義妹にすべてを譲った私に、家族は跪いて許しを乞うた第3話
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私は乱暴に顔を拭い、そのまま踵を返して家の中へ向かった。
「お姉ちゃん!」
清音が、まるで今初めて私に気づいたかのような顔をして、申し訳なさそうに駆け寄ってきた。
「お姉ちゃん、全部私のせいなの……推薦枠なら返すから、もうお父さんに逆らわないで」
わざとらしい声に、絶妙な泣き声を混ぜている。聞いているだけで吐き気がした。
私は何気なく彼女の手を振り払った。
すると、清音が小さく悲鳴を上げ、全身の力が抜けたようにその場に倒れ込んだ。
腕には赤い血が滲んでいた。
物音を聞きつけた弘が、血相を変えて駆け寄ってくる。
ほぼ同時に翔も動いた。
一気に距離を詰めた翔は、私を突き飛ばした。
何の身構えもしていなかった私は、そのまま後頭部をドア枠に思いきりぶつけた。
激しい衝撃で、目の前が一瞬真っ白になった。
朦朧とする意識の中、翔が私を指差して怒鳴る声だけが聞こえた。
「安奈ちゃん!お前、頭がおかしくなったのか!」
弘は清音を庇うように抱き起こし、氷のように冷たい目で私を睨んだ。
「清音に謝れ!たかが推薦枠のことだろ?それくらいで、よくもそんなに悪辣なことができるな!」
私は後頭部に手をやった。手についた血を何でもないように拭い、冷笑した。
「ふっ……私のものを奪っておいて、被害者面するんだ。
清音、そんな芝居をして疲れない?
この家だって全部あなたに譲った。それでもまだ、私にどうしろっていうの?」
翔はそれを聞くと、さらに怒りを露わにした。
「何が『私のもの』だ。推薦枠はもともと清音が先に申請してたんだ。お前が負けたくないって意地を張って、横から奪おうとしただけだろ。
俺たちがお前にこれだけ尽くしてるのに、どうしてそんなに清音を受け入れられないんだ?
安奈ちゃん、本当に失望したよ」
弘はまだ清音の傷を大事そうに確認しながら、吐き捨てるように言った。
「駄々をこねるのも大概にしろ」
父も清音の傷を確認すると、ため息をついて私のところへ歩いてきた。
「安奈ちゃん、清音に謝りなさい」
私は、まるで一つの敵を前にしたように私だけを責める3人の顔を見つめた。
かつて私に向けられていた優しい笑顔は、今ではすべて、私を敵視する怒りに変わっていた。
私は何も言わず、ただ父の目をまっすぐ見つめた。
父は何か言おうとして口を開いた。
けれど、結局何も言わなかった。
――3か月前も、そうだった。
清音がSNSで金持ちアピールをしていた。
ところがネットユーザーに「偽セレブ」だと特定され、複数の男に囲われているとまで暴露された。
批判の声は一気にネット中へ広がった。
それを知った父は、何も言わずに会社の株式10%を清音の名義に移した。
そのうえ、自ら会社の公式アカウントを使って、私の姿が一切写っていない家族写真を投稿した。
添えられた言葉は――
【私の大切な娘】
公の場で、清音を擁護したのだ。
翔と弘に至っては、その日の夜のうちに、彼女に対する誹謗中傷を投稿した人間をすべて洗い出し、一人ひとりに弁護士名義の警告書を送りつけた。
徹底的に責任を追及するとまで言い放った。
その翌朝には、あれほどの批判が嘘のように消えていた。
そして白井家の本当の実娘である私は、逆にネット上で、「金持ちの家に入り込もうとする身の程知らずの偽物」と罵られることになった。
その後も、彼らは何事もなかったかのように私を宥めた。
「ネットのことなんて、数日もすれば誰も覚えてない。
俺たちの血のつながりは、写真一枚で切れるようなものじゃないんだから」
私は怒りで食事も喉を通らなかった。
それなのに彼らは、清音の機嫌を取るために、彼女を連れて3日間もテーマパークへ遊びに行った。
そして、楽しそうに笑う4人の写真をSNSに投稿した。
【家族みんなで過ごす幸せな時間】
画面越しに、眩しいほどの笑みを浮かべる彼らを見つめながら、私はまるで徹底的に家族から切り離された他人のようだった。
その光景は、今とまったく同じだった。
……いや。今のほうが、ずっと残酷だ。
あの頃は、ただ私を無視していただけ。
今は、本当に私を憎んでいる。
胸の奥から吐き気が込み上げ、私は父を押しのけて自分の部屋へ駆け込んだ。
海外へ出発するまで、まだ数日ある。
それでも、もうこの息苦しい家には一秒たりともいたくなかった。
スーツケースを引いて部屋のドアを開けたとき、3人はちょうど私の部屋の前に集まり、ドアを叩こうとしていた。
私の手にあるスーツケースを見た瞬間、3人の顔色が変わった。
弘が一瞬呆然としたあと、真っ先に怒鳴った。
「安奈ちゃん、またその手かよ?」
翔は眉間を揉みながら、苛立った声を漏らす。
「家出?もう少し別のやり方を考えられないのか?」
父はスーツケースを受け取ろうと手を伸ばした。
「安奈ちゃん、俺たちは家族だろ。何があっても、ちゃんと話し合えばいいじゃないか。どうしてそこまで極端なことをするんだ」
私は父の手を避けた。そして無表情のまま、果物ナイフを取り出し、清音へ向けた。
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