裏切りの果て第2話
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酒席に向かう車内。
私は助手席に座り、鳴海と美咲は後部座席にいた。
美咲は道中ずっと甘えた声を出し続けていて、その声は耳にまとわりつくほど、くどく甘かった。
「社長、私お酒飲みたくない……高橋社長って、女性に手を出すって聞いたの」
鳴海は彼女の鼻先を愛おしそうにくすぐった。
「何を恐れてる?知玖がいるじゃないか。
彼女は酒に強いし、ベテランだから、こんな場面も平気さ。
君はただ、美しくして契約にサインするだけでいい」
私は窓の外を流れる街並みを見つめ、胃の中がむかついた。
かつて、私も彼に守られていた女の子だった。
創業初期の五年前、うっかり顧客にきつい酒を一杯飲まされてしまった私を見て、鳴海はテーブルをひっくり返さんばかりに怒り、私を背負って、病院まで三キロも歩いた。
「もう二度と、君に少しの苦労もさせない」
そう言った彼だったのに――今、私を自分の手で地獄に突き落としたのだ、新しい女の笑顔を引き出すためだけに。
車がカーブを曲がるとき、私のバッグが後部座席のフロアマットに落ちた。
振り返って拾おうとした――
動作が止まった。
後部座席の隅に、開封されたコンドームのパッケージが静かに置かれている。
そして、破れた肌色のストッキングが一足。
それは、私の予備のストッキングで、ずっと車の収納に入れてあったものだった。
鳴海は私の視線を追い、顔には少しも慌てた様子がない。
むしろ挑発的な笑みを浮かべた。
「ああ、昨日ちょっと急いで、借りただけだ。
普段、君はこんなセクシーなものは履かないし、美咲に有効活用してもらえばいいじゃん」
美咲は口を押さえて笑い、目は自慢げに輝いている。
「あら、知玖さん、ごめんね、次は新しいの買ってね」
私は怒らずに笑った。
破れたストッキングを拾い、窓を開けて外に投げ捨てる。
「いらない。
汚れたものは、私は絶対に残さない」
鳴海の顔色が変わった。私の言葉に含みがあると気づき、怒りそうになったその瞬間、車はすでにホテルの前に到着していた。
酒席で、高橋はやはり老練な色魔だった。
油ぎった手が私の体の上を這い回る。
「知玖さんは業界の看板ですよ、この肌、三十歳とは思えませんね」
鳴海は上座に座り、全く気にかけない様子。
彼は美咲のために一生懸命料理を取り分けている。
高橋が私のスカートの中に手を伸ばそうとした瞬間でも、彼は笑いながらグラスを掲げた。
「高橋社長、知玖は誠意をもって参りました。
この酒、彼女が一気飲んで、高橋社長に敬意を表します」
満杯の度数の高い酒が私の前に置かれる。
私は鳴海を見つめる。
彼は笑っているが、瞳には冷たさと警告が宿っている。
まるで――「飲め、そうすれば君の母さんの命金が守られる」と言うように。
私はグラスを取り、一気に飲み干した。
辛い液体が喉を焼き通る――まるでナイフを呑み込んだような痛み。
高橋は大声で歓声を上げ、その隙に私の腰に手を回す。
鳴海は満足げに頷き、美咲に向かって言った。
「よく見て、これがプロの素養だ」
私は胃の激痛をこらえ、高橋の手を押しのける。
「ちょっとお手洗いに行ってきます」
鉄人でも、さすがにもう限界だった。
だが、私は吐きに行くわけではない。
トイレの個室に入り、急いでスマホを取り出し、ヘッドハンターにメッセージを送る。
【入社を承諾します。今夜契約書にサインします】
そして、さっき録音した全ての音声を保存した。
鳴海が社員に無理やり接待を強いている証拠だ。
それを終え、冷たい水で顔を洗い、鏡に映る蒼白な自分を見る。
秋山知玖(あきやま ともく)――
こんな日々は、もう終わりだ。
だが、個室に戻った時、私は想像もしなかった光景を目にした。
私のバッグは床に投げ捨てられ、スマホは震えている。
画面には「東川病院救命救急センター」と表示されていた。
美咲は私のスマホを手に取り、指を赤い通話終了ボタンの上にかざしている。
私に気づくと、口元に毒々しい笑みを浮かべた。
そして――私の目の前で、思いっきり、押した。
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