秋風に消えた想い第2話
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「夏美は公にできない関係で我慢してもらっているから、もう十分辛い思いをさせているんだ。だから、こんなささやかなプレゼントでは、とても埋め合わせにならないよ。
できることなら、彼女とだって式を挙げたいんだから」
オフィスの外で、霞は必死に正気を保とうと自分の腕をつねっていた。
かつて自分と結婚するためなら、家族全員を敵に回すことも厭わなかった要が、まさか他の女を愛しているなんて、信じられなかった。
ありえない。
10年前、霞が病で倒れ、病院から要に何度もかなり危ない状況であるという連絡が来た時、海外にいた要はすぐにチケットを取り帰ってきてくれた。そして、山奥にある神社に毎日通っては祈りを捧げてくれたのだった。
二人で交通事故に遭った時も、要は迷わず霞を庇い、意識不明の時でさえ、霞の名前を呼び続けていたし、家族に結婚を反対された時は、すべてを捨てて霞と心中しようとまでした。
そして、やっとのことで霞と結ばれた日、要は誓った。
「何度生まれ変わっても、俺はお前だけを愛し続ける。もしこの誓いを破るようなことがあれば、望んで天罰を受けるよ」
……
あれから長い月日は経っていないというのに、要は心変わりしている。それどころか、夏美を愛してしまったのは仕方なかったなんて言っているのだ。
なんて愚かなのだろう。二人の女を同時に手に入れようとするなんて。
しかし、霞は最初からはっきりと要に伝えていた。二股なんて絶対に許さない、と。
中途半端な愛情なんていらない。もし心変わりしたら、きっぱりと別れると決めている。
その時、オフィスの中から要の苛立った声が聞こえてきた。
「霞が来てること、なんで前もって報告しなかったんだよ!それに、どうして彼女をここまで上らせたんだ?」
中の様子に気づいた霞は、素早く涙を拭うと、平静を装ってドアを開けた。
霞の姿を見るなり、要の目に明らかな動揺が走る。
「霞、いつ来たんだ?」
全部聞こえていたよ、と本当は言いたかった。
でも、それを言って何になるというのだろう?たとえ言ったとしても、自分の立場が不利になるだけだ。
下手すれば逆ギレされて、あれこれとこちらの非を責められるかもしれない。
そう考え、霞は問い詰めたくなる気持ちをぐっとこらえた。
「今来たとこ。どうしたの?何か私に何か隠しごとでもあるの?」
霞は明るく笑ってみせる。
要の友人たちはそんな霞の様子を見て不憫に思ったが、それでも要に協力して取り繕った。
「そんなわけないだろ?要は君に一筋なんだから」
「ああ、そうだよ!君を喜ばせたくて、サプライズを準備してるんだって。俺たちにもずっと相談してきてさ」
霞は彼らの言っていることが全て嘘だと知っていたが、何も言わずに持ってきたお弁当を広げ、みんなに勧める。
要の友人たちは笑顔で手を伸ばしたが、その手が弁当に届く前に要は彼らを追い出した。
要はぐっと手を伸ばして霞を抱き寄せると、霞が少しでも疲れてしまうことを心配し、肩を揉んだり足をさすったりした。
「こんなことは他の人に任せればいいんだ。お前はもっと休んで。お前が疲れている姿を見ると、俺が辛くなるからさ。
体調は良くなった?この前電話をくれた時、すごく焦ってるみたいだったけど」
霞の手がぴたりと止まる。「なんでもないよ。たいしたことじゃないから」
霞はうつむくと、すぐに話題を変えた。
「そういえば、橋本さんは今どうしてるの?」
要は一瞬、虚を突かれたような顔をしたが、すぐに嫌悪感を露わにして言った。
「なんであんな女の話を?あいつは恥知らずな女だ。海外に追い出すだけで止めてやったのも、俺の慈悲ってもんだよ」
霞はそれ以上追求せずに、ただ早く食べるように促す。
しかし霞の顔色が悪いのに気づいた要は、すぐに彼女を抱き上げ、病院へ連れて行こうとした。
道中、要はずっと霞を強く抱きしめ、甘い言葉を囁き続ける。
霞が寒くないようにと服をかけ、暑くないかと団扇で扇ぎ、喉が渇いていないかと水を飲ませようとする。
霞は黙ってそれを受け入れていたが、特に返事をすることはなかった。
次第に、要も違和感に気づきはじめる。
「霞、どうかしたか?なんでそんな急に冷たくなったんだ?」
霞は深く息を吸い込み、口を開こうとした。
しかしその瞬間、間の悪いことに要のスマホが鳴った。霞は横目でスクリーンに表示された名前を見た。
【夏美】
体を強張らせた要だったが、メッセージの内容を見た瞬間、みるみるうちに耳の先まで赤くした。
要は困ったように霞を見つめる。
「霞。ごめん、急に思い出したんだけど……今から大事な海外との会議があったんだ……
だから、その……」
霞は強く拳を握りしめた。爪が手のひらに食い込む。
しかし、表情は平静を保ったまま言った。「行ってきて。私は一人で大丈夫だから」
要が車を降りた後、霞は車内のパーティションを上げる。
スマホであるアプリを起動すると、二人のやり取りがはっきりと表示された。
【生理終わったよ。だから、会いに来ても大丈夫だよ!】
【この小悪魔め、待ってろよ】
霞の胸は締め付けられた。要が自分の潔白を証明するために用意したものが、まさか彼の不貞の証拠になるなんて、思いもしなかっただろう。
目にゴミが入ったわけでもないのに、霞の目からは大粒の涙がこぼれ落ちた。
しばらくして、霞はかけ慣れている番号に電話をかけた。
「お兄ちゃん、家に帰りたい」
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