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裏切り夫には、身代わりを用意した第3話

この話は約1894字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。

しかし、恵美が会社を出たとたん、海斗が追いかけてきた。

彼は焦った声で、どうして顔も見せずに帰ろうとするんだと聞いてきた。まるで、1日会えなかったのが、すごく寂しかったとでも言うように。

恵美は冷めた目で海斗を見上げる。「別に。忙しそうだったから、邪魔しちゃ悪いと思って」

「仕事なんて、お前より大事なわけないだろ?さっき、午後の会議は全部キャンセルしてきたんだ。今日は一日中、お前と一緒に過ごすって決めたからな。

そうだ。昨日のプレゼント、気に入らなかったんだろ?代わりに新しいアクセサリーを予約しておいたから、今から見に行こうよ」

プレゼントと聞いて、恵美の胸にまた鈍い痛みが走った。あの、全く同じネックレスのことを思い出してしまう。

恵美は気持ちが乗らなかったのだが、断る前に、海斗によって車に乗せられてしまった。

車は慣れた道順で路地に入り、一軒のジュエリーショップの前に停まった。

店員は海斗の顔を見るなり、待ってましたとばかりに金庫からアクセサリー一式を取り出す。

1億8000万円の値札がついたネックレスが、海斗の合図で恵美の首にかけられた。

「小山社長は本当にお目が高いですね!こちらは今年の最新作でして、一点物のデザインなので、誰とも被ることがない、世界でたった一つのものなんです」

海斗はアクセサリーに詳しくなかったが、「世界でたった一つ」という言葉に、ぱっと顔を輝かせた。

「恵美、これにしよう。お前が俺にとって、永遠にかけがえのないたった一人の存在だってことを、みんなに知らしめたいんだ。お前は、最高のものを持たなくっちゃ!」

海斗の突然の告白に、周りの店員たちはうっとりとため息をついた。結婚して何年も経つのに、こんなに熱々だなんて、と羨ましがっている。

恵美は目を伏せ、自分の首にゆっくりとつけられていくネックレスを見つめながら、「うん」とだけ答えた。

「なんでもいい。あなたが決めて」

どうせこんなもの、最後には全部彼に返すんだから。

昔の海斗なら、恵美のちょっとした変化にもすぐに気づいたはずだ。

だが今の彼は、繰り返し光るスマホの画面に気を取られている。

ちらっと見えただけだったが、恵美はそこに表示された名前を見逃さなかった。

胡桃からだ。

「恵美……ごめん。会社から連絡があって。契約のことで急ぎらしいんだ。ちょっと席を外すよ」

海斗は気まずそうな顔をしていたが、スマホの画面は無意識の中で隠されていた。

恵美は何も言わず、海斗の行動を見つめていた。彼がわざとらしく仕事の話を二言三言口にした後、店の隅っこに移動しても、ただ黙って見ていた。

海斗は確かに慎重だった。だが、彼は忘れている。昔は、恵美の前で何かを隠したり、コソコソしたりすることなんて全くなかったということを。

「本当に幸せ者ですねえ。たしか先日も、小山社長は指輪をオーダーメイドされたばかりなのに、また新しいジュエリーなんて。私たち、羨ましくて仕方がないですよ!

アクセサリーはお包みしました。お届け先は、前回と同じご住所でよろしかったでしょうか?」

店員はにこやかに近づいてきた。しかし、恵美が不思議そうな顔をしているのを見て、ハッとした。

「指輪……ですか?」

場の空気が一瞬で凍りついた。別の店員がすぐさま割って入ってきて、笑顔で失言した店員をその場から引き離す。

「たくさんのお客さんがいらっしゃるものですから、うっかり他の方と勘違いしてしまったようです。大変申し訳ありませんでした。こちらにお届け先をご記入いただけますか?」

海斗が浮気をしていることは知っていた。それでも、恵美は伝票にサインをする手の震えを、どうしても抑えることはできなかった。

まさか、あの二人がもう、そんな段階まで進んでいたなんて。

じゃあ、かつて指輪に込めた結婚の誓いは、一体なんだったのだろう?なんだか、笑えてくる。

恵美が黙って伝票を書き終えると、二人の店員は品物の準備を口実に、すぐにカウンターの後ろへと引っ込んでしまった。

話し声は小さかったが、恵美の耳に入るには、十分な大きさだった。

「もう!何余計なこと言ってるのよ!」

「だって、ニュースで見る小山社長はすごく一途な人だったから……まさか、そんなことがあるなんて……」

「はぁ」

もう一人の店員は、そんなゴタゴタは見慣れているとでもいうように、あっさりと言った。

「あんなお金持ちで地位もある男の人が、外に愛人の一人や二人囲ってるなんて、当たり前のことでしょ?あなたももう大人なんだから、そんなおとぎ話みたいなこと、信じるのはやめなよね」

確かにそうだ。もういい大人なのに、どうして、まだお伽話など信じていたのだろう。

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