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裏切られた妻、夫に愛人から平手打ちを受けさせられた痛み第2話

この話は約1768字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。

祖父は派手なことを好まなかった。

そのため、葬儀も彼の遺言通り、つつましく行われた。

弔問に訪れた客を一人で見送ったあと、私は静かに墓碑の文字を撫で、胸に込み上げる悲しみに耐えきれず、目を閉じた。

幼い頃、両親が事故で亡くなり、祖父がたった一人で私を育ててくれた。

誰もが羨むような環境と、惜しみない愛情を与えてくれた。

私だけではなかった。

かつての戦友の孫、千智までも引き取り、私と同様に育てた。

私たちは幼いころから一緒に育ち、やがて自然な形で恋人同士となった。

祖父にとって、私は唯一の孫娘だった。

彼の唯一の願いは、私が幸せになること。

私も、心からそう思っていた。

だからこそ、祖父を安心させたくて、たとえ千智が堂々と不倫をして、愛人を家に連れ込んだとしても、私は黙って耐えた。

表向きには円満な結婚生活の裏にひびが入っていると、祖父に悟られたくなかった。

重病になった祖父に、自分が全力で支えた相手が間違いだったなんて、決して思わせたくなかった。

だが今――

心が揺らぎ、胸の奥に広がる痛みに耐えていたとき、ふと林の中からすすり泣くような声が聞こえた。

ここは祖父が所有していた山だ。

人の出入りを嫌った祖父の意向で、立ち入ることが許されているのは家族だけだった。

なのに、なぜ知らない女性の泣き声が……?

不審に思い立ち上がり、数歩進んだところで、こんな光景を目にした。

乱れた服を身にまとった美桜と千智。

二人は身体を絡めるように抱き合っていたが、私に気づくと、はっとして動きを止めた。

美桜は顔を真っ青にして、すぐに彼から飛びのいた。

「なに見てんのよ、気持ち悪い!」

千智は慌てて自分の上着を取ると、美桜の脚にかけ、不快そうな顔で言った。

「尾行までしたのか?まじで恥も外聞もないんだな」

私は黙って二人を見つめたまま、体から力が抜けるのを感じた。

「ここは、じいさんの山よ。

勝手に私有地に入り込んでまで刺激を求めるのは、そっちでしょう?千智、私は尾行なんてしてない」

その言葉を聞いた途端、彼は鼻で軽く笑い、唇の端に皮肉な笑みを浮かべた。

「尾行じゃないって言い訳か?必死で俺と結婚しようとしてたくせに、今さら何様ぶってんだよ」

私は自分でも驚くほど平然と微笑んだ。

「たしかに、あなたのことが好きだった。でも、その気持ちを恥じる理由なんてない。

それに……結婚届は、あなたを無理やり役所に連れて行ったわけじゃないでしょう?」

そう言うと、もう何も言いたくなくなった。

ふらつきながら祖父の墓へ戻り、静かに、しかし深く数度頭を下げた。

「じいさん……私が不孝でした。

もう、じいさんが望んだように千智と一緒にはいられません」

その瞬間、山の風が強く吹きつけ、墓前に積もった枯葉を巻き上げ、小道の方向へと舞い上がった。

私はその風に導かれるように、歩き出した。

くねくねと続く山道の途中で、見覚えのある車を見つけた。

千智のスーパーカーが、私の車のすぐ横に停まっていた。

つまり彼は、私が先に山に来ていたことを知っていた。

それでも、美桜を連れてわざと山へやってきた。

すべては、あの日で恥をかいた美桜の「仕返し」のため。

車に乗り込もうとしたが、どうしてもエンジンがかからなかった。

外に出て調べていると、千智が美桜を背負って近づいてくるのが見えた。

美桜は頬を赤らめ、甘えるように体を揺らしていた。

私は目をそらしたが、彼は無表情で近づいて来た。

「車、動かないのか?

……仕方ない、俺が送ってやるよ。前に一緒に登ったとき、お前、ずっと足が痛いって文句言ってたよな……」

その言葉の途中で、美桜が背中で身をよじった。

「千智くん、どうしてこの女を?私に何をしたか、忘れたの?」

千智は無言で彼女を無視し、後部座席のドアを開けて私に乗れと促した。

私は一歩下がり、首を横に振った。

美桜が唇を吊り上げて笑みを浮かべ、千智は再び表情を冷ややかにした。

「花音、いい加減にしろ。乗らないなら勝手に歩け。お前に頼んでない」

私はただうなずき、何度も彼と一緒に歩いたことのある、この山道を一人で歩き出した。

その後ろから、彼の車がゆっくりとついてきた。

クラクションを何度も鳴らしながら、まるで私を嘲笑うようだった。

無視し続けたが、突然、彼の車がスピードを上げて私の前に回り込み、道を塞いだ。

そして、真っ青な顔で車から飛び出してきた――

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