私の鼓動が止まるとき第3話
この話は約1663字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。
部屋のドアが外されてから3日目、学校で保護者会が開かれた。
お母さんは30分早く教室に着いた。
担任が生徒の心の健康について話すと、お母さんはすぐに手を挙げた。
「先生、ちょうどそのことをお話ししたかったんです」
お母さんはバッグから、心理検査の結果を取り出した。
「娘も少し前に自分はうつ病だと言い出したので、お金を払って検査に連れていきました。でも、何の病気でもなかったんです」
教室は保護者で埋め尽くされていた。
お母さんは話すほどに興奮していった。
「今はネットのせいで、子どもはすぐ自分にレッテルを貼るんです。成績が悪ければ不安のせい、学校に行きたくなければうつ病、親が少し注意すれば家庭環境のせいで傷ついたと言う。
私たち親がきちんとしつけなければ、子どもはだめになってしまいます」
何人かの保護者が、つられるようにうなずいた。
誰かが尋ねた。
「娘さんは今、どうなんですか?」
お母さんは笑顔で、教室の後ろに立っていた私を見た。
「もうよくなりました。ほら、あんたから皆さんに話しなさい」
全員が振り返って私を見た。
私は教壇の前へ歩いていった。
お母さんが検査結果を私の手に押し込んだ。
「さあ、話して」
握り締めた紙に新しい折り目がついた。私は無理やり笑顔を作った。
「以前は私が考えすぎて、お母さんや先生にご迷惑をおかけしました。今はもう大丈夫です。もう騒ぎません」
教室に拍手が響いた。
一人の保護者がお母さんを褒めた。
「しつけがお上手なんですね。やっぱり、子どもは甘やかしたらだめですね」
お母さんは目を細めて笑った。
「すべて、この子のためです」
翌日、教室に入ると、後ろの席にいた男子生徒たちが私の口調をまねた。
「私は病気じゃありません。考えすぎていただけです」
黒板には、誰かが【判定:正常範囲】と書いていた。
その横には泣き顔が描かれ、下にはこう書かれていた。
メンヘラちゃん。
クラス中が笑っていた。
午後の体育の授業で、先生から800メートル走るように言われた。
2周目に入ると、また動悸が激しくなった。
胸の中に濡れた綿を詰め込まれたようで、息を吸うたびに痛んだ。
後ろから誰かが叫んだ。
「メンヘラちゃん、また始まったぞ」
別の誰かが笑いながら続けた。
「でたらめ言うなよ。あの子には検査結果があるんだから、正常なんだって」
私は止まらなかった。
ゴールに着いたとき、私は地面に倒れた。膝をすりむき、血がすねを伝って流れた。
先生に、脇で休むように言われた。
グラウンドの端に座ると、鼓動が急に遅くなった。
よくなり始めたのだと思った。
放課後、お母さんが私の膝の傷に気づいた。
「どうしたの?」
「走っていて転んだ」
「先生は、あんたが気を失いかけたと言っていたわ」
「気を失ってない」
「また余計なことを考えていたんじゃないの?」
「違う」
私はお母さんを見た。
「朝ごはんを食べなかっただけ」
お母さんの表情が和らいだ。
「ほら、やっぱりそういうことじゃない。
体調が悪いなら、まず体の原因を考えなさい。何でも心の問題に結びつけないで」
家に帰ると、お母さんは茶碗いっぱいにご飯を盛った。
「全部食べなさい。明日また先生に、お母さんがご飯を食べさせていないと思われたら困るから」
私はひと口ずつ飲み込んだ。
食べ終わる頃には、胃がむかつき始めた。
その晩、私は布団に吐いてしまった。
声を出す勇気はなかった。
部屋にはドアがなく、お母さんはいつ通りかかるか分からなかった。
汚れた布団カバーを丸めて机の下に押し込み、その上に制服をかぶせた。
居間では、お母さんが叔母さんと電話で話していた。
お母さんは楽しそうに笑っていた。
「この子、前から大げさだったのよ。私はずっと分かってたわ。
一度検査を受けさせて、部屋のドアも外したら、今はこんなに言うことを聞くようになったわ。
今度あんたの子もうつだと騒ぎだしたら、私のところへ連れてきなさい」
お母さんは少し間を置いた。声には得意げな響きが満ちていた。
「今じゃ、子どもの大げさな訴えを治す名人になれそう」
私は口を押さえ、喉までこみ上げてきた胃液を無理やり飲み込んだ。
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