秋風に消えた想い第3話
この話は約1663字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。
電話の向こう側からは、兄・小山亮太(こやま りょうた)の喜びを爆発させた声が聞こえた。
「本当か!ならよかったよ、霞。やっと決心してくれたんだな。お父さんとお母さんも、ずっと霞のことを心配してたんだから。何年も待ってたんだぞ、やっと帰ってきてくれるのか」
久しぶりの温かい言葉に、霞は声を詰まらせる。
「こっちのことが片付いたら、すぐに帰るから。これからは家族みんなで、ずっと一緒だよ」
なんだか妹の言葉に違和感を感じ、亮太は心配になった。
「もしかして、要に何かされたのか?もしそうだったら、俺に言ってみろ。俺の妹に何かしてたら、あいつ……絶対タダじゃおかないから」
霞は慌てて亮太を宥める。「お兄ちゃん、私は大丈夫。自分でなんとかするから」
少し声が震えた。「1ヶ月で片付けてみせる」
霞の強い決意を感じ、亮太はそれ以上何も言わなかった。
「わかった。じゃあ、1ヶ月後に迎えに行くから。何かあったらいつでも連絡しろよ」
霞は孤児で、要以外に頼れる人がいないと要は思い込んでいたので、霞を蔑ろにしてもそんなに問題はないと勘違いしていた。
しかし実際は、霞の家族が何年も前に霞を見つけてくれ、家に連れて帰ろうとしていたのだ。当時の霞は、要のためにすべてを断固として拒否していたのだが、今になって考えれば、自分は本当に愚かだったと思う。
電話を切ってしばらくすると、霞はふと思った。1ヶ月後には、もうあの人とは何の関係もなくなるのか……
これからは、本当の家族のもとへ帰り、要の世界からは完全に姿を消す。
霞は要と暮らしていた家に帰ると、これまでの自分の痕跡を消し始めた。
子供の頃に作ったミサンガ、着ていた服、手描きの絵。それらはすべて要が大切に保管し、専用の部屋に飾られていた。
昔は数日おきに彼女をその部屋へ連れてきては思い出に浸っていたのに、今ではすべてが埃をかぶっている。
霞の視線が、洗いすぎて色落ちしているワンピースに止まった。
それは7歳の時、孤児院で初めて要に会った時に着ていた服。その時の要は霞を一目見ただけだったのに、家に連れて帰ると言って聞かなかったのだ。
18歳の時、要は長年大切に保管してきたそのワンピースをバラの形に折りたたみ、その上にダイヤモンドの指輪を置いて、彼女の前に片膝をついた。
「霞、愛してる。お前を初めて見た瞬間、俺は完全に心を奪われたんだ。どうか、永遠にお前のそばにいさせてくれないか?」
しかし、今となっては部屋中にあふれる高価なプレゼントの数々を見ても、霞はただ滑稽に感じるだけだった。
かつて誓った永遠の愛も、結局はただの笑い話に過ぎなかったのだから。
霞はそれらをすべて使用人に運び出させると、まとめて火をつけた。
炎の光が、彼女の青白い顔をぼんやりと照らす。
これまでの思い出が、映画のように目の前を通り過ぎていった。
かつては命がけで自分を守ってくれた少年が、今では別の誰かを愛してしまったと、その口で言っていた。
結婚式で生涯愛するのは一人だけと誓っていた完璧な夫は、自分が死にかけている時に、他の女と体を重ねていた。
それに、新しい恋人を安心させるためなら、自分が一生病気に苦しむことさえ厭わないらしい。
霞の心は、まるで燃え盛る炎に焼かれ、血が滲むほどに傷つけられたかのように痛んだ。
深夜帰宅した要は、がらんとした家の中を見て呆然とした。
「霞、どうしたんだ?急に部屋の雰囲気が変わったな」
「前のにはちょっと飽きちゃって。誰だって、古いものより新しいものの方が好きでしょ?違う?」
霞は皮肉な笑みを浮かべて要を見た。近づかなくても分かる。彼の体から甘いストロベリーのボディソープの匂いが香ってくるのは。
手首には、所有権を主張するかのような口紅の跡までついている。
要は何のことかさっぱり分からなかったが、それでも笑顔で霞を抱きしめた。
「はいはい、お前の言う通りにするよ。お前が好きだって言うなら、何にしたって構わないさ」
「それなら、この契約書にサインして」
霞は要の腕から抜け出し、用意しておいた離婚協議書を渡す。
「これは何だ?」
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