私を蔑み、母になる未来まで奪った夫などもういらない第2話
この話は約1778字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。
隣の救急車から飛び出してきた医師が、血まみれになって這いつくばっている私を見て驚愕の表情を浮かべる。
その声は恐怖でうわずっていた。
「何してるんですか!?ここにこれほどの怪我人がいるのに、誰も助けないなんて!」
その瞬間、私は力尽き、その場に崩れ落ちた。
周りの音も遠のき、まぶたが自然と閉じていく。
すると、理仁が大股で歩み寄ってきて、自信満々に医師へ言った。「先生、放っておいてください。こいつは演技してるだけで、こんな汚い手で俺の気を引こうとしているんです」
医師は驚きで目を丸くした。「この方は瀕死の状態ですよ!?放っておけるわけがないでしょう!医者である私が一目見れば、それが本物かどうかなんてすぐ分かりますから!」
その大声で、周囲には人だかりができる。
社員なら誰でも、私が理仁の妻だと知っていたので、大勢の前で社長としてのメンツを潰された理仁は、怒りで顔を紅潮させた。
彼は倒れたままの私を蹴り、「柚葉、いい加減にしろ。演技ならもう十分だ。もうこんな恥を晒すことはするな!」と怒鳴る。
「俺と結婚してるからって、何をしても許されるわけじゃないんだからな。これ以上騒ぐなら訴えるぞ?」
しかし、それでも私から反応が得られなかった理仁は、しゃがみ込み、私の顔を掴んで無理やり上を向かせた。
「柚葉、何か言えよ。みんなの前でこれは全部演技でしたって認めろ。
じゃないと、俺が虐めてるみたいじゃないか!」
意識が朦朧として力なく目を閉じている私に痺れを切らし、理仁は力任せに私の頬を張り飛ばす。
衝撃で強引に意識を引き戻された私の耳に、再び声が響いた。「答えろ柚葉!これは全部演技だと言え!お前は昔からこうやって、人を騙してきたんだもんな!」
声も出せず、私は首を振ることしかできなかったが、手は無意識に、自分の腹部へと向かった。
どんなことがあろうとも、お腹の命だけは母親として守りたかった。ただそれだけ……
しかし、私が腹部を押さえる様子を見た理仁は鼻で笑った。「すごい女優根性だな。なんだ、まさか妊娠でもしたって言う気か?」
その言葉で、私の目はたちまち真っ赤に染まり、涙がとめどなくこぼれ落ちていく。
その通りだよ、理仁。このお腹には私たちの子供がいたの。
でも、もうこの子は私たちの元を離れてしまった。
涙を流し続ける私を見て、理仁は軽蔑しきった様子で目を背けた。
「ぼろぼろ泣きやがって。主演女優賞でも狙うのか?ったく、呆れるよ」
理仁は医師や野次馬に向かって声を張る。「皆さん、見てください。こいつは痛いところを突かれたからって、返事もできなくなったんです!
もう何も面白いことなんてありませんから、さっさとこの場を離れてくださいよ」
すると、業を煮やした医師が、理仁を強く突き飛ばした。
「いい加減にしてください!出血性ショックの切迫流産なんですよ!今すぐ病院に運ばないと命の危険性もあるんですから!」
突き飛ばされた理仁は、私の体調を案じるどころか、「もしかして、こいつに頼まれて、そんなこと言ってるんじゃないですか!?」と医師を問い詰める。
周囲の同僚たちまでが、堪りかねたように声を上げ始めた。
「社長。森田部長は社長の奥さんですよね?10年も連れ添ったのに、なんで信じてあげないんですか?」
理仁は鼻で笑った。「こいつが本当に妊娠してたっていうなら、そいつは生まれてこられなくて当然だろ?」
彼の目がふっと暗くなる。「ここ数年、こいつのことなんか1回も抱いていないんだから、どこかで作った種に決まってる」
私は絶望の中で、そっと目を閉じた。
そうなのだ。涼子が現れてから、理仁と夜を共にするどころか、彼は家に帰ってくることすらなかった。
でも、あの夜……酔い潰れた理仁は、私を涼子と間違えて強引に抱いた。
理仁、生まれる前に命を失ってしまったこの子が、本当にあなたの子供だって知ったら、後悔くらいはしてくれるかな?
そしてこの瞬間、私は心の中で静かに誓った。
もし、この試練を乗り越えて生き延びられたなら、理仁と完全に縁を切る。
心優しい医師が私を抱き抱え、看護師を呼んで搬送しようと走り出した。
これで助かると思った瞬間、目の前に涼子が立ちはだかった。
彼女は私を指さして叫んだ。「先生、そんな女を放っておいてください!助ける価値なんてないです!
だってこの火事は、この人がわざと火をつけたんですから!」
縦書き表示中:本文は右から左へスクロールします(← → キーでも移動できます)