私が殺された後、兄は後悔した第2話
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隊長は会議室で眉間に深い皺を刻みながら座り込んでいる。
彼の手には火をつけていないタバコを握りしめている。「こういう身元不明の死体事件が、一番厄介なんだよな」
警察の一人が推測する。「ここまで無惨ってなると……感情のもつれとか?」
兄は首を横に振る。「死亡推定時刻は三日前前後。死者は虐待されたあと溺死した。殺人動機をちゃんと解明する必要がある」
隊長が何か思い出したように、兄を見上げる。「風真、雨芽は心理学の専門家だろ?この前なんか河上県に呼ばれて犯罪心理の講義してたじゃねぇか。今回の事件、彼女に……」
言い終わる前に、兄の鋭い声が遮る。
「雨芽?あいつは名前だけのなんちゃって専門家だ。あんな無慈悲なやつ、誰が使うんだよ」
隣で助手が唇をかみながら小声でつぶやく。「雨芽さん、そんな人じゃないですよ……」
兄は鼻で笑うと、手にしていたペンを机に叩きつける。
「恩知らずだよ、あいつは。僕が一番知ってる。この事件、あいつが関わるなら僕は降りる!別の用がないなら、解剖してくる」
隊長は首を横に振って、深いため息をつきながら指示を飛ばす。「ぼさっとすんな!現場の痕跡を取れ。目撃者を分担して回れ、聞き取りは丁寧にな!」
そして彼は去っていく兄の背中を見ながら、ぼそっとつぶやく。「実の妹にあの態度……いつか絶対後悔するぞ、あいつ」
私は鼻をすすり、涙がまたにじむ。
後悔なんて、するわけないよね。兄は私のこと、憎んで憎んで仕方ないんだから。
誤解を解こうと何度も口を開いたのに、返ってくるのはいつも兄の冷たい声だった。
「お前のせいで父さんが死んで、母さんが植物状態になったんだ。言い訳なんか聞きたくねぇ!」
毎回、兄の嫌気で不信感があった目つきを見るたびに、私は真実を飲み込むしかなかった。
兄の誕生日に、思い切って全部話そうと思っていたのに。
もう、その機会すら永遠に失った。
解剖室に、兄はメスを握ったまま、ほんの一瞬だけ黙祷した。
そして何事もないかのように胸腔を切り開く。鼻をつく腐臭が鼻腔に広がったが、兄の顔色は変わらない。
ただ、死体の左腕を見た瞬間だけ「ん?」と小さく声を漏らした。
助手が覗き込みながら言う。「これ……犯人が彫ったやつですか?」
兄はゴム手袋越しに、その浮腫んだ腕の上の灰色のタトゥーを撫でる。
「いや、違う。相当前に入れたやつだ」
そして、彼はため息をついて、憐れんで言う。「家族仲は良かったはずだ。四人家族のタトゥーだな、これ」
目が焼けるみたいに痛くて、涙が一気に溢れる。まるで胸の中の悔しさまで全部噴き出しそうに。
父が死んで、母が意識を失った。
あの日から、私は「家」というものを失った。
あの腕の家族の写真のタトゥーは、せめて兄が気づいてくれたらと思って彫ったものだ。
でも、兄はただ一瞥して言い捨てただけ。「何それ。気持ち悪い。僕の前に見せんな」
兄にとって私は仇だ。彼の目には、妹は美瑠しか存在しない。
けれど、あの日の交通事故は、美瑠が「ケーキ食べたい」と駄々をこねて父に車を止めさせようとして、運転中にハンドルを引っ張ったせいでトラックにぶつかったのだった。
目が覚めると、私は全身が骨折し、動けなかった。
でも兄は、隣の軽い脳震盪の美瑠の病室に付きっきり。
私が退院するまで、一度も顔を見に来なかった。
だが、私の死体には昔よりよっぽど「よく」目を向けてくれるなんて。
もし兄が、彼の唯一の「可愛い妹」だと思ってる美瑠が私の死に深く関わっていると知ったら。
彼は、私のためにたった一滴でも、涙を流してくれるのかな。
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