裏切られた妻、夫に愛人から平手打ちを受けさせられた痛み第3話
この話は約1595字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。
「これ、お前が仕組んだのか!」
疲れ切っていた私は、目の前に突き出されたスマホを払いのけようとした。
だが、千智は荒い息をつきながら私の手を掴み、無理やり画面を見せつけた。
「新進女優・宮野美桜、伊藤グループ社長・伊藤千智とホテルに出入り」
そこには、親密に寄り添う二人の写真が映っていた。
コメント欄には非難の声が溢れていた。
【千智の奥さんって花音じゃなかった?美桜って見た目は純粋だけど、不倫女だったのか】
【最近やたらと仕事もらってると思ったら、スポンサーがいたのね】
【最低!新作映画、低評価つけてくる】
……
私は指を伸ばし、画面をスワイプしようとした。
そのとき、車の中から美桜が飛び出してきて、泣きながら私の前に走り寄った。
「花音さん、私と千智くんは本気で愛し合ってるの。どうしてこんなやり方で私を潰そうとするの?
私の将来を壊してもいいって思ってるの?でもせめて、千智くんの立場考えてあげてよ!暴露記事なんて出して、彼がどうなるか分かってるの?」
千智は美桜を優しく抱きしめ、彼女の涙をそっと拭った。
「美桜、心配ない。俺が必ず守るって言っただろ。
夜は山の風が冷たい。先に車に戻っておけ。俺が花音と話をつける」
美桜が車に乗り込み、ドアを閉めたのを確認すると、千智は冷たい目で私を見た。
「花音、記者に話したことを否定しろ。俺たちが結婚してなかったってはっきり言え。
必要があれば、世間にはお前が俺と美桜の関係を邪魔した『愛人』だったって説明しろ」
彼の長い指がスマホを握るたび、わずかに震えていた。
私はその手を見つめた。
かつて私の手をしっかりと握り、守ってくれたはずの手。
けれどもう、彼が私を愛していた頃の面影はどこにも残っていなかった。
しばらくして、自分の喉からしわがれた声が漏れた。
「そんな面倒なこと、必要ないよ、千智。
離婚すればいい。あなたが独身だったって言えば、もっと簡単になるでしょ?」
彼は一瞬唇を開き、じっと私の顔を見据えたまま、きっぱりと否定した。
「ダメだ」
――なぜ?
これこそ、彼がずっと望んでいたことじゃないのか。
問い返す前に、美桜が花のような笑顔で彼の腕に飛びついた。
「千智くん、やっと彼女が身を引いてくれたのね!
よかった……!これでもう、隠れたり我慢したりしなくていい!」
彼女は千智の首に腕を回し、全身を預けるようにぶら下がった。
千智のこわばった眉がふと緩み、美桜の髪を指で優しく撫でながら、ゆっくりとうなずいた。
「そういうことなら、お前が離婚協議書を用意しろ。あとで家に戻ってサインする」
私は最も信頼できる弁護士に頼み、最短で離婚協議書を作成した。
間もなく、千智が家に戻ってきた。
遅刻しなかったのは珍しかった。
それでも、彼が急いで来たのは、この離婚のためだった。
「このこと、おじいさんには言うな。お世話になってたから」
離婚協議書に目を通した彼は、簡単に一読しただけでペンを取り、署名しながら念を押してきた。
私は彼の達筆な署名を見つめながら、静かにうなずいた。
「もう、じいさんが知ることは永遠にないから」
その夜、千智はネット上で「結婚は誤報」と釈明し、同時に美桜との交際発表を行った。
彼は、美桜が世間から浴びた罵声を「償う」ため、ドローンのチームを手配し、夜空に二人の名前を浮かべて街を照らした。
その瞬間、世論は一変した。
かつて彼のそばにいた私は、いつのまにか「恥知らずな愛人」として、人々の口にのぼる「悪者」になっていた。
スマホが鳴り続け、届くのは目を覆いたくなるような罵詈雑言ばかり。
でも、もうどうでもいいと思った。
私はフライトの時間を確認しながら、最低限の荷物をまとめ、美桜が送ってきた親密な写真を定時送信にセットし、旅立ちの準備を整えた。
搭乗前、スマホの画面には何度も千智からのメッセージ通知が表示された。
私はそれを無視し、片手で荷物を預け、もう片方の手でスマホの電源を切った。
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