私が殺された後、兄は後悔した第3話
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兄のスマホが鳴る。助手がちらっと画面を見て、ためらいがちに言う。「風真さん、あなたの妹です」
兄は舌打ちして、露骨に苛立った声を出す。「今忙しいの分かんないのか?あいつには、もう二度と僕に電話してくんなって言っとけ」
「風真さん、雨芽さんじゃないです」
兄は一瞬だけ固まった。あれだけ何日も私が連絡してこないことに、さすがに不思議に思ったのだろう。
でもすぐに、彼の目の奥に柔らかい笑みが浮かぶ。
彼は慌てて手袋を外し、優しい声で言う。「美瑠?どうしたんだ?
僕は今忙しくないよ。言ってごらん」
私は嘲るように口元を吊り上げる。
兄が私と美瑠に向ける態度なんて、いつだって雲泥の差がある。
もう慣れてるはずなのに。
美瑠の可哀想な声が震える。「お兄ちゃん、あたしは部屋を片づけたとき、リビングのお姉ちゃんのトロフィーをうっかり割っちゃった。怒られたらどうしよう……」
私は目を見開いて、視界は怒りでじわりと赤く染まっていく。
あのトロフィーは、私が子どもの頃に試合で獲ったものだ。
兄はあの時、誇ってトロフィーをリビングに置いて、それを磨きながら言ってくれた。「雨芽は世界一だ。うちの自慢の妹なんだって、みんなに見せたいくらいだ!」
なのに今、彼はただ怯えてるふりをする美瑠を慰めている。「美瑠、怖がるな。あいつが少しでも文句つけてきたら、僕があいつを一生家に入れないようにしてやる」
私がもう二度と家に帰れないってこと、彼は知らない。
むしろ彼が私の死を知ったら、これで厄介者がいなくなったと、心のどこかでほっとするんじゃないか。
兄は解剖記録を隊長に渡す。
「隊長、僕ちょっと家に帰って飯食って着替える。何日も妹に構ってやれてないんで」
隊長が軽く笑う。「口では気にしてないとか言ってるけどさ、お前だって雨芽のこと気にかけてんじゃないか。彼女にはもっと優しくしてやれよ。あの子だって、この何年間ずっと大変だったんだ」
兄の顔が一瞬で陰り、嫌悪がにじむ。「僕に雨芽みたいな妹はいない。あいつが家をめちゃくちゃにして、可愛がる価値なんてない。美瑠は優しくて、雨芽はただのクズだ」
隊長は意味深く言う。「お前の両親と俺は古い仲だ。お前と雨芽が育つのも見てきた。あの子の本音を聞いてやれ」
兄はコートを着て、深いため息をつく。「隊長、説得しても無駄だよ。あいつは父さんの命日に一度も顔出さない。あいつの心臓、切り開いたら真っ黒なんじゃないかね」
兄は、美瑠の嘘を疑ったことなんて一度もない。
あの日の事故、美瑠の怪我は私より軽かった。
先に目を覚ました美瑠が兄に告げた。「お姉ちゃんがパパとママとケンカしてて、そのせいで彼らが運転に集中できなくて、事故に導いた……」
兄も私を冷酷な「厄病神」と見なす。
美瑠は元々、両親が支援していた孤児だ。
彼女の家が火事になって、生き残ったのは彼女だけだ。
両親は彼女を不憫に思い、養子として迎え入れた。
だけど私は気づいていた。美瑠は最初から、私の居場所を奪いたがっていたんだ。
きっと今も、彼女は心の中でほくそ笑んでいる。
彼女の離間で、兄は私を憎むようになったから。
私はただ植物状態の母を見舞いに行ったとき、泣きながら苦しさを吐き出すしかできなかった。
美瑠より、私の方がよっぽど取り残された「孤児」だ。
兄が家に帰ると、最初にしたのは床に散ったトロフィーの破片を拾うことではない。
美瑠の頭を撫でて、優しく気遣ったことだ。「怪我してないか?床はあとでお兄ちゃんが片づけるから」
私の視線は床に散らばったトロフィーの破片に落ちる。胸の奥に、穴が空いたような痛みが広がる。
かつて私を誇りに思ってくれた兄は、今では私をゴミだと思う。
美瑠は長いまつげの陰で、こっそり笑っている。「お兄ちゃん……お姉ちゃんは、まだあたしのこと怒ってるよね。もう何日も帰ってきてないし」
兄は彼女の包帯の巻かれた左手を見て、心配そうに言う。「あいつには、君に跪いてでも謝らせる。あの心の腐ったやつは、本当に最低だ」
確かに彼女の手の傷は、私がつけたものだ。
だがそれは、私を殺そうとした美瑠に抗った時についた傷だ。
私はどれほど願っただろう。兄が美瑠の正体に気づいてくれれば、と。
けれど二人の仲睦まじい姿を見ると、私の胸の奥が焼けるみたいに痛くなる。
私が死んでもなお、兄は美瑠を疑おうとしない。
でも、もういい。
私はもう二度とあの家に戻って、彼らの邪魔にはならないのだから。
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