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終わらない夜の果てに第3話

この話は約2098字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。

この言葉に、瞳は鼻の奥がツンとなった。

そういえば、昔も翔平と喧嘩して家を飛び出すと、英樹が車で街じゅうを探し回って、おぶって家に連れて帰ってくれたっけ。

「また、すねてるのか?」あの時も、英樹は決まってこう言ったものだ。

英樹の背中におぶさりながら、爽やかなシダーウッドの香りに包まれていると、彼も少しは自分のことが好きなのかもしれない、なんて無邪気に信じていた。

今思えば――

英樹以上のクズ男なんていない。

自分のことなんて好きでもないのに、体だけ欲しがるなんて。

しかも事が終わった後には、書斎で百合の写真にうっとりと見惚れるなんて。

自分が百合のどこに劣るというのか、さっぱり分からない。

自分は家柄も、ルックスも、スタイルも、百合に負けているところなんて一つもないはずなのに。

他の誰かを好きになるならまだしも、でも、なんでよりによって百合なの。どうして百合じゃなきゃダメなの。

「離して!」瞳は目を赤く腫らし、英樹の手に思いっきり噛みついた。

英樹は眉をひそめたものの、何も言わずに車のエンジンをかけた。

そして、車を停めると、瞳のスーツケースを持ってさっさと家に入ってしまった。

「前と同じだ」英樹はカフスを外しながら、有無を言わせぬ口調で言った。「帰りたくなるまで、ここにいればいい」

瞳は玄関に立ったまま、爪が食い込むほど拳を握りしめた。「泊まるのは2週間だけ。そしたら出ていくから。家賃もちゃんと払うし、もうあなたの邪魔はしない」

「邪魔はしない、か」英樹はゆっくりと顔を上げ、金縁メガネの奥から底知れない視線で瞳を見た。「本当にできるのか?」

その言葉はナイフのように、瞳の胸に突き刺さり、心臓がぎゅっと締め付けられるように痛んだ。

やっぱり、英樹はとっくに気づいていたんだ。

最初はあんなに反発していた自分が、いつの間にか彼なしではいられなくなってしまったことを。

どうしようもないくらい、英樹を愛してしまったことを。

じゃあ、英樹は?心には初恋の人がいるくせに、こっちが溺れていくのをただ冷ややかに見ていたっていうの?

「百合さんは……」瞳は不意に切り出した。「私の継母の娘だって、知ってた?」

そう聞かれ、英樹はネクタイを緩める手を一瞬止め、「今日、知った」と答えた。

しばらく黙っていたが、瞳は堪えきれずに尋ねた。「百合さんとは、どういう関係なの?」

「高校の同級生だ」英樹は水を一杯注ぐと、ゆっくりと一口飲んだ。「生徒会の仲間でね。前に、交通事故のときに百合に助けられたんだ。それから彼女は体調を崩して、ずっと海外で療養していたんだ」

そう言って、英樹は瞳に警告の眼差しを向けた。「君がその義理の母とうまくいってないのは知ってる。だけど、この件は百合とは関係ない。百合を目の敵にするのは筋違いだ」

すると、瞳は、言いたい言葉が全て喉につかえてしまい、何も言い出せなくなった。

「彼女のこと、好きなの?」そう聞きたかったのに、もう何もかもがバカバカしく思えた。

あんなに百合をかばう様子を見れば、答えは聞かなくても分かるじゃない?

瞳はくるりと背を向けるとゲストルームに戻り、バタンと大きな音を立ててドアを閉めた。

その夜、珍しく英樹は瞳の部屋を訪ねてこなかった。

瞳はベッドに寝転がったまま、ぼんやりと天井を眺めていた。

そうよね、英樹の初恋の人が帰ってきたんだもの。もう自分のことなんか、目にも入らないんでしょ。

次の日、瞳は英樹と顔を合わせたくなくて、わざとお昼まで寝ていた。

でも、部屋のドアを開けると、予想外のことにも英樹がまだ家にいるのが見えた。

彼はソファに座り、すっと通った鼻筋に金縁メガネをかけて、経済雑誌を読んでいた。

「起きたか」英樹は雑誌から顔も上げずに言った。

「会社は、行かないの?」

「週末だ」

瞳は「そっか」とだけ言うと、冷蔵庫からデザートをいくつか取り出して、自分の部屋に戻ろうとした。

ところが、英樹が不意に口を開いた。「着替えろ。後でパーティーに付き合ってもらう」

瞳は断ろうとしたが、考え直した。英樹と二人きりでいるより、外の空気を吸った方がずっとましだ。

結局、彼女は言われた通りに着替えて、英樹について行くことにした。

でも、会場に着いてみて、瞳はそれが百合のための歓迎パーティーだと知った。

帰ろうとしたその時、百合が親しげに腕を絡めてきた。「瞳さん、来てくれて嬉しいです。おじさんと喧嘩なんてしないでください。瞳さんが家を出てから、彼は心配で食事も喉を通らないみたいだったんですから」

瞳は鼻で笑った。「あなたも彼がただの『おじさん』でしかないって、ちゃんと分かってるのね。なら、私が家出しようと彼と喧嘩しようと、あなたには関係ないでしょ?余計なお世話だわ」

彼女が百合の手を振り払って個室に入ると、視界の端で、百合が目を赤くして、切なげに英樹を見上げているのが見えた。

すると、英樹は険しい表情で瞳を一瞥し、警告の眼差しを向けた。

そしてすぐに、優しく百合の頭を撫でた。何かを囁くと、彼女は涙を拭いながら、笑顔を見せた。

それを見て、胸に走る鋭い痛みを噛み締めながら、瞳はうつむくと、シャンパンを一気に飲み干した。

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