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結婚式三日前、婚約者は初恋の男に誓った第2話 二つの式

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翌朝、玲奈からLINEが届いた。

『撮影、無事に終わったよ。今夜には帰れそう』

僕は『お疲れさま』とだけ返した。

午前十一時、横浜の式場へ向かった。

海の見える小さなホテルで、親族と友人、合わせて二十八人だけを招く予定だった。

「水城様は、本日もお仕事ですか」

担当の須藤さんが、席次表と進行表を並べる。

「はい。軽井沢にいます」

「本当にお忙しいんですね。高瀬様にすべてお任せできるから、安心していらっしゃるんでしょうね」

悪意のない言葉が、きれいに刺さった。

何をしても、この人なら受け止めてくれる。

玲奈にとって、僕はそういう相手なのだろう。

完成イメージには、白いバラとユーカリで飾られた庭が描かれていた。

玲奈が歩きやすいよう、芝生の上に細い木製の通路を敷くことまで考えた。

夕暮れの光に映えるランタンも、料理も、席順も、ひとつずつ決めた。

玲奈に確認するたび、返ってくる言葉は同じだった。

『湊に任せる』

以前は、それを信頼だと思っていた。

「水城様、きっと喜ばれますね」

須藤さんが笑う。

軽井沢で見た玲奈は、僕の知らない顔で笑っていた。

あの笑顔を思い出すと、答えは簡単だった。

「須藤さん」

「はい」

「今から式をキャンセルした場合、費用はいくらかかりますか」

須藤さんの笑顔が止まった。

「……キャンセルをお考えなのでしょうか」

「キャンセルする場合の手続きだけ、教えてください」

この時点でキャンセルすれば、費用は全額こちらの負担になる。

金額は小さくなかった。

須藤さんは、キャンセル料の内訳と手続きの流れをひとつずつ説明してくれた。

七年を失うことに比べれば、お金で済む損失など、まだましだった。

申込代表者は僕だ。

須藤さんは、キャンセル届とペンを差し出した。

署名欄の上で、ペン先が一度だけ止まった。

玲奈には、まだ何も聞けていない。七年を終わらせる前に、本人の口から本当のことを聞くべきではないのか。

けれど、どんな言い訳を聞かされても、軽井沢で見た玲奈の笑顔が消えるわけではない。

わかっている。それでも結局、僕は名前を書けなかった。

「すみません。今夜まで、考えさせてください」

「承知しました。お決まりになりましたら、このLINEにご連絡ください」

須藤さんとのLINEを確認してから、未記入のキャンセル届を鞄にしまった。

式場を出ても、答えは出なかった。

玲奈に最後の機会を与えたいのか。

それとも、僕がまだ、七年を手放す覚悟ができていないだけなのか。

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