絶望の産声、息子の命が開いた夫婦の終幕第3話
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美帆は我慢できず、乱暴に息子の手を振り払うと立ち上がり、勢いよく彼の腹を蹴りつけた。
息子は痛みに身をよじらせ、苦しげに嘔吐し始めた。
ここ数日、私の看病のためにろくに食べていなかったから、吐き出したのは血混じりの胃液だけ。他には何もなかった。
その時、廊下から足音が聞こえてきた。
美帆の顔色が変わり、すぐに息子に服を着せ始める。
ジッパーを引き上げたその瞬間、遥斗が部屋に入ってきた。
「俺の腕時計がここに……恋星?」
彼の視線はすぐ、額が青紫に腫れた息子に釘付けになった。驚きが顔に浮かぶ。
「何があった?美帆、子どもを殴ったのか?」
美帆は眉をひそめ、こめかみを押さえて倒れ込むふりをした。
慌てて遥斗は彼女を抱きとめる。
「もう、親切があだになるわ」美帆はわざと手首の傷を見せて、涙声で訴える。
「恋星が外で大騒ぎして、扉を叩き壊しそうだったから、心配でつい中に入れてあげたの。でもこの子、自分で頭を壁にぶつけたのに、私が虐待しているって訴えるって言うのよ!」
手首の血を見た遥斗の疑念は、すっかり消えてしまった。
しかし、私はわかっている。息子はすでに殴られすぎて力を失っていた。
一回噛み付いたとしても、美帆に傷を負わせるなんてできるはずがない。
その血痕は、すべて息子が吐き出した自分の血なのだ!
ボディーガードたちが息子の周りを囲み、彼が地面に倒れ込まないよう支えていた。
「恋星、お前も随分と成長したな。俺のいない隙を狙って騒ぎを起こすなんて。
藤崎家の坊ちゃんが、あの女のせいで、ただの不良になり下がったんだ! 離婚したら、二度と彼女をお前に近づけさせないからな!」
息子は殴られても泣かなかったのに、その言葉を聞くと、ついに涙を堪えきれずに泣き出した。
「うぅ……パパ、もうママのこと、好きじゃないの?恋星のことも、いらないの?」
息子の弱々しい声、腫れ上がった顔、真っ赤に泣き腫らした目を見て、遥斗は一瞬足を止め、迷うような表情を浮かべた。
それを見た美帆は、目をひそかに輝かせ、遥斗の胸からよろめくように離れる。
「この子ったら、本当にバカね。パパは大人なんだから、子供じみた真似をするわけないでしょ。おもちゃの車を壊しちゃって、もういらないって騒いだりするのとは違うのよ」
遥斗の目が鋭くなり、床に散らばるおもちゃの残骸に気が付いた途端、顔が強張った。
美帆はこっそりボディーガードに目配せし、男の一人が携帯をいじり、録音を再生した。
そこには、息子のかすれた怒号が響いていた。
「悪い女!最低!僕の妹を返して!パパに全部言って、警察に捕まえてもらうから!」
遥斗の顔は真っ黒に染まり、指先まで震えていた。
「いいだろう、俺が心配して損した。そんなに可哀想な振りをして、全部お前の母親から教わったんだな!」
私は狂ったように首を振り、叫んだ。違う、違う!
恋星は、誰よりも優しく、礼儀正しい子だ。
どうして、自分で育てた息子を信じてくれないの?
遥斗はボディーガードに命じて、息子を部屋の外へ放り出させた。
息子は床に倒れこんだまま動かなかった。
遥斗が腕時計を取り、美帆を慰めて部屋を出た時、彼はまだ頭を下にしてドアのそばに倒れていた。
「まだ芝居をしてるのか?小さなガキのくせに、随分腹黒いな」
そう呟きながら、彼は私のスマホに息子の写真を送りつけてきた。
「さっさと迎えに来い。これ以上恥を晒すなよ」
遥斗は知らない。私はすでに息子のそばに膝をつき、何度も何度も泣き崩れていることを。
この一瞬、私は遥斗と美帆を憎むより、自分自身を何百倍も憎んだ。
なぜ私は、息子がこんなにも酷い目に遭うのを、何もできずに見ているしかないの?
なぜ私は、こんなに早く死んでしまったの?
このまま美帆が本当に息子の継母になったら、私たち親子は、今日のような地獄を生き続けるの?
私が何もできずにいるうちに、遥斗は冷笑して立ち去った。
彼が出ていくと、息子はゆっくり意識を取り戻した。
汗と血が固まって、目が塞がれていた。
彼はもう立ち上がる力もなく、慣れた階段の方向を手探りしながら、這うように進む。
「ママ……恋星、ママのところに帰る」
廊下を通り過ぎる医者や看護師たちは、彼を見てひそひそと囁く。
同情の眼差しもあれば、あざけりの笑い声もあった。
私はただ、息子の後ろをついていくことしかできない。魂が千本の針で刺されるように痛い。
一歩一歩が、永遠のように長い。
やっとの思いで息子が病床に戻るころ、私の流した血は冷たい風に凍りついていた。
でも、息子はそれに気づかず、嬉しそうに微笑んだ。
「よかった……ママ、もう血が出てない!」
そう言って、力尽きて私の死体の隣で気を失った。
翌朝早く、最初に異変に気付いたのは清掃員だった。
彼女は悲鳴を上げ、転げるように階段を駆け上がった。
「し、死んでいる!」
その声で目を覚ました遥斗は、怒りに満ちた顔で医者や看護師たちを押しのけながら進む。
「また新しい手を考えたのか。今度は息子じゃなくて、清掃員を使って同情を引こうってか?」
でも、私が壁よりも青白い肌で倒れているのを目にすると、彼の顔から血の気が一気に失せた。
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