花婿は俺なのに、オーダースーツを着るのは親友だった第2話
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「あんなの勝手に帰らせればいいのよ!
今のうちにあのワガママを直してやらないと、将来痛い目を見るのはあいつよ」
涼音は俺を引き留めようとする司の手を振り払い、司の体に衣装を当てて見栄えを確認し始めた。
まるで、俺こそが彼女の新郎だという事実などすっかり忘れてしまったかのように。
「涼音、陽色を責めないでやってよ。最近、結婚式の準備でずっとピリピリしてるんだ。わざと拗ねてるわけじゃないさ。それに外は土砂降りだ。新郎を雨の中に追い出したら、風邪を引くよ」
司は俺を気遣うような言葉を並べながらも、試着の手を止めることはなかった。
窓の外では、雨脚がさらに強くなっている。
涼音は、俺が彼女の車でこの郊外の店まで来ていて、自力で帰る足がないことを知っていた。それでも平然と言い放った。
「雨に打たれて、少しは身の程を思い知ればいいのよ。私が甘やかしすぎたのね。自分の親友であるあんたにまで嫉妬するなんて、一体何様のつもりかしら」
その言葉を聞いて、俺はもう振り返ることなく雨の中へ飛び出した。
15分後、司がSNSを更新した。
【また涼音のロールスロイス・レイスに乗せてもらった。雨に一滴も濡れずに済んで、なんだか残念だな】
投稿された写真に写る車内は、俺にとっても見慣れたものだった。
これまで涼音の助手席に数え切れないほど座ってきたのは、俺の親友だった。
それでも俺は、ずっと気にしないように努めてきた。
2人の仲がいいことは、俺にとっても喜ばしいことだと思い込んでいたからだ。
だが、俺が折れるたびに、2人の態度はますますエスカレートしていった。
今回は、もう「いいね」もコメントもしなかった。
大雨の中を1時間近く歩き続け、ようやく家に戻った。
ずぶ濡れになった服を着替える間もなく、涼音からメッセージが届いた。
【まだレストランに着かないの?ぐずぐずしないで。私は司と先に行ってるから】
そういえば、試着の後は3人で星付きのレストランへ行く約束をしていたのだった。
【早く来てよ。いつも私たちを待たせるんだから】
こんなことは初めてではなかった。
一緒に食事をすると約束していても、司はいつも涼音の車に同乗してくる。そのため2人は先に着き、俺だけが10キロ以上離れた会社から向かうことになる。ようやく到着した頃には、料理は半分ほどなくなっているのが常だった。
俺が不満を漏らしても、涼音はいつも冷たかった。
【司は胃が弱いから先に食べてるの。まだそんなふてくされた顔をしてるなら、あなたの分も残しておいてあげないわよ】
以前の俺なら、その文面を見るたびに胸が締め付けられていた。
男の意地もあって何も言い返せず、黙って冷めた残り物を食べていた。
でも今回は、静かにスマホの画面を消した。
一言も返さなかった。
俺はもう、あの結婚式には出ない。
花嫁を奪う絶好の機会は、司にくれてやる。
午前0時になっても、涼音は帰ってこなかった。
俺はベッドで身を丸め、毛布を3枚重ねていたが、体の芯から冷え切っていた。
寒気に耐えきれず、かすれた声で涼音に電話をかけ、帰りに風邪薬を買ってきてほしいと頼んだ。
電話の向こうで少しの間沈黙があり、涼音は冷たく言い放った。
「電話をかける元気があるなら、大したことないでしょ?私を帰らせるための嘘じゃないの?」
背後からは、騒がしい音楽とグラスが触れ合う音が聞こえてくる。
やがて司が電話を代わり、酔った声で言った。
「陽色、心配するなよ。涼音は僕と一緒だからさ。僕がしっかり見張っててやる。ほかの男には絶対近づけさせないから」
俺が信じないと思ったのか、司はご丁寧に写真まで送ってきた。
そこには、涼音の首筋につけられたばかりのキスマークが写っていた。
「安心しろよ、陽色。僕がちゃんと『印』をつけておいたから。帰ったら、よく見比べてみろよ。お前のためにやったんだから、まさか怒らないよな?」
俺は自嘲気味に笑って首を振った。
「……怒ってないよ」
電話を切ると、俺は力を振り絞って起き上がり、自分の荷物をまとめ始めた。
最後の服をキャリーケースに詰めたとき、E国からメッセージが届いた。
先生からの返事は、たった一言だった。
【わかった。早く来い】
それを見て、俺はすぐさまE国行きの航空券を予約した。
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