私の結婚式の日、花嫁は姉だった第2話
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「湊一……ねえ、うちの妹、まだ電話してこないけど……もしかして、怒ってるのかな?」
思羽は、わざとらしく弱ったふりをしながら、湊一の胸に寄りかかってきた。
「まさか。だって、君たちは姉妹だし、思羽はいま重い病気なんだ。これは君の最後の願いでもある。結月はそんな冷たい子じゃない。あとでちゃんと補償してあげれば、わかってくれるよ」
湊一はそう優しく答え、彼女の肩をそっと撫でた。
思羽はにっこりと頷き、そのまま湊一と両親を引っ張って、夕食へと繰り出していった。
百万円近くもした海鮮ディナーに、両親は心底うろたえていたが、思羽は当然のような顔で料理を平らげていく。
——私はそのまま彼らに憑いて、ホテルへ戻った。
思羽が艶っぽい寝間着で誘惑してきたが、湊一は応じなかった。バルコニーに出て、黙ってタバコを吸いはじめた。
彼の視線は夜空のどこかを漂い、何を思っているのかはわからなかった。
私は踵を返し、両親の部屋へと向かった。
まだ灯りが消えておらず、ベッドに腰を下ろした二人は、ため息をつきながら何度も首を振っていた。
どうやら、今夜の法外なディナー代がよほど応えているらしい。
母がスマホを取り出して、私に電話をかけようとしたが、電源が入っていないことに気づいた。
その瞬間、二人の顔が強ばる。
彼らにとっての「親子喧嘩」とは——
ひとしきり怒鳴り散らし、手を上げたあと、機嫌取りに菓子でも差し出せば、それで帳消しにできる程度のものだった。
向こうから電話一本かけてくれば、それだけで「歩み寄ってやった」と思い込み、すべてをなかったことにできると信じている。
私との関係を、そんなふうにしか捉えていなかった。
けれど今回ばかりは、もうその電話に出る人は、どこにもいない。
「ねえ、思羽って、あんなにお金使いまくって……将来、貯金なんか全然残らないんじゃないか?老後はやっぱり結月に頼るしかないと思うんだが……でも、電話出なかったってことは、怒ってるのかもね」
母が不安そうに父を見た。
父は煙草に火をつけ、一息吐くと、鼻で笑ってこう言った。
「なに言ってんだ。俺たちはあの子を産んだ親なんだぞ?姉さんが病気なんだから、妹が譲るのは当たり前だ。結月が怒る資格なんて、あるわけないだろ」
私は部屋の隅にじっと佇み、感情のない目で二人を見つめていた。
その胸の奥では、冷たく乾いた笑いが静かにこだましていた。
その瞬間、私は初めて、自分が死んでよかったと思った。
それから半月後、思羽と湊一は甘いハネムーンから帰ってきた。
思羽は私のパジャマを身につけ、この家の本妻気取りでベッドに寝転んでいた。
湊一は部屋のあちこちを見渡していた。
まるで何かを探しているように。
いや、誰かを——私を、探していたのかもしれない。
だが、いくら見回しても、この家のどこにも私の痕跡は残っていなかった。
まるで最初から、存在すらしていなかったように。
彼はふと、私がよく籠もっていた書斎の前で足を止めた。
そして、扉の前に立ち尽くしたまま、しばらく動けずにいた。
「湊一、私いまやっとあなたの奥さんになれたのよ。ねえ、まだ家の中に別の女の物が残ってるなんて、嫌じゃない?」
思羽がすり寄るようにして、彼の胸元に白い腕を絡ませる。
「私、服いっぱい買っちゃったし……この部屋、衣装部屋にしちゃわない?」
その甘えた声は、猫なで声というより、小さな針のように彼の心を刺していた。
だが湊一は、その手をそっと払いのけ、少し距離を取った。
そして困ったような表情で言った。
「思羽……でも、結月は今も、俺の妻だよ。君の願いを叶えたくて、こうしてるだけで……その書斎だけは、せめて——」
「だめ!」
思羽は即座に遮った。
潤んだ瞳に涙を浮かべ、甘えるようでいて、決して譲らない表情で言い切った。
「私はあなたの本当の妻なのよ!あなたの心に、他の女を住まわせないで!」
——結局、湊一は折れた。
私の書斎は、思羽の衣装部屋へと姿を変えることになった。
「それ、そっち!
これ、捨てて!
これも要らないわ!」
思羽は、私の大切にしていた物たちを、一つひとつ無造作に片づけさせていく。
作業員に指図を飛ばしながら、何の躊躇もない。
湊一はその様子を、ただ黙って見つめていた。
——彼は覚えていたはずだ。
私が何度も話していたあの夢を。
「いつか、自分だけの小さな書斎がほしい」
そう語ったときの私の顔を、彼は知っていたはずなのに。
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