終わらない夜の果てに第2話
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まさか、海外でずっと「療養」していた凪の娘が、英樹の初恋の人だったなんて、瞳は夢にも思わなかったから。
これは神様の悪戯なのか。
そう思っていると、百合がこちらへ歩いてきて、甘い笑顔を見せた。「瞳さん、すみません。お騒がせしちゃって……」
だが、百合が言い終わる前に、瞳はドアをぴしゃりと閉めた。
すると、ドアの外から翔平の怒鳴り声が聞こえた。「瞳!お前はなんて行儀が悪いんだ!百合がお前の部屋を気に入ったんだ、だからお前は彼女に譲れ!今日からあそこは百合の部屋だ!」
瞳は鼻で笑うと、すぐにクローゼットを開けて荷物をまとめ始めたが、ドアの向こうから、会話が断片的に聞こえてくるのだった――
「酒井おじさん、瞳さん、怒っているんですか?」百合の声は、とろけるように甘かった。
「あいつのことは放っておけ。小さい頃から甘やかされて育ったからな」
「でも……」
「心配するな。あいつはもうすぐ盛沢市に嫁に行く。そしたらこの家は、百合とあなたのお母さんのものだ」
それを聞いて、瞳の手がぴたりと止まり、そして、さらに冷たい笑みを深くした。
それから、彼女は手際よく月末の盛沢市行きの飛行機のチケットを予約し、荷造りを続けた。
そして、30分後、スーツケースを引いて部屋を出た。
リビングでは翔平と凪、そして百合がソファに座ってテレビを見ていて、テーブルには果物やお菓子が並んでいて、まるで本当に一家団欒した和気あいあいとした雰囲気だった。
そんな中、瞳は彼らに目もくれず、玄関へ向かった。
「待て!」翔平が鋭く叫んだ。「また何かを騒ぎ立てるつもりなのか?約束を忘れたわけじゃないだろうな!」
「安心して、約束は守るわ」瞳は振り返りもせずに言った。「ただ、この2週間、こんな胸糞悪い場所にいたくないだけ」
そして、瞳はそのまま街で一番高級なホテルに向かい、プレジデンシャルスイートを取った。
それからの数日間、狂ったように買い物を始めた。
最高級のウェディングドレスに、オークションで出品されたアンティークジュエリー、彼女は惜しげもなく大金を使ってこれでもかと買いあさった。
たとえ取引のような結婚だとしても、盛大に嫁いでみせるとこころに決めたのだ。
バッグの中でスマホが震え続けていたが、瞳は最後のダイヤモンドのネックレスを買い終えるまで取り出さなかった。
38件の不在着信は、すべて翔平からのものだった。
そして、応答ボタンを押した途端、翔平の怒鳴り声が聞こえてきた。「お前、気は確かか!?1日で600億も使いやがって!俺を破産させるつもりか!」
「何をそんなに焦ってるの?」瞳は鼻で笑った。「私が嫁げば、すぐに1兆が入るじゃない?」
「だが、その金はまだ手元にないんだ!このままでは、明日にも会社が潰れるじゃないか!」
それを聞いて、瞳は鼻で笑った。
そもそも、彼女は破産させるつもりでやっているわけなのだ。
そして、その1兆も、結婚したら中村家から直接自分の個人口座に振り込ませるつもりだった。
その時、百合とあの愛人女が、すべてを失った初老の男にまだ付いていくのか、見ものだ。
みんながみんな、自分の母みたいにお人好しだとでも思ってるのかしら。翔平とゼロから会社を立ち上げて、血を吐くほど働いて倒れたのに。最後は追い詰められて、ビルから身を投げるしかなかった。
そんな母を思うと、瞳の心臓はきゅっと締め付けられるように痛んだ。
そう思っていると、スマホがまた震えた。英樹からのメッセージだった。【また何をごねてるんだ?今日はなぜ会社に来ない?】
瞳は、そのメッセージをじっと見つめた。
この1年、英樹の「おしおき」のせいで、瞳はほとんど毎日、時間通りに会社へ出勤しなければならなかった。
でも、もうすぐ結婚する身なのに、今さら英樹に指図されるいわれはない。
たくさんのショッピングバッグを抱えてホテルに戻ると、自分の荷物がロビーに山積みになっているのが見えた。
「どういうことです?」瞳は冷たく問い詰めた。
フロントのスタッフは気まずそうに説明した。「酒井さんのカードが……ご利用になれませんので。当ホテルの規則によりまして……」
すると、タイミングよくスマホが震え、翔平からのメッセージが表示された。【縁を切りたいなら、俺のカードを使うな。お前の口座はすべて凍結した】
瞳はその画面を長い間見つめた。目の奥がツンとするほど、長く。
やがて、一言だけ返信した。【いいわ】
瞳はスーツケースを引きながら、街を歩いていた。
飛行機は月末だ。今すぐどこかへ行けるわけでもない。この2週間、どこに泊まって、何を食べ、どうやって生活すればいいの?
スーツケースの中身はウェディングドレスと高価なガラクタばかりで、一つも売ることはできない。お金を借りるにしたって……
周りで自分を笑いものにしている連中に頭を下げるくらいなら、野宿した方がましだ。
近くの公園のベンチでなんとか横になれそうだったが、瞳が荷物を置いた途端、酔っぱらった男が近寄ってきた。
「ねぇ、一人かい?」
「あっち行って!」
「そんなに怒るなって。俺と遊ぼうよ……」
男のべたつく手が肩に置かれた瞬間、瞳は平手打ちをしようと手を振り上げた。
すると「うわぁっ!!」
悲鳴が響いた。
いつの間にか現れた英樹が、男の手首を力任せに捻じ伏せていた。
そして、瞳が状況を飲み込む前に、彼女は荷物ごと車に引きずり込まれた。
「離して!」
英樹は暴れる瞳の手首を掴み、押さえつけた。「一体何を騒いでいるんだ?」
彼は低い声で言った。「家を追い出されて、俺を頼ることもできないのか?」
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