花火が散り、夢は泡になった第2話
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元子はハッと小さな男の子を見た。その眉も目も、まるで修一をそのまま小さくしたようだ。
道理で彼が一度も私に触れようとせず、子供を作ることをあんなに拒んだわけだ。
そうか、彼はもうとっくに初恋との間に、こんなに大きな息子がいたのか。
皮肉なことに、私はこの五年間を「勇敢に愛を追い求めたつもり」でいたが、実のところ、自ら進んで相手の「出来合いの継母」になろうとしていただけだった。
元子は拳をぎゅっと握りしめ、怒りとも屈辱ともつかぬ表情を浮かべた。
修一はそんな彼女に慰めの言葉も、釈明の気配も見せず、身を屈めて男の子を抱き上げ、優しく言った。
「寝るってパパと約束したよね?」
男の子は甘えるように修一の首筋に頬をすり寄せ、不思議そうに尋ねた。
「パパ、このお姉さんだれ?なんでうちにいるの?」
修一は辛抱強く答えた。
「彼女は新谷さんでね、パパの……」
眉間に皺を寄せ、長いあいだ言葉を探したが、「妻」という言葉だけはどうしても出てこなかった。
その様子を見て、元子が先に口を開いた。
「私、あなたのパパの妻なのよ。本来なら、あなたは私のことを――」
「元子」修一が彼女の言葉を遮った。その目に宿っていたのは、紛れもない警告の色だった。
彼は男の子を慌てて駆けつけたメイドに預け、小声で言った。
「君は名目上の妻でしかない。夫婦としての実態はない。契約期間中は、線を越えるな」
その言葉に、元子の指先が掌に食い込み、痛みで声が震える。
「線を越えるなって?修一、たとえ契約結婚でも、私たちは正式な夫婦よ。あなたが初恋を家に入れて、しかも隠し子まで連れてくるなんて――それはあなたの方がひどいんじゃないの?」
「隠し子」という言葉を聞いた瞬間、修一の顔色が一気に暗くなった。
「言葉を選べ。武文(たけふみ)は俺の実の息子だ。そして、これからも唯一の息子だ」
冷たい視線を元子に向ける。「まだ栗原家の妻でいたいなら、余計なことは一言も口にするな」
そう言い放つと、彼は踵を返して階段を上がり、元子に一瞥もくれなかった。
修一の背中が遠ざかっていくのを見つめながら、元子の目からとうとう涙が溢れ落ちた。
五年間で、彼が彼女にこんなに厳しい口調で、こんなに冷たい態度を取るのは初めてだった。
元子は思い出した。出張前、修一が自ら口にした言葉を――「戻ったら契約を破棄して、これからは本気で生きよう。夫婦として」
彼女は静かにカバンの中から、丁重にラミネート加工された契約書を取り出した。そこには、自動終了日として「1月15日」と記されていた。
自嘲気味に微笑みながら、まさか五年の結婚生活が今日で終わるとは思いもしなかった自分を笑った。
元子はスマホを取り出し、自分のために半月後の航空券を予約した。
新谷家の娘として、彼女の心にほんの少しの瑕もあってはならなかった。ましてや、夫と元恋人の子どもを引き取る「継母」など、絶対にありえない。
その夜、彼女はゲストルームに泊まった。
翌朝早く、元子は階下から聞こえる話し声に起こされた。
二階の手すりまで歩いていくと、リビングには修一の友人たちがずらりと座っていた。
「覚えてる?あの時、修一が千秋さんにプロポーズするために、1億円でウィンストンのブルーダイヤを買おうとして、七日間ぶっ通しで競り上げて、結局は家業を継ぐのをやめて駆け落ちしようとしたこと!」
「それだけじゃないんだよ!あの時さ、千秋さんと修一が別れた後、修一は酒の飲みすぎで胃を壊しちゃって。それなのに、千秋さんがケベックで結婚するって聞いたら、ほんとに全便運休なのに、吹雪を突っ切ってまでも自家用機を飛ばして奪い戻しに行こうとしたんだ!必死だったなぁ……」
元子は黙ってその話を聞いていた。指先がかすかに震える。
修一にそんな一面があったなんて、彼女は一度も知らなかった。
五年来、修一は元子の前ではずっとよそよそしかった。雪山の溶けない雪みたいに、冷たかった。
元子には想像もできなかった。彼が酒を飲みすぎて胃出血を起こす姿も、飛行機を駆ってケベックまで結婚式を妨害しに行く姿も。
彼女はそっと目を閉じ、胸の奥に込み上げる痛みを押し込めようとした。
その時、背後から千秋の声が響いた。
「実はあの時、修一が私の結婚式に現れたとき、本気で彼と一緒に逃げようかと思ったの。
あなた、彼が理性を失った姿を見たことないでしょう?目は真っ赤で、服はぐしゃぐしゃ。警備員と取っ組み合いになってでも私の前に突っ込んできて、あのプロポーズの指輪を差し出したのよ」
彼女は元子のそばまで歩み寄り、勝ち誇ったように微笑んだ。
「あのね、彼がどうして毎年大晦日の夜に青い花火を上げるのか、知ってる?たとえあなたと結婚してからでも、それをやめなかった理由、なんだと思う?」
元子はそれが千秋の挑発であり、見せつけだと分かっていた。
それでも、思わず口を開いてしまった。
「どうして?」
千秋はふっと微笑んだ。「だって、私と修一の初めてのキスは、あの青い花火の下だったからよ」
一瞬で、元子の顔は真っ白になり、今にも崩れ落ちそうだった。
ようやく彼女は理解した。なぜ青い花火の製造工程があれほど複雑なのに、修一があの生産ラインを頑なに残していたのか。
なぜ作り続けながらも外には一切販売せず、毎年の年越しの夜にだけ盛大に打ち上げていたのか。
それは修一の奇癖などではなかった。商業的演出などではなく、むしろ、彼が千秋だけのために、ただひたすらに守り続けてきた揺るぎないロマンスにこそあった。
千秋の声はまだ続いていた。まるで悪魔の囁きのように。
「修一があなたに情けをかけていないのは知っているわ。でも、あなたたちはもう五年も夫婦なのよ。それに、いまだに栗原夫人の座に居座っている。契約がどうであれ、私は黙っていられない。だから……」
彼女はそっと、元子の冷たい手を握りしめた。
「私、修一にあなたのことを心底嫌わせて見せるから」
そう言い終えると、千秋は勢いよく元子の手を振りほどき、目を閉じて、そのまま真っ直ぐ後ろへと倒れ込んだ。
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