和紙文私の偽装死で、夫が一夜で白髪になった · 第3話設定≡

私の偽装死で、夫が一夜で白髪になった第3話

この話は約1381字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。

胸にえぐられたみたいに痛くて、息すらできなくなった。

私は口を押さえ、声も涙もこらえた。

見ていられなくて背を向け、走り出す。途中で足を滑らせ、雪に顔から突っ込んだ。

頬が擦れて、じわりと血の味が広がる。冷たさより先に、痛みが刺さってきた。

溜め込んでいたものが一気に溢れて、涙が止まらなくなる。真っ白な世界の中で泣き尽くして、ようやく病院に戻った。

しばらくして、隼人も戻ってきた。

「彩音!やっと見つけた!秘書が飯を届けに来たとき、いなかったって……どこ行ってたんだよ!」

頼むから、こんなこと二度とやらないでくれ。見つからなかったら、俺は……」

本当に?

彼の胸元に残る引っかき傷に目をやって、笑いそうになった。視線を戻して、淡々と言う。

「息苦しくて。雪、少し見てた」

そこで隼人は、私の赤く腫れた目元にようやく気づいたみたいだった。

「泣いたのか……ごめん。仕事に追われて、嫌な思いをさせたか。

三日後、結婚五周年の記念日だろ?その日、盛大にパーティーを開こう。ちゃんと祝って、埋め合わせもする……それで、許してくれる?」

私は笑った。

隼人は安心したみたいに笑い返す。

——でも、彼は知らない。私が笑ったのは、三日後が「偽装死」の予定日だから。

それじゃ……

その日、彼が想像もしないような「プレゼント」を残して消えよう。

……

翌日、私は退院手続きを済ませた。隼人が車で迎えに来て、そのまま家まで送ってくれるという。

助手席のドアを開けた瞬間、違和感が走った。

……低い。いつもより、座面が明らかに沈んでいる。

覗き込んでみると、シートは数センチ下げられていて、背もたれには茶色い髪が絡みついていた。

私はごく普通の黒髪だった。

梓の髪はいつも艶のある茶色で、私よりも頭半分ほど小柄だった。

ここに誰が座っていたのか、言わなくてもわかる。

私はその場で固まったまま、乗り込む気になれなかった。

隼人も私の視線を追って、助手席を見た。私の指先に絡む茶色い髪を見つけると、彼の瞳が一瞬だけ揺れて——

けど、すぐに何事もなかったみたいに取り繕う。

「ああ、それか。言わなくてごめん、でも誤解するなよ。

兄貴が出張でさ、出る前に『梓のこと頼む』って言われたんだ。だから会社の送り迎えをしてて……そのせいで髪が残ったんだと思う」

……私の気持ちはさらに冷えた。

だって隼人は、前に言っていた。助手席は「私の席」で、誰にも触れさせないって。

実際に以前。職場のあざとい女が隼人に近づくために、私より先に助手席へ座ったことがある。

そのとき隼人は迷いもなく、その女を蹴り下ろした。

「ここは嫁の席だ。勝手に座るな」

なのに今は、自分のルールまで破って、梓を座らせている。

避ける気があるなら、タクシーでも手配すればいい。それなのに、わざわざ自分で送り迎えして、助手席に座るのも黙認する。

そして、追い打ちみたいに、目に入ったものがある。

ダッシュボードの隅に、キスしているキャラクターが二体置かれていた。男と女。そこには【H. I.】と【A. S.】の文字。

一瞬で、その意味を理解した。

……名前のイニシャル。

私が知らないところで、梓はもう「この車の女主人」になっていたんだ。

深呼吸して、胸の奥の酸っぱさを押し込める。見なかったことにして、静かにシートベルトを締めた。

どうせ、もうすぐ私は消える。隼人と梓がどれだけ甘くしようと、私には関係ない。

縦書き表示中:本文は右から左へスクロールします(← → キーでも移動できます)

第4話は公式アプリで

当サイトでの試し読みはここまでです。アプリをインストールし、下のアプリ用コードを入力すると、この作品の第4話からそのまま読み進められます。

R42987
  1. 下のボタンから公式アプリをインストールします(無料)。
  2. アプリを開き、「コードを入力」にこのコードを入れると、この作品が本棚に入ります。
iPhone・iPad
で入手
Android
で入手

アプリで第4話を読む

作品ページへ戻る 当サイトに掲載しているのは試し読みの章だけです。