私の結婚式の日、花嫁は姉だった第3話
この話は約1601字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。
彼は、すべて知っていた。
両親の露骨なえこひいきも、私が幼い頃からどれだけ不公平な扱いを受けてきたかも、
そして、せめて彼だけは迷わず私を選んでくれると、どれほど願っていたことか——
それでも湊一は、思羽の救世主でいることを選び、私を迷わず切り捨てた。
この書斎には、私の夢と努力が詰まっていた。
あらゆる成果の瞬間が、この部屋の空気に残っているような気さえした。
けれど今、それは少しずつ侵食され、跡形もなく消えていこうとしている。
やがて書斎は消滅し、その代わりに現れたのは、ピカピカの衣装部屋。
まるで私の人生そのものが、思羽に完全に「上書き」されたようだった。
部屋の隅に、一枚の証明写真が落ちていた。
それは私——綾瀬結月(あやせゆづき)のものだった。
湊一は誰にも気づかれないようにそれを拾い上げ、ゆっくりと財布の中へ滑り込ませた。
会社に戻ると、社員が彼に報告した。
「綾瀬さん、もう何日も出社していません。取引先との契約に必要なデザイン案も、一つも提出されていなくて……」
その瞬間、湊一の顔色が一変した。
無言でスマホを取り出し、私に電話をかける。
だが、コール音は虚しく続くだけで、誰も出ることはなかった。
ついに彼は初めて社員の前で怒りを爆発させた。
机を叩いて立ち上がり、書類を床に叩きつけた。
そして、「無断欠勤」を理由に、私の解雇を宣言。
代わりに、デザインの知識もない思羽を、私のポジションに据えたのだった。
——そしてその日、彼はオフィスで思羽に身を委ねた。
二人は社長室で熱く抱き合い、まるで恋に落ちたばかりのカップルのように唇を重ね、デスクにもたれながら、椅子に腰掛けながら、何度も求め合っていた。
私はその光景を見ながら、吐き気にも似た嫌悪感を覚え、思わず、自分の少しだけ膨らんだお腹に手を当てた。
——私は、妊娠していた。もう一ヶ月になる。
本当は、彼に喜んでもらうつもりだった。
けれど今となっては、私とお腹の子は、すでにこの世にいない。
ひとつの命で、ふたつの命を奪われた——それが、私の最期だった。
その後数日間、湊一はまるで取り憑かれたかのように、私にメッセージを送り続けた。
【どこにいるんだ】
まるで、浮気の熱から覚めた男が、現実に引き戻されたかのような口調で——卑屈に、必死に、私の居場所を探し続けた。
けれど私は、もう彼に応えることはない。
「ねえ、なに考えてたの?」
思羽の声が聞こえたとき、湊一はハッとしてスマホを隠すように画面を閉じた。
彼女の小さな腹も、ほんのりと膨らみ始めていた。
私の死からわずか半月——彼女も、妊娠していた。
頬は紅潮し、目は潤み、幸福に満ちた顔をしていた。
——とても、余命わずかの病人には見えなかった。
だが湊一は、その明らかな異変に、なぜか気づこうとしなかった。
彼は彼女を抱きしめようとしたが、その瞬間、彼女の首元に目が止まった。
「それ……結月のネックレスじゃないか?どうして君が……」
「えっ?たまたま見かけて、ネットで買ったの。可愛いから……偶然でしょ?」
思羽の目が一瞬揺れた。
そのネックレスは、大学時代に湊一が私に贈ってくれたものだった。
高価なものではなかったけれど、私は肌身離さず身につけていた。
「さ、行きましょ?だって今日は、私の妊娠祝いなんだもの。両親もごちそう作って待ってるわ」
彼女は話を逸らすように腕を引いた。
私は、その後ろ姿を見送りながら、自分の首元に手を当てた。
そこはもう、何もなかった。
——あの夜、あの男に命を奪われたとき、ネックレスも一緒に持ち去られた。
ならば、なぜ?
なぜ今、思羽の首に、まったく同じものがある?
……偶然なんかじゃない。
——私の死には、彼女が関わっていたのではないか?
「湊一、思羽は命懸けであなたの子を産もうとしてるのよ。ちゃんと大切にするのよ」
「思羽を、どうか……幸せにしてあげてね……」
食卓では、両親が思羽のやつれた顔を見つめ、涙を流していた。
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