絶望を乗り越え、真の幸せへ第2話
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心臓がギュッと締め付けられる。別の女を庇う湊の姿を見て、突然すべてがどうでもよくなった。
体面を取り繕う気すら起きなくて、結城家の笑い声が響く中、無言でその場を立ち去った。
家に着くや否や、湊が追いかけてきた。手首を掴まれて、深く見つめられる。その瞳には心配の色が溢れていた。
「どうして黙って帰ってきたんだ?どこか具合でも悪いのか?」
優しく甘い声は、いつも通り私を気遣う夫の姿そのものだ。口を開いて、何かを言おうとした瞬間、湊の言葉に遮られた。
「子供たちはまだ小さくて、すぐには俺たちに懐かないだろうから、莉乃も一緒にこの家に住まわせようと思う」
言い終わるか終わらないかのうちに、莉乃とベビーシッターが子供を抱いて入ってきた。莉乃は目を真っ赤に腫らして、まるで怯えたように私を見つめる。
「栞さん、私……これからは家で大人しくしていますから。お二人の仲を裂くような真似は絶対にしません」
冷ややかな視線を向ける。「もう十分裂いているじゃない。じゃなきゃ、その子たちはどうやってできたの?」
湊の欲求不満の捌け口になったのが彼女だと知った時から、以前のように穏やかな態度で接することなどできなくなっていた。
崩れ落ちるように莉乃が目の前で膝をつく。
「栞さん、うちは貧しくて、どうやってご恩を返せばいいか分からなくて……だから子供を産んだんです。
もし私のことがお気に召さないなら、今すぐ子供を連れて出て行きます」
泣きじゃくりながら言うと、彼女の胸に抱かれた赤ん坊までもが甲高い声で泣き出して、ひどく神経を逆撫でする。
傍らにいた湊の顔色が一変した。莉乃を腕の中に引き寄せて、責めるような目で私を睨む。
「子供を連れてくるのは俺が決めたことだ。莉乃をいじめるな」
彼は振り向いて、使用人たちに命じた。「二階のベビールームを片付けて、子供が使えるようにしろ」
目を見開いて、信じられない思いで湊を凝視する。
「あれは私たちの息子の部屋よ。どうして他の人に使わせるの?」心が真っ二つに引き裂かれるような激痛が走って、声が震える。
あの部屋は湊と二人で設計して、我が子への最高の期待を込めた場所だ。
内装工事の時、湊は常に細部までこだわっていた。置物やぬいぐるみの一つ一つまで、彼が丹念に選び抜いたものだ。
「俺たちの子だからこそ、ここまでする価値があるんだ」と、当時の彼は感慨深げに語っていた。
息子が亡くなって、私が狂ってしまった後も、あの部屋に残された記憶があったからこそ、少しずつ正気を取り戻すことができた。
それなのに、息子の部屋を隠し子たちに明け渡すと言うのか?湊は私の問い詰めを無視して、有無を言わさぬ声で告げた。
「陽太(ようた)はもう死んだんだ。そのままにしておいても無駄になるだけだ。この子たちに使わせた方がいい」
「絶対に嫌!」彼に向かって叫ぶ。息子の部屋をなぜ他人に譲らなければならないのか。ベビールームの前に立ち塞がって、使用人たちを止める。
しかし、湊は使用人に命じて私を無理やり押さえつけさせた。彼は目の前に立って、私の乱れた髪を優しく耳にかけながらため息をついた。
「栞、わがままを言うな。陽太のことはもう忘れろ。この子たちが大きくなったら、きっとお前を大切にしてくれる」
「陽太は私たちの子なのよ。あんたのせいで死んだのに、どうして忘れるなんて言えるの!」
泣き崩れながら叫ぶ。涙が溢れて止まらない。湊は複雑な目で私を見つめた後、部屋から運び出した物を燃やすよう使用人に命じた。
腕を拘束されながら、息子のおもちゃがゴミ袋に放り込まれるのをただ見ていることしかできない。
そして、火が放たれた。風に乗って流れてくる煙が鼻をついて、目に染みる。激しい痛みに全身の震えが止まらない。
息子の遺品が灰に変わるまで、使用人は私を離さなかった。感覚を失った手を灰の中に突っ込んで、ようやく息子が身につけていた銀のベビーリングを掘り出した。
それを手のひらに強く握りしめる。血と灰が混ざり合って地面に滴り落ちていく。痛む足を引きずって、寝室へ戻る。
リビングからは、再び父親になれた喜びに浸りながら子供をあやす湊の声が聞こえてくる。
私は結婚指輪を外して、結婚前に用意していた離婚協議書を知り合いの弁護士に送った。
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