紗月の遺書第2話
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病院で、医師は深刻な表情を浮かべていた。彼は私に告げる。保存的治療を選んだ場合、残された時間は長くて一か月。短ければ半月、一週間、あるいは数日かもしれない。
すべては不確かだという。
それでも私は、保存的治療を選択する。
医師は小さくため息をつき、部屋を出る前に鎮痛剤を手渡した。
病室を出た瞬間、思いがけない光景が目に入る。真吾と、瀬奈。
瀬奈は彼の肩に寄り添い、二人はかなり近い距離で何かを話している。
真吾の口元には、うっすらと笑みまで浮かんでいた。
それは、私と一緒にいた頃には一度も見たことのない表情。
脇から看護師の声が聞こえる。「玉木社長が彼女を連れて結婚前の検査に来ているなんて、羨ましいですね。二人はもうすぐ結婚するらしいですよ」
私はその場で体が固まる。心の中で思わず毒づいた。
最低な男ね。離婚届すら正式に処理していないくせに、もう別の女と結婚する気なのか。
「紗月さん」
無視して立ち去ろうとした私の前に、瀬奈が立ちはだかる。
仕方なく足を止める。「どいて」
私の言葉など聞こえないかのように、彼女は一歩も動かず、勝手に話し始めた。「偶然だね、紗月さん。来月は私と真吾の結婚式なんだ。ぜひ来てくださいね」
眉を上げるその表情には、露骨な挑発がある。
確かに私は病気だ。でも、まだ死んではいない。
私は迷わず、彼女の頬を叩く。瀬奈は床に倒れ込んだ。
「紗月、いい加減にしろ」
真吾が私の襟元を掴み、強く壁に押し付け、声には怒りが滲む。「瀬奈に謝れ」
「離してくれたら、謝るわ」
私は込み上げる血の気を必死に抑え、彼を見上げる。
真吾は半信半疑のまま手を離した。その瞬間、私は彼の頬を打つ。
「彼女だけじゃない。あんたも叩く。
本当に人でなしね、真吾。十年の結婚生活があったのに、離婚も終わっていないうちから、もう愛人と結婚する気?」
瀬奈の瞳に涙が溜まる。「紗月さん、L市中が知ってるよ。真吾にしがみついていたのはあなたなんだ。あなたがいなければ……」
「黙れ!」
私はバッグを振り下ろし、彼女の悲鳴の中で顎を掴む。
「ここで口を出す資格があると思ってるの?あんた、何様?」
額から血を流し、瀬奈が怯えた目で真吾を見る。真吾は私を引き離す。「紗月、もう十分だろう」
その言葉と同時に、鼻から熱いものが流れ落ちる。
真吾が一瞬、固まった。「紗月、鼻血が出てる。大丈夫か?」
私は彼の手を振り払い、適当に拭う。「全部、あんたたちみたいな最低な二人のせいよ。これ以上、私の前に現れないで。次に会ったら、また叩く」
「お前……」
彼の顔に浮かんだ心配は、すぐに苛立ちへと変わる。
でも、そんなもの、どうでもいい。
私はバッグを手に取り、振り返らずに歩き出した。
病院を出て角を曲がり、トイレに入った途端、鼻血が一気に溢れ出す。
どうしても止まらない。
少しだけ、安堵した。早く立ち去って正解だった。
でなければ、真吾という最低な男に、無様な姿を見られるところだった。
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