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義母の死で発覚した夫の隠し家庭第3話

この話は約1455字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。

それから心音は瑛人の前に歩み寄り、小さな両手でその脚を力いっぱい押して、追い払おうとした。

「心音にはわかってるよ。パパは私とママがいらないんでしょ。パパは悪い人。あっち行って。私とママはパパの顔なんか見たくない」

瑛人は娘を見下ろし、一瞬だけ痛ましげな表情を浮かべた。

しかしすぐに、決然と二歩後ずさる。

そして、一枚の書類を私に差し出した。

「俺は今あるものを全部捨てるわけにはいかない。すまない、お前たちを裏切ったのは俺だ……

この家はお前たちに残す。せめてもの償いだと思ってくれ。この合意書にはもうサインしてある。金もすぐ振り込まれるはずだ」

最後の一縷の望みが砕け散った。

この男は結局、自分の利益を選んだのだ。

……

瑛人は確かに口座へお金を振り込んできた。

残高に並ぶ冷たい数字を見つめる。

ただ、滑稽だった。

たったの二百万円。

これで七年の献身と、娘との親子の絆を買い取ったつもりらしい。

もうあの家には住みたくない。心音の将来を考えれば、なおさらだ。

この二百万円を頭金にして、街でささやかな部屋を買おう。せめて心音をまともな学校に通わせてやりたい。

だが、引っ越しを明日に控えた日のことだった。

たった一人の弟、夏目陽真(なつめ はるま)から電話がかかってきた。

彼は高校を出てすぐ遠方の仕事場へ飛び込み、盆も正月も満足に帰れないほど懸命に働いている。

めったに会えないけれど、私にとってはいつまでも手のかかる、大切な自慢の弟だ。

「姉ちゃん、本当にどうしようもなくて電話したんだ。

俺、病気になっちゃって、治療費がいるんだ。義兄さんに頼んで少し貸してもらえないかな……」

その言葉が鉛のハンマーのように胸を打ち、目の前が暗くなった。

両親は早くに亡くなり、三つ下の陽真とは幼い頃から寄り添って生きてきた。

学歴がないから、大した稼ぎはない。

それでも時々お金を送ってくれたり、心音にお菓子やおもちゃを届けてくれたりしていた。

その弟が病に倒れたのに、見捨てられるわけがない。

「慌てないで。今すぐ行くから。お金のことは心配しなくていいの。姉ちゃんが持ってるから」

電話を切り、画面に映る二百万の数字を見つめた。複雑な思いが胸を渦巻く。

これは私と心音の、新しい暮らしの基盤となるはずのお金だ。

それが今、弟の命綱に変わった。

迷いは一瞬もなかった。心音を連れて、すぐに陽真のいる病院へ向かった。

病室では陽真がベッドに横たわり、腕に点滴の管を繋がれている。すっかり痩せ細っていた。

私の顔を見るなり、陽真は目元を赤くして涙をこぼした。

「姉ちゃん、心配かけてごめん」

私は涙を堪え、その冷たい手を握りしめた。

「馬鹿ね。姉ちゃんに遠慮なんかしなくていいのよ。

心音を見ててちょうだい。先生に話を聞いて、入院の手続きもしてくるから」

携帯を手に病室を出た、その直後だった。

裁判所から電話がかかってきた。

「高森瑛人氏が紅林千夜氏との婚姻期間中に、夫婦の共有財産を無断であなたの口座へ送金した件についてのご連絡です。

紅林千夜氏が返還請求の訴えを提起しました。請求額は過去の送金分も含めて計四百万円。三日以内に全額を返還してください」

頭を鈍器で殴られたような衝撃だった。

病院の廊下に立ち尽くし、全身が震えて止まらない。

振り返れば、病室のベッドで弟がこのお金を待っている。

だが裁判所からの通知が枷となり、そのお金を完全に封じ込めてしまった。

進退窮まり、崩れ落ちそうになりながら、私は最後の理性を振り絞って瑛人に電話をかけた。

「どうしてこんな仕打ちをするの。私を殺す気なの?」

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