裏切りの果て第1話
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私が退職届を提出した時――
佐藤鳴海(さとう なるみ)は、新入りインターンの女の子の肩を抱きながら、大型契約を獲得する方法を教えている。
彼は教え終えると、やっとだらけた目つきで私の退職届をちらりと見た。
「今度はまた何を騒ぐんだ、俺のトップセールス様?」
私は静かに言った。
「会社の顧客リストは全部引き継ぎました。今四半期分の歩合もボーナスも、全部受け取りません。経理部に清算を依頼し、会社に帰属させるようにしておきました」
彼は二秒ほど固まり、それでもまだ私が駆け引きしてると思ったらしい。
「……金、いらないって?
じゃあ何が欲しい?美咲をクビにしろって?それとも株よこせって?」
そう言って、コーヒーを差し出してきた。
きっとまた、いつものようにこう来ると思ってるんだ。
――チームを守るために泣き寝入りして、悔しい思いを噛みしめながら、今日も必死に働く私を。
だが、私はただ首を振った。
今の私は、ただ彼に会社が潰れていくのを見届けさせたいだけだ。
* * *
私が退職届を提出した時――
佐藤鳴海(さとう なるみ)は、新入りインターンの女の子の肩を抱きながら、大型契約を獲得する方法を教えている。
彼は教え終えると、やっとだらけた目つきで私の退職届をちらりと見た。
「今度はまた何を騒ぐんだ、俺のトップセールス様?」
私は静かに言った。
「会社の顧客リストは全部引き継ぎました。今四半期分の歩合もボーナスも、全部受け取りません。経理部に清算を依頼し、会社に帰属させるようにしておきました」
彼は二秒ほど固まり、それでもまだ私が駆け引きしてると思ったらしい。
「……金、いらないって?
じゃあ何が欲しい?美咲をクビにしろって?それとも株よこせって?」
そう言って、コーヒーを差し出してきた。
きっとまた、いつものようにこう来ると思ってるんだ。
――チームを守るために泣き寝入りして、悔しい思いを噛みしめながら、今日も必死に働く私を。
だが、私はただ首を振った。
今の私は、ただ彼に会社が潰れていくのを見届けさせたいだけだ。
「知玖さん」
篠原美咲(しのはら みさき)は、甘ったるく口を挟み、手首の限定バッグを揺らす。
それは、私が前の四半期のボーナスで買ったものだった。
「社長も言ってたでしょ、会社は知玖さんなしでは回らないって。でも、あなた一人に全部任せるのは危機感が足りないと思うの。私も知玖さんを手伝いたいなって」
鳴海は彼女の手を撫で、賞賛の目を向けた。
「ほら、美咲は物分かりがいいだろう。
知玖、ふざけるな。今夜、高橋社長が指名で呼んでるぞ。
美咲を連れて経験を積ませてやれ。ついでにこの契約も取らせろ、彼女の実績にしてやる。歩合は俺が後で内々に渡す」
またこうだ。
以前なら、チームを守るため、共同で創り上げたこの会社を大切にするため、私はいつも我慢してきた。
しかし今回、私はそのコーヒーを受け取らない。
「行きません」
鳴海の手は空中で止まり、顔色が一瞬で暗くなる。
「行かないのか?」
彼は冷笑しながら、スマホを揺らす。
「知玖、お母さんはまだICUにいるだろう?
今月の医療費の承認書も、まだ俺の手元に押さえてるぜ。
経理部に聞いたら、俺がサインしないと、この金は振り込めない。
こんなタイミングで俺に反抗するつもりか?」
私はじっと、彼の得意げな顔を見据えている。
心臓が大きな手でぎゅっと握られるような感覚。
それは私の弱点であり、私が必死に働く唯一の原動力でもあった。
私が黙っているのを見て、鳴海は勝ち誇った笑みを浮かべ、また私を掌握したと思ったらしい。
「それでいいんだよ」
彼は私の退職届を、そのままシュレッダーに投げ込んだ。
耳をつんざく紙の破砕音とともに、立ち上がってスーツを整えた。
「服を着替えろ。地味な格好で来るなよ。
今夜、高橋社長を楽しませてこい。お母さんの医療費は、倍にしてやる」
私は深く息を吸い、爪を手のひらに食い込ませる。
「わかりました。行きます」
鳴海は満足そうに、美咲を抱き寄せて外へ出て行く。
「行こう、未来のトップセールス」
彼らの後ろ姿を見つめながら、私の目に残った最後の光は、完全に消えた。
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