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裏切り夫には、身代わりを用意した第1話

この話は約2502字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。

クローン人形店を出ると、霧雨が降っていた。

小山恵美(こやま えみ)は帰り際に店員から言われたことを思い出す。

「小山さん、15日もすれば中央制御システムによる行動記録が完了し、身代わりの人形が自動で生成されます。

決まりで、身代わりの人形と同じ場所にいることはできません。ですから、この期間に必ずお引越しをお済ませください」

15日か……

* * *

クローン人形店を出ると、霧雨が降っていた。

小山恵美(こやま えみ)は帰り際に店員から言われたことを思い出す。

「小山さん、15日もすれば中央制御システムによる行動記録が完了し、身代わりの人形が自動で生成されます。

決まりで、身代わりの人形と同じ場所にいることはできません。ですから、この期間に必ずお引越しをお済ませください」

15日か……

恵美は、今のところ監視装置としか思えないそれを、そっとカバンにしまいながら考えた。

まあ、15日もあれば、この深津市での生活にけりをつけるには十分な時間だろう。

帰り道、スマホがひっきりなしに鳴っていた。着信もメッセージも、すべて同じ人物から……それは、小山海斗(こやま かいと)からだった。

一緒になってから10年間、結婚してからは7年になる夫。

用件はどれも同じ。結婚7周年目の記念日だから早く帰ってこい、プレゼントがある、というものだった。

恵美は適当に返事をすると、無表情でスマホをカバンに戻した。海斗が言うサプライズになんて、まったく興味が持てなかった。

二人の関係はもう終わりかけているのに、何を今さら期待するというのだろう?

重い足取りで家に帰ると、ドアを開けた途端、海斗に強く抱きしめられた。

「遅かったな。心配で、ちょうど迎えに行こうと思っていたところだったんだよ。

恵美、結婚7周年だな。プレゼントも用意してあるんだ。気に入ってくれると嬉しい」

恵美が返事をするより早く、海斗はまるで手品のように、手のひらから一つのネックレスを取り出した。

それはある国のもので、恵美も知っていた。

このお守りは、お金では買えない。外部には公開されていない、ある試練を乗り越えたものだけが、授けてもらえるという神秘の力が宿ったネックレスだった。

昔、誰かがあれを自分のために手に入れてくれたら、きっと感動して泣いてしまう、と冗談で話したこともあった。

だが……

そんなネックレスが、今になって海斗から送られるなんて。恵美は、ただただ滑稽にしか思えなかった。

しかし、海斗は彼女の気持ちの変化に気づくことなく、愛情に満ちた瞳でそのネックレスを恵美の首にかけた。そして、愛する恵美が一生幸せでいられますようにと、祈るようにつぶやく。

その言葉はとても真剣で、本当に恵美を心から大切に思ってくれているかのようだった。

しかし、恵美の目はごまかせない。鏡越しには、海斗のシャツの襟元に隠された、無数のキスマークが見えてしまっているのだ。

結婚記念日のために、わざわざ大変な思いをしてネックレスを手に入れてくれた一方で、その合間には、別の女とベッドでいちゃついていたなんて。

そう思った瞬間、吐き気がこみ上げてきた。とっくに冷え切っていた心も、完全に灰になる。

恵美は、表情を変えないまま海斗の手をそっと制した。

「いらない。好きじゃないから」

ネックレスも、そして目の前にいる海斗のことも、もう好きではなかった。

その言葉に、海斗は少し驚いて、どうしていいか分からないという顔をした。

海斗は恵美がそんな反応をするとは思ってもみなかったのだ。だが、恵美を責めることはせずに、ただ優しく笑いかけ、ダイニングテーブルへと促す。

「また別のプレゼントを改めて探しておくからな」

その食事は、まったく味がしなかった。

海斗は甲斐甲斐しく恵美のお皿に料理をよそってくれるが、彼のスマホは場違いなほど何度も光っていた。

困ったような顔をした海斗は、何度かためらった末に、とうとう画面を開いた。

すると、彼の喉仏がごくりと不自然に動いた。動揺したのか、手元のお皿までひっくり返してしまったのだ。

「ごめん、恵美。今日は大切な日だからずっと一緒にいたかったんだけど、会社で急用ができちゃったんだ。でも、食事はそのまま続けてて。すぐに戻ってくるから」

恵美は顔を上げて海斗を見つめ、黙ってうなずいた。

車のエンジン音が、まるで焦っているかのように庭から遠ざかっていくのを聞きながら、恵美は自分をあざ笑うかのように、ふっと声を漏らした。

海斗は自分に見えないように、絶妙な角度でメッセージを確認していた。

だが、海斗は気づいていない。彼の眼鏡のレンズが、スマホの画面を反射してしまうということを。

海斗が見ていたのは会社の連絡なんかではない。肌が露わになった女の自撮り写真だった。

恵美は鼻をすすり、海斗に関する記憶を頭から追い出そうとした。

しかし、スマホを開けば、嫌でも彼のニュースが目に飛び込んでくる――

【#小山グループ社長、愛する妻のため、極秘の試練を乗り越え神秘のネックレスを手に入れる】

こんな迷信的なものなんて信じない人だったはずなのに。コメント欄は称賛と羨望の声であふれていた。

【小山社長って、本当に奥さん思いだよね!確か、奥さんが心配するからって、自分の秘書には絶対に女性をつけないって言ってた気がする】

【前に、奥さんが交通事故に遭った時もすごかったらしいよ。小山社長は気が動転しちゃって、何日も寝ずに病室の前で泣きながら奥さんを待ってたんだって。

奥さんがもう子供を産めない体になったって分かっても、文句ひとつ言わずに『お前が生きてさえいてくれれば、それでいい』って。はあ……お金持ちでイケメンで一途なんて、奥さんは前世で国でも救ったのかな?私もこんな恋がしたい……】

恵美は黙ったまま、コメントに引き込まれるように記憶の底へと沈んでいった。

あの時の、海斗の泣きはらした目も、心から心配して怯えていた表情も、全部はっきりと覚えている。

しかし、鮮明に思い出すほど、胸が締め付けられて苦しくなる。

愛に何の意味があるというのだろう?

自分に「世界で一番愛してる」と言ってくれた人でさえ、結局は裏切って、他の女のベッドへ行くのだから……

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