起きたらでいいから、会社まで持ってきてもらえるかな?】
恵美はそれを読むと、無表情で【わかった】とだけ返信した。身支度を済ませ、言われたものを持って家を出る。
恵美は海斗の会社にあまり顔を出さない。だが、長く勤めている社員はだいたい恵美のことを知っていたから、誰も彼女の出入りを咎めたりはしない。
恵美は書類を抱えて、海斗のオフィスがあるフロアへ向かった。エレベーターを降りると、社員たちが一人の女性を囲んで騒いでいるのが目に入った。
海斗に新しいお気に入りの女がいる、という噂は恵美の耳にも入っていたが、実際にその女に会うのは初めてだった。
今日、ようやくその女を目の前にして、恵美は驚いた。その顔には、見覚えがありすぎる――
なぜなら、目の前にいる女は、20歳の頃の自分にそっくりだったから。
「胡桃さん、彼氏がお金持ちだって自慢してたのに、なんでここで働いてるの?もしかして、嘘だったとか?」
「嘘なわけないでしょ!この服もバッグも全部彼氏が買ってくれたんだから!この時計なんて、4000万円もするんだよ?彼がどれだけ私を大事にしてくれてるかなんて、どうせあなたたちには分からないんだから!」
森田胡桃(もりた くるみ)はカッとなり、唇をとがらせて必死に言い返していた。だが、反対に「どうせ全部偽物でしょ」と笑われる始末だった。
まだ学生気分が抜けない、世間知らずな女の子。恵美は冷静になると、相手の服装をじっくりと観察した。確かに全身ブランド品だった。
これだけ気前よくお金を使って、会社にまで置いておくなんて、海斗はよっぽどこの女のことが好きなんだろう。
恵美は、目の奥がツンとするのを感じた。書類を誰かに預けて帰ろうとした、その時だ。向こうから、また大きな声が聞こえてきた。
自分が嘘つきではないと証明するため、胡桃は皆が見守る中、得意げにネックレスを取り出した。
「見た?これはあの噂の神秘のネックレス。偽物なんかじゃないから。彼氏がわざわざ私のために、国を超えてまで手に入れに行ってくれたの。彼は、私が喜ぶなら、なんだってしてくれるんだから」
彼女の首につけられたネックレスを見た瞬間、恵美は全身の血の気が引くのを感じた。
全く同じ模様に、全く同じ素材。まるで海斗の愛情が、そっくりそのまま2つに分けられて、別々の人間に贈られたみたいだ。
さっきまで疑いの目を向けていた人たちも、これには思わず顔を見合わせた。
「こんな高いプレゼントを気前よくくれるなんて。うちの社長以外で、そんな羽振りのいい人、初めて見たかも」
「社長みたいに、一途で素敵な人が他にもいたなんてね。うらやましいな……ねえ、胡桃さん!彼氏がそんなにすごい人なら、今度私たちにも会わせてよ」
その後の会話は、もう恵美の耳には届かなかった。恵美は一番近くにいた社員に書類を押し付けると、急いで会社を後にした。
あの場所も、そこにいる人間たちも、一秒でもあの会社の空気を吸うことすら耐えられなかった。
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