私より幼なじみ?そんな夫いらないわ!第2話
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病院の廊下の照明は目がくらむほど眩しかった。
医師は私の検査結果を見て、真剣な表情を浮かべた。
「胃はかなりやられてますね。治療はこれ以上先延ばしにはできません。
直ちに入院しましょう」
私はカバンのハンドルをぎゅっと握りしめた。
「明日は用事があるんです。また今度でいいでしょうか?」
医師は顔を上げて私を見た。
「命よりも大切な用事なんてあるんですか?」
私は答えなかった。
傍らで看護師が小声で尋ねた。
「お一人でお越しですか?」
私はうなずいた。
彼女は私の薬指を一瞥した。
そこには私が再び嵌めた指輪があった。結局まだ捨てられていないのだ。
「ご家族に連絡しましょうか?」
私は手をポケットに隠した。
「家族はいません」
看護師はそれ以上尋ねなかった。
点滴を受けている間、けいから3回電話がかかってきたけど、私は出なかった。
4回目の電話がかかってきた時、私はいっそう通話を切った。
すると彼からメッセージが届いた。
【ヤスくんの手は大丈夫だ。ちょっと擦りむいただけだ】
【今どこにいる?】
【ネネ、離婚なんて冗談はやめてくれないか】
私は画面を見つめた。
ふと、とてもつまらなく感じた。
彼はいつもこうだ。
結月のほうではいつも大事な出来事が起きている。彼は靴を履き替える暇もなく駆けつける。
私のことになると、「冗談はやめてくれないか」の一言だけ。
私はスマホの電源を切った。
目を閉じた途端、隣のベッドのおばさんが私に話しかけた。
「旦那さんと喧嘩したの?」
私は何も言わなかった。
彼女は独り言のようにため息をついた。
「男ってやつは、甘やかしてはいけないのよ。
あなたが大人しくすればするほど、男は『この女は何されても文句言わない』って思うものよ」
私は微笑んだ。
「明日、離婚するんです」
おばさんは少しびっくりした様子だった。
「本当に?」
「ええ」
「私が言うのも何だけど、それでいいの?」
私は点滴のチューブから一滴一滴と滴り落ちる薬液を見つめた。
しばらくして、ようやく口を開いた。
「残念ですが、仕方ないですもの。
彼はとっくに私のことなんてどうでもよくなったんですから」
……
夜11時、けいが病院にやって来た。
彼がドアを開けて入ってきた時、体には外の冷気がまとわりついていて、シャツの袖口はまくり上げられ、手の甲には少し血が付いていた。
彼のものではない、おそらく結月の息子のものだろう。
私が点滴をしているのを見ると、彼はすぐに眉をひそめた。
「また胃の調子が悪くなったのか?」
私は顔を上げなかった。
「中村機長、もう用事は済みました?」
彼の表情が曇った。
「どうしてそんな言い方をするんだ?」
私は顔を上げて彼を見た。
「じゃあ、どう言えばいいの?
『お忙しい中、時間を割いて法律上の妻を見に来てくれてありがとうございます』とか?」
けいは言葉を詰まらせた。
彼は手に持っていたフードカップを私の隣に置いた。
「うどんを買ってきた」
私はそのカップを見つめた。
知っている店のものだ。
結月が一番好きなうどんだということだって知っている。
「ニンニクは苦手よ」と私は言った。
それを聞くと、けいの手が止まった。
しばらくして、彼が蓋を開けると、湯気が立ち上ったそれは、ニンニクの入ったかけうどんだった。
彼の顔に気まずそうな表情がよぎった。
「忘れてた」
私はうなずいた。
「うん」
七年も経つのに、彼はまだ忘れてしまう。
でも、結月が冷たい水を飲めないことは、彼は覚えている。
ヤスくんがマンゴーアレルギーなことも、彼は覚えている。
結月が夜行便の前にメラトニンを半錠飲むことも、彼は覚えている。
それなのに、私がニンニクが苦手なことは、忘れてしまうんだ。
けいは蓋を閉め直し、声を和らげた。
「ネネ、今日はわざと君を置き去りにしたわけじゃない。
ヤスくんはまだ子供だし、結月は帰国したばかりで、周りに誰もいないんだ」
それを聞いて私は彼に問う。
「彼女には両親がいないの?」
「ご両親は地方にいる」
「友達はいないの?」
「彼女は繊細な性格で、人に迷惑をかけるのが嫌なんだ」
「同僚はいないの?」
けいは言葉を止めた。
私が彼の言葉を補った。
「いるわ。
でも、迷惑をかける相手はあなたがよかったってことよ」
彼の顔に少し苛立ちが浮かんだ。
「彼女をそんなに悪く思わないでくれないか?」
私は彼を見つめた。
「それなら、私が痛くないって思わないでくれない?」
その言葉で、病室は静まり返った。
けいは喉に何かが詰まったように、しばらく声を出せなかった。
私は針を抜くと、綿棒で出血箇所を押さえた。
看護師が慌てて駆け寄ってきた。
「ちょっと、まだ点滴が終わってないんですよ」
「もういい」
けいが手を伸ばして私を抑えようとした。
「わがまま言うな」
私は彼を見つめ直した。
「明日の朝9時。
市役所で会いましょう」
彼の手が硬直した。
「俺は行かない」
私はカバンから協議書を取り出した。
「いいえ、あなたは行くわ」
彼は冷笑した。
「俺がサインすると思うのか?」
私は協議書の最後のページをめくった。
「離婚協議書なら、もうサインしてるじゃない。法的にもう有効よ。あとは、届け出だけ」
けいはそのサインをじっと見つめ、表情が完全に崩れた。
「何だそれは?」
「先月、あなたがサインしたものよ。
会社の書類が多すぎるから、署名が必要な箇所をまとめてくれって言ったでしょ。
その時よ。あなたは内容も読まずに、これにそのまま署名したのよ」
「ネネ、君……俺をはめたのか?」
「そうよ」
私は即座に認めた。
彼は逆に何とも言えなくなった。
私は綿棒をゴミ箱に投げ捨てた。
「チャンスはあげたわ。
あの日、3回も『見る?』って聞いたでしょ。
でも『うるさいな、結月が電話の返事を待ってるんだ』って言ったのはあなたじゃない?」
けいの胸が激しく上下した。
「離婚は遊びじゃないぞ」
「私にとっても、そうよ」
私はコートを持って外へ歩み出した。
彼が後を追ってきた。
「一体どうしたいんだ?」
私は廊下の突き当たりで立ち止まって、振り返って彼を見た。
「明日、時間通りに来てほしいの。
それが最後よ。今度こそ、待たせないで」
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