私を捨てた家族など、二度と振り返らない第2話
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「結月お姉ちゃん、このケーキ、半分こにして一緒に食べましょう?」
杏奈が綺麗に切り分けたケーキの皿を差し出してきたが、私は見向きもせずに背を向け、自分の部屋へと歩き出した。
「いらない」
背後から、すかさず蒼大の嫌悪感もあらわな声が聞こえてくる。
「放っておけよ、杏奈。あいつのあの捻くれた性格は今に始まったことじゃないだろ」
自室に戻るなり、私はガチャリとしっかりとドアの鍵をかけた。
ドア一枚を隔てた向こう側から聞こえてくる、あの和気あいあいとした団欒の笑い声を完全に遮断するように。
部屋の隅にある勉強机に向かい、一番下の引き出しを引く。
そこには、この8年間で彼らから「もらった」プレゼントがすべて収められている。
たとえば、お父さんが出張のついでに適当に買ってきた、観光地によくある安っぽいキーホルダー。
あれをポンと渡された日、私は飛び上がるほど嬉しくて、握りしめたまま一晩中眠れなかったっけ。
でも後になって知ったのだ。
同じ日、お父さんが杏奈に渡したのは、キラキラと輝く有名ブランドのブレスレットだったことを。
お母さんが「流行遅れだから」と押し付けてきた、毛玉だらけのマフラー。
蒼大が機種変更したときにお下がりで渡された、バッテリーのいかれたスマホ。
彼らはいつもそうだった。
杏奈に高価なプレゼントを買ってあげるたび、罪滅ぼしのように、こうやってゴミ同然のものを私にあてがって誤魔化してきたのだ。
引き出しの一番奥には、古いアルバムがしまってある。
ページをめくると、そこに写る家族写真の主役は、いつも可愛いドレスを着た杏奈だった。
両親と蒼大に真ん中で囲まれ、まるでお姫様のように幸せそうに笑っている。
対する私は、いつも一番端っこに追いやられていた。
何枚かは蒼大の背中の影に隠れて顔の半分しか写っていなかったり、ピントすら合っていないものもある。
以前の私なら、それでも捨てられなかっただろう。
彼らからの愛情の欠片だと信じて、宝物のように大事にしていたから。
けれど今は違う。
私はそれらを乱暴に掴み取ると、ゴミ袋の中に容赦なくすべて放り込んだ。
翌朝。
せっかちにドアをノックする音とともに、お母さんの声が響いた。
「結月、開けなさい。もうすぐ新生活が始まるんだから、ショッピングモールに足りないものを買い出しに行くわよ」
私と杏奈、二人の新生活のためだと言いながら。
彼らの目に、私の姿なんて微塵も映ってはいなかった。
高級コスメのフロアで、お母さんは杏奈の手を優しく引いていた。
「杏奈ちゃん、西の港湾都市は海風で肌が荒れやすいからね。
敏感肌のあなたのために、おばさん徹夜でリサーチして、このブランドのスキンケア一式が一番いいって見つけてきたのよ」
振り返れば、お父さんが何着もの最高級シルクのパジャマを抱えて駆け寄ってくる。
「実家を離れての生活なんだから、我慢なんてしちゃ駄目だぞ。肌に直接触れるものは、一番着心地のいいものを選びなさい」
買い物を終えてショッピングモールを出る頃には、蒼大は杏奈のために新調した二つの巨大なトランクを引きずり、その両腕には数え切れないほどのブランドの紙袋をぶら下げていた。
そして、私の手にあるのは、たったひとつのシンプルなキャップだけ。
「杏奈ちゃんがもう被らない帽子がたくさんあるじゃない。それをお下がりでもらえばいいでしょ?わざわざ新しいのを買う必要なんてないわ」
お母さんにそう鼻で笑い飛ばされたから。
結局、このキャップすらも、私が自分で貯めたなけなしのバイト代で買ったものだった。
ショッピングモールのエントランスを出ると、広場に停まっていたキッチンカーから、焼きたてのクレープの甘い匂いが風に乗って漂ってきた。
杏奈がふと足を止め、目を輝かせる。
「わあ、いい匂い……」
その一言で、蒼大は躊躇なく自分の持っていたトランクを私の方へと押し付けた。
「結月、お前これ見張っとけ。俺が杏奈に買ってきてやるから」
巨大なトランク二つと杏奈のボストンバッグが、すべて私に押し付けられる。
「あっ、お兄ちゃん、私自分で持つよ。お姉ちゃんも自分の荷物があるのに悪いよ」
杏奈はそう言って、私が支えていたトランクの一つに手を伸ばしてきた。
だが、彼女の指は持ち手をしっかりと掴む前に滑り落ちた。
「あっ……!」
一番重いトランクがスロープの傾斜に沿って、勢いよく滑り落ちていく。
私が立っていたのは、ちょうど階段のすぐそばだった。
「危ない、どけ!」
蒼大の怒鳴り声が響いたが、もう遅かった。
トランクの硬い角が私の膝に容赦なく激突する。
バランスを崩した私は階段を数段転げ落ち、咄嗟についた手のひらを花壇のレンガの角で思い切り擦り剥いた。
目の前が真っ暗になるほどの激痛が走る。
トランクに引っ張られるようにして半歩よろめいた杏奈も、足首を捻ってその場にペタンと座り込んでしまった。
彼女は瞬時に目に涙を浮かべ、ポロポロとこぼし始めた。
「お姉ちゃん、ごめんなさい!私、わざとじゃなくて……っ」
――次の瞬間。
両親と蒼大は、地面に倒れ込んで血を流している私を文字通り「飛び越えて」、杏奈の元へ駆け寄った。
「ああ、足首がこんなに腫れて!痛いでしょう?もう、この子はなんて無理ばっかりして……!」
お母さんはしゃがみ込み、パニックになったように杏奈の足元をさすっている。
お父さんは恐ろしいほど険しい顔つきになり、杏奈を抱き起そうとした。
「無理に動かすな。骨に異常がないか、すぐに病院で診てもらおう」
クレープ屋に向かっていたはずの蒼大も血相を変えてすっ飛んでくると、私には目もくれず、杏奈を背中に背負い上げた。
「病院だ!すぐ病院に連れて行くぞ!」
私は冷たい階段に座り込んだまま、ただ呆然と彼らを見ていた。
膝はズボンが破れてひどく擦り剥けているし、レンガで切った手のひらは皮が深くめくれ上がり、生々しい血がボタボタと滴り落ちている。
あまりの痛みに震える唇で、私は絞り出すように呟いた。
「……お母さん」
その声に反応したお母さんは、弾かれたように振り返り、親の仇でも見るかのような目で私を睨みつけた。
「今度は何なの!?杏奈ちゃんがこんなに痛がってるのに、あなたって子はまた邪魔する気!?」
杏奈を背負って車へ向かいながら、蒼大も冷酷な声で私を罵倒する。
「荷物一つまともに見てられないのか!お前がトロトロ突っ立って邪魔するから、杏奈が転んだんだろうが!」
蒼大の背中で、杏奈が涙に濡れた長い睫毛を伏せて首を振る。
「蒼大お兄ちゃん、お姉ちゃんを責めないで……私がどんくさかっただけだから……」
その殊勝な言葉に、お母さんの怒りはさらにヒートアップした。
「こんな時まであの子を庇うなんて!あなたは本当に優しすぎるから、いつも馬鹿を見るのよ」
お父さんがすでに車のドアを開け、大事な宝物を扱うように杏奈を後部座席に乗せていた。
そして、ようやくチラリと私を振り返り、ひどく面倒くさそうに言い放つ。
「結月、お前は自分でタクシーでも捕まえて帰りなさい。俺たちは杏奈ちゃんを病院へ連れて行くから」
「私だって……手が、痛いのに……」
青ざめた顔で、震える唇から必死に声を絞り出したけれど。
バタンッ!
無情に閉められた車のドアの音が、私の微かな声を完全に掻き消した。
排気ガスを残して走り去る車を、私はただ一人、血の滴る手を押さえたまま見送ることしかできなかった。
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