私より幼なじみ?そんな夫いらないわ!第1話
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機長である夫・中村けい(なかむら けい)が、私たちの結婚指輪を、夫を亡くした幼なじみ・林結月(はやし ゆづき)にお守りとして渡していた。
それを知った私・桑田ネネ(くわた ねね)は、彼の連絡先を「けい」から「中村機長」に変名した。
私が急性胃出血で倒れた時、彼はその幼なじみから「息子のヤスくんが真夜中に悪夢を見てパパと一緒に寝たいって言ってる」という電話を受けると、振り返りもせずに家を出て行った。
彼は私の再検査に付き添うと言ってくれたのに、乗務員である幼なじみが「雷雨が怖い」と泣きながら訴えると、彼はフライトを変更してまで彼女と一緒に飛ぶことにした。
私は再検査の結果を写真に撮って彼に送り、一言だけ送った。
【中村機長、せいぜい安全なフライトを】
そんなことがしばしばあって、彼は毎回【ふざけるのも大概にしろ、あの子たち母子は大変なんだから】みたいなメッセージを返信してくる。
その後、私たちの結婚7周年記念日がやってきて、彼はプロポーズの時と同じレストランを予約し、私に結婚指輪を再びはめてあげると言った。
レストランの入り口で、またその幼なじみから電話がかかってきた。
「けい、怖いから迎えに来てくれない?ヤスくんが、パパがいい、パパはあなたしかいないって聞いてくれないの……」
けいは私を一瞥し、説明しようとした。
しかし、私はその先に、手に持っていた指輪の箱をウェイターに渡した。
「これを捨ててください」
そして振り返ってけいに言った。
「中村機長、行ってあげたら?」
* * *
機長である夫・中村けい(なかむら けい)が、私たちの結婚指輪を、夫を亡くした幼なじみ・林結月(はやし ゆづき)にお守りとして渡していた。
それを知った私・桑田ネネ(くわた ねね)は、彼の連絡先を「けい」から「中村機長」に変名した。
私が急性胃出血で倒れた時、彼はその幼なじみから「息子のヤスくんが真夜中に悪夢を見てパパと一緒に寝たいって言ってる」という電話を受けると、振り返りもせずに家を出て行った。
彼は私の再検査に付き添うと言ってくれたのに、乗務員である幼なじみが「雷雨が怖い」と泣きながら訴えると、彼はフライトを変更してまで彼女と一緒に飛ぶことにした。
私は再検査の結果を写真に撮って彼に送り、一言だけ送った。
【中村機長、せいぜい安全なフライトを】
そんなことがしばしばあって、彼は毎回【ふざけるのも大概にしろ、あの子たち母子は大変なんだから】みたいなメッセージを返信してくる。
その後、私たちの結婚7周年記念日がやってきて、彼はプロポーズの時と同じレストランを予約し、私に結婚指輪を再びはめてあげると言った。
レストランの入り口で、またその幼なじみから電話がかかってきた。
「けい、怖いから迎えに来てくれない?ヤスくんが、パパがいい、パパはあなたしかいないって聞いてくれないの……」
けいは私を一瞥し、説明しようとした。
しかし、私はその先に、手に持っていた指輪の箱をウェイターに渡した。
「これを捨ててください」
そして振り返ってけいに言った。
「中村機長、行ってあげたら?」
私がそう言い終えると、けいはその場に固まった。
レストランの入り口から吹き込む風が、彼の手にあるバラを荒らした。
彼は私を見つめ、しばらくしてようやく口を開いた。
「ネネ、俺のことを何て呼んだ?」
私は答えなかった。
電話の向こうでは、結月がまだ泣いている。
「けい、ヤスくんがずっと『パパ』って叫んでて、私どうしたらいいか分からないの。さっきからトイレに閉じこもっちゃったし……」
けいは携帯電話を握りしめ、唾を飲んだ。
そして彼は無意識に私を見た。
私も彼を見つめていた。
このレストランは、7年前に彼がプロポーズした場所だ。
今回、彼は窓際の席を予約していて、7周年の記念日をちゃんと祝うと言っていた。
さらに、結婚指輪を再び私の指にはめてくれるとも。
しかし今、彼の手はすでに車のキーへと伸びていた。
これまでと全く同じように、結月が一度でも泣けば、彼はそっちに行ってしまうのだ。
私が指輪のケースをウェイターに渡すと、ウェイターは驚いた様子だった。
「お客様、これはかなり高価なものでは?」
私は軽く笑った。
「ええ。高価すぎて、7年も経ってようやく、これには価値がないと気づいたわ」
けいの表情が変わった。
「ネネ、わざわざ人前でこんな見苦しいことをする必要があるのか?」
「見苦しい?」
私は指輪を握り締めた。
「けい、あなたの結婚指輪は結月さんの首に23日間もぶら下がっていたわ。
私はあなたたちの会社や空港で騒いだり、同僚たちの面前で一言も問い詰めたりしなかったよね?
私はただそれを返してほしかっただけ。
どうしてそれが『見苦しい』ことになるの?」
けいは眉間にしわを寄せた。
「あれは彼女が空が怖いと言うから、落ち着かせるためにお守りとして貸しただけだ。
彼女の夫は航空事故で亡くなったんだ、君も知ってるだろう」
私はうなずいた。
「知ってるわ。
だからって、私の夫を彼女に貸すの?」
けいは私の問いに言葉を失った。
彼の携帯電話から、また結月の震える声が聞こえてきた。
「けい、私のためにネネさんと喧嘩しないで。私は大丈夫だから、ヤスくんを病院に連れて行くから……」
けいはすぐに緊張した様子になった。
「動くな、すぐに行くから」
それから、私がまた皮肉を言うのを止めたいかのように、彼は声を潜めた。
「ネネ、今日はちょっと特別だ。
先にここでご飯を食べていてくれ。
用事を済ませたらすぐ戻るから」
私は彼を見つめた。
ふと、3ヶ月前、私が病室で横たわっていた時、彼から同じ言葉を聞いたことを思い出した。
「用事を済ませたらすぐ戻るから」
あの日、私は胃出血で、痛みのあまり言葉も出なかった。
看護師が私のスマホを手に取り、「ご主人に連絡しましょうか?」と尋ねた。
私はうなずいた。
電話がつながると、けいの声ではなく、まず結月の声が少し遠いところから聞こえてきた。
「けい、ヤスくんがあなたが作るお粥が食べたいって」
続いてけいがこっちに向けて話した。
「ネネ、まずは医者に診てもらおう。俺は後でいくから」
しかし、あの夜、彼は来なかった。
翌朝、彼は私にお粥の写真を一枚送ってきた。
【ヤスくんはこれを食べて、だいぶ元気になったよ。君は?胃はまだ痛いのか?】
私はそのメッセージを長い間じっと見つめ、結局、一言だけ返信した。
【もう痛くないわ】
その日から、私は彼の連絡先名を「中村機長」に変えた。
意地を張ったわけではない。
自分自身への戒めだった。
彼はすべての乗客に責任を持つ、誰もが尊敬する「機長」だが、私の「夫」ではないのだ。
思い出に耽けていると、けいは私が黙っているのを見て、今までどおり気にしていないのだと思ったのか、彼は手を伸ばして私の頭を撫でようとした。
「頼むからさ」
しかし、私は少し身を引いた。
彼の手は私に触れなかった。
「けい」
今回、私はきちんと彼の名前を呼んだ。
彼は一瞬、呆気にとられた。
私はカバンから書類を取り出し、彼に手渡した。
「帰りのついでに、離婚届にサインしておいてね」
彼はうつむいて書類の内容を確認すると、顔から血の気が少しずつ引いていった。
「ネネ、本気なのか?」
電話の向こうの結月は数秒間静まり返ったかと思うと、さらに激しく泣き出した。
「けい、私のせいであなたたち、離婚しちゃうの?私、やっぱり、帰国するべきじゃなかった……」
彼女の泣き声に心を乱されたけいは、再び私の方を見やり、その瞳には怒りが渦巻いていた。
「俺を追い詰めるのはやめてくれないか?」
私は笑った。
「追い詰めてなんかいないわ。
あなたを解放してあげるのよ」
彼は離婚届を握りしめ、指の関節が白くなるほど力を込めていた。
「ネネ、今、君と揉めている暇はないんだ」
私は背を向けて店を出た。
彼は後ろから「どこへ行くんだ?」と呼び止めようとしたが、私は振り返らなかった。
スマホが振動した。弁護士からのメッセージだ。
【手続きの協力についてですが、明日の朝9時、市役所の前で会いましょう】
けいは私のすぐ後ろまで追いかけてきたが、結月からの電話で呼び止められた。
「けい、ヤスくんが手を切っちゃって、血がすごく出てるの、どうしよう……」
彼の足取りが止まった。
続いて、車のドアが開く音が聞こえた。
そして彼が最後に私に言った言葉も聞こえた。
「ネネ、戻ったら、ちゃんと話し合おう」
私はタクシーを拾った。
ドアが閉まる直前、バックミラーに映る、どんどん小さくなっていく彼の姿を見つめた。
彼は車の運転席に座り、片手に離婚届を持ち、もう片方の手で結月と電話していた。
タクシーの運転手が私に尋ねた。
「お客様、どちらへ?」
私は行き先を伝えたが、声は自分のものとは思えないほどかすれていた。
「市立病院へ」
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