和紙文絶望の産声、息子の命が開いた夫婦の終幕 · 第3話設定≡

絶望の産声、息子の命が開いた夫婦の終幕第3話

この話は約2081字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。

美帆は我慢できず、乱暴に息子の手を振り払うと立ち上がり、勢いよく彼の腹を蹴りつけた。

息子は痛みに身をよじらせ、苦しげに嘔吐し始めた。

ここ数日、私の看病のためにろくに食べていなかったから、吐き出したのは血混じりの胃液だけ。他には何もなかった。

その時、廊下から足音が聞こえてきた。

美帆の顔色が変わり、すぐに息子に服を着せ始める。

ジッパーを引き上げたその瞬間、遥斗が部屋に入ってきた。

「俺の腕時計がここに……恋星?」

彼の視線はすぐ、額が青紫に腫れた息子に釘付けになった。驚きが顔に浮かぶ。

「何があった?美帆、子どもを殴ったのか?」

美帆は眉をひそめ、こめかみを押さえて倒れ込むふりをした。

慌てて遥斗は彼女を抱きとめる。

「もう、親切があだになるわ」美帆はわざと手首の傷を見せて、涙声で訴える。

「恋星が外で大騒ぎして、扉を叩き壊しそうだったから、心配でつい中に入れてあげたの。でもこの子、自分で頭を壁にぶつけたのに、私が虐待しているって訴えるって言うのよ!」

手首の血を見た遥斗の疑念は、すっかり消えてしまった。

しかし、私はわかっている。息子はすでに殴られすぎて力を失っていた。

一回噛み付いたとしても、美帆に傷を負わせるなんてできるはずがない。

その血痕は、すべて息子が吐き出した自分の血なのだ!

ボディーガードたちが息子の周りを囲み、彼が地面に倒れ込まないよう支えていた。

「恋星、お前も随分と成長したな。俺のいない隙を狙って騒ぎを起こすなんて。

藤崎家の坊ちゃんが、あの女のせいで、ただの不良になり下がったんだ! 離婚したら、二度と彼女をお前に近づけさせないからな!」

息子は殴られても泣かなかったのに、その言葉を聞くと、ついに涙を堪えきれずに泣き出した。

「うぅ……パパ、もうママのこと、好きじゃないの?恋星のことも、いらないの?」

息子の弱々しい声、腫れ上がった顔、真っ赤に泣き腫らした目を見て、遥斗は一瞬足を止め、迷うような表情を浮かべた。

それを見た美帆は、目をひそかに輝かせ、遥斗の胸からよろめくように離れる。

「この子ったら、本当にバカね。パパは大人なんだから、子供じみた真似をするわけないでしょ。おもちゃの車を壊しちゃって、もういらないって騒いだりするのとは違うのよ」

遥斗の目が鋭くなり、床に散らばるおもちゃの残骸に気が付いた途端、顔が強張った。

美帆はこっそりボディーガードに目配せし、男の一人が携帯をいじり、録音を再生した。

そこには、息子のかすれた怒号が響いていた。

「悪い女!最低!僕の妹を返して!パパに全部言って、警察に捕まえてもらうから!」

遥斗の顔は真っ黒に染まり、指先まで震えていた。

「いいだろう、俺が心配して損した。そんなに可哀想な振りをして、全部お前の母親から教わったんだな!」

私は狂ったように首を振り、叫んだ。違う、違う!

恋星は、誰よりも優しく、礼儀正しい子だ。

どうして、自分で育てた息子を信じてくれないの?

遥斗はボディーガードに命じて、息子を部屋の外へ放り出させた。

息子は床に倒れこんだまま動かなかった。

遥斗が腕時計を取り、美帆を慰めて部屋を出た時、彼はまだ頭を下にしてドアのそばに倒れていた。

「まだ芝居をしてるのか?小さなガキのくせに、随分腹黒いな」

そう呟きながら、彼は私のスマホに息子の写真を送りつけてきた。

「さっさと迎えに来い。これ以上恥を晒すなよ」

遥斗は知らない。私はすでに息子のそばに膝をつき、何度も何度も泣き崩れていることを。

この一瞬、私は遥斗と美帆を憎むより、自分自身を何百倍も憎んだ。

なぜ私は、息子がこんなにも酷い目に遭うのを、何もできずに見ているしかないの?

なぜ私は、こんなに早く死んでしまったの?

このまま美帆が本当に息子の継母になったら、私たち親子は、今日のような地獄を生き続けるの?

私が何もできずにいるうちに、遥斗は冷笑して立ち去った。

彼が出ていくと、息子はゆっくり意識を取り戻した。

汗と血が固まって、目が塞がれていた。

彼はもう立ち上がる力もなく、慣れた階段の方向を手探りしながら、這うように進む。

「ママ……恋星、ママのところに帰る」

廊下を通り過ぎる医者や看護師たちは、彼を見てひそひそと囁く。

同情の眼差しもあれば、あざけりの笑い声もあった。

私はただ、息子の後ろをついていくことしかできない。魂が千本の針で刺されるように痛い。

一歩一歩が、永遠のように長い。

やっとの思いで息子が病床に戻るころ、私の流した血は冷たい風に凍りついていた。

でも、息子はそれに気づかず、嬉しそうに微笑んだ。

「よかった……ママ、もう血が出てない!」

そう言って、力尽きて私の死体の隣で気を失った。

翌朝早く、最初に異変に気付いたのは清掃員だった。

彼女は悲鳴を上げ、転げるように階段を駆け上がった。

「し、死んでいる!」

その声で目を覚ました遥斗は、怒りに満ちた顔で医者や看護師たちを押しのけながら進む。

「また新しい手を考えたのか。今度は息子じゃなくて、清掃員を使って同情を引こうってか?」

でも、私が壁よりも青白い肌で倒れているのを目にすると、彼の顔から血の気が一気に失せた。

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