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英雄の恩返し第2話

この話は約1414字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。

家に帰ると、待っていたのは修羅場だった。リビングには両親と蓮が座っていた。空気は爆発寸前まで張り詰めている。

私が玄関に入った瞬間、湯呑みが耳元をかすめて飛び、壁に当たって粉々に砕け散った。

「今日のお前の態度はなんだ!誰の顔に泥を塗ったと思っている!」

父の怒号が鼓膜をびりびりと震わせる。

「死んだ兄の顔に泥を塗り、俺たち家族全員の顔に泥を塗ったんだぞ!」

蓮はすぐに立ち上がり、一言も発さずにしゃがみ込んだ。彼は黙々と、床に散らばった破片を一つひとつ拾い集め始めた。その動きはゆっくりと慎重で、まるで壊れた約束を拾い集めているようだった。

彼は顔を上げ、穏やかな声で父をなだめた。

「篠宮さん、怒らないでください。俺が悪いんです。

こんな時にあんな話をして、悦子さんにプレッシャーをかけてしまいました」

彼がそうやって配慮を見せれば見せるほど、母が私を見る目は失望に染まっていった。まるで、手の施しようのない粗大ゴミを見るような目だ。

「蓮さんを見てみなさい!それに引き換え、あなたが連れてきたあのチンピラはなんなの!」

母の泣き声は鋭く耳に刺さる。

「お兄ちゃんが草葉の陰で泣いてるわよ!」

父は壁に飾られた制服姿の兄の大きな写真を指差し、手を激しく震わせた。

「お前は兄に申し訳ないと思わないのか!

あいつが命を懸けて救った仲間だぞ。死んでまで、果たせない約束を背負わせるつもりか!

あいつを、死んでも死にきれない思いにさせる気か!」

私は無表情のままソファに座り、スマートフォンを取り出した。画面の明かりが私の能面のような顔を照らす。私は画面をスクロールさせながら、まるで彼らの言葉など関係ないといった風を装った。

「それは兄さんの約束よ。私のじゃないわ」

声は大きくなかったが、全員の耳にはっきりと届いた。

「私が兄さんに助けてなんて頼んでないし、彼に結婚してくれなんて頼んでもいない」

「お前……ッ!」

父は激昂して手を振り上げ、私の頬を目掛けて平手打ちを放った。私は避ける気すらなかった。

だが、予想していた痛みは来なかった。蓮がとっさに私の前に立ちはだかり、その腕で父の一撃を受け止めたのだ。

バチン、と乾いた音が響いた。彼は低く呻き、腕が瞬く間に赤く腫れ上がった。

「篠宮さん、やめてください」

彼は私を振り返った。その瞳には包容力と心配、そして私が理解できない何らかの痛みが混じっていた。

「彼女も辛いんです。ただ一時的に混乱しているだけなんです」

この一幕で、私は完全に家族の中の大罪人となった。母は泣きながら父の胸に飛び込んだ。

「私たちはどんな因果応報で、こんな冷酷な娘を育ててしまったの!

あなた……私の心が張り裂けそうよ……」

蓮の「英雄」としての後光と両親の悲痛な叫び。その二つの壁が私を挟み撃ちにする。

あの日以来、蓮はさらに両親に献身的に尽くすようになった。彼は毎日、高価な滋養強壮の食品やサプリメントを送り届けてきた。私には気を使い、家事の一切を引き受けた。壊れたまま放置されていた蛇口を修理し、重い米袋を担いで階段を上った。父の将棋の相手をし、母の愚痴を聞いた。

近所の住人たちは皆、彼を「理想的な婿」だと称賛した。そして私は恩知らずで、英雄を裏切り、心を持たない親不孝者として定着した。

団地の中を歩けば、背後から指をさされる気配を感じる。その視線は針のように全身に突き刺さった。

けれど、痛いとは言えない。私はこの演技を続けなければならないのだから。

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