義母の死で発覚した夫の隠し家庭第2話
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――隠し子。
その一言が、刃物のように心に突き刺さった。
もう感情を抑えきれなかった。立ち去ろうとする千夜の背中に向けて、声の限りに叫んだ。
「心音は隠し子なんかじゃない!私と瑛人の子供よ!心音が生まれた日、あなたと瑛人はまだ――」
言葉が途切れた。
千夜が突きつけてきたあの受理証明書の写しに記された日付を、はっきりと覚えていたからだ。
まさに、心音が生まれたあの日だった。
大雨の降る昼間のことを、今でも鮮明に覚えている。
お義母さんに昼食を食べさせた後、大きなお腹を抱えながら皿を洗っていた。
破水した瞬間、真っ先に瑛人に電話をかけた。何度かけても繋がらない。
外へ出て、隣人の長谷川恵美(はせがわ えみ)にお義母さんの世話を頼み込んだ。
恵美の夫、長谷川茂平(はせがわ もへい)が三輪トラックを出して、村の診療所まで送ってくれた。
分娩台の上で、体が引き裂かれるような痛みに耐えた。
瑛人への電話は、まるで呪いでもかけられたかのように繋がらず、丸一日かけ続けて、ようやく通じた。
気遣いの言葉も、喜びの声もない。
返ってきたのは、頭ごなしの怒声だった。
「俺がどれだけ忙しいか分かってるのか。人生がかかった大事な時なんだぞ。
何度も何度も電話してきて、俺の人生をぶち壊す気か」
電話を握る手が小刻みに震え、喉まで出かかった言葉は、悔しさの嗚咽に変わった。
しばらく経って、一言だけ口にした。
「3000グラムちょっとの女の子。名前は私がつけたの、心音って」
通話が切れた後、四万円の送金通知が届いた。
【最近忙しすぎて帰れない。自分で何かいいもの買って、体を労ってくれ】
心音はもう五歳になっている。小さな腕で私を抱きしめ、やさしく揺すってくれた。
その温もりで、我に返った。
「ママ、私たち都心に行って、パパと一緒に暮らせるの?」
心音の言葉に、私の心が完全に崩れた。
パパと暮らすこと。娘がずっと夢見てきたことだ。
それがもう、永遠に叶わないのかもしれない。
翌日の午後四時、再び瑛人と顔を合わせた。
私の表情があまりにも絶望に満ちていたのだろう。瑛人はため息をつき、私の手を取った。
「晴音、もう全部知ってるんだろ。この件は俺が悪かった。
でも千夜と結婚したのも、結婚しなければ仕事を失わせると脅されたからなんだ」
「あの家は俺の勤め先で相当な力を持っててな。二年も追い回されて、結婚しなきゃ仕事を潰すと脅された。
あの頃、お前は妊娠中で、母さんもあの状態で……仕事を失うわけにはいかなかったんだ。だから――」
だから七年も私を騙し続け、寝たきりの母親を押しつけ、子供まで産ませたというのか。
お義母さんが死んだ途端、用済みとばかりに私を切り捨てようとしている。
心音さえも、私をこの家に縛りつけるための駒に過ぎなかったのだ。
その顔を見ていると、ただただ白々しかった。
私は冷たくその手を振り払い、頬を思い切り叩いた。
「吐き気がする」
平手打ちの衝撃で、瑛人の顔が横を向いた。
眉をひそめ、舌先で頬の内側を押している。
だがこの瞬間、瑛人はむしろ何かから解放されたような顔になった。
「心音の養育費はまとめて渡す。これで俺たちは終わりだ」
私は目の前のこの男を見つめ、心が完全に冷え切った。
精一杯尽くした七年間も、この男の心には微塵も響かなかったのだ。
深い愛も、約束も、苦渋の決断も――全部、嘘だった。
私と心音は、寝たきりの母親を世話させるための道具でしかなかったのだ。
私が泣いているのを見て、心音がすぐに小さな手で涙を拭ってくれた。
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