私が殺された後、兄は後悔した第1話
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私は殺人者に水槽の中に閉じ込められたあの時、兄が夏目美瑠(なつめ みる)と一緒にケーキを作っていた。
気管がゆっくり切り裂かれて、苦しい呼吸しかできなかった時。
電話越しの兄は冷たく言い放った。「小木曾雨芽(おぎそ うめ)、父さんの命日なのに帰ってこないなんて。ほんと恩知らずだな。
美瑠が頼んでるのに父さんのところ行かないどころか、彼女を殴ったって?お前、死ぬ前にまず美瑠に謝ってから地獄に落ちろ!」
そのあと、兄は自分の手で私の死体を解剖し、事件を分析した。
でも目の前のこの死体が、自分の実の妹だなんて、彼は夢にも思っていなかった。
* * *
私は殺人者に水槽の中に閉じ込められたあの時、兄が夏目美瑠(なつめ みる)と一緒にケーキを作っていた。
気管がゆっくり切り裂かれて、苦しい呼吸しかできなかった時。
電話越しの兄は冷たく言い放った。「小木曾雨芽(おぎそ うめ)、父さんの命日なのに帰ってこないなんて。ほんと恩知らずだな。
美瑠が頼んでるのに父さんのところ行かないどころか、彼女を殴ったって?お前、死ぬ前にまず美瑠に謝ってから地獄に落ちろ!」
そのあと、兄は自分の手で私の死体を解剖し、事件を分析した。
でも目の前のこの死体が、自分の実の妹だなんて、彼は夢にも思っていなかった。
……
私の死体は川から引き上げられた。
引き上げた作業員は顔面蒼白で警察に説明している。
「暗くなる前にゴミをちょっと拾っとこうと思って……そしたら何かが網に引っかかって……」
監察医界のエースである兄は、隊長の電話で慌てて現場へ駆けつけた。
まだ小麦粉のついたエプロンを付けたまま。
隊長は眉をひそめ、低い声でつぶやく。「雨芽の誕生日を祝ってたんじゃないのか?」
兄は一瞬ぽかんとしてから首を振る。「美瑠は僕が作るケーキを食べたいって言うからさ。雨芽はどこで遊んでるんだか、何日も帰ってこねぇし。放っとけばいいだろ」
彼はもう、今日が私の誕生日だということすら忘れてしまうらしい。
なんて皮肉なの。
涙で私の視界がにじむ。
ふっと昔の光景がよぎる。幼い兄が小さなケーキを私の前に置いて、笑っていた。「雨芽、これから君の誕生日は、毎年ずっと一緒に祝うからな」
今の私は、兄が可笑しなエプロンを外し、真剣な表情で手袋をはめて仕事モードに切り替える姿を見つめる。
黒い袋に包まれた私の死体は、鼻につく腐臭を放っている。
袋を開けた兄は、巨体の姿になった死体を見て一瞬だけ止まる。
皮膚はほとんどなく、白くふやけた肉をむき出す。
顔のパーツは鼻だけが残り、一目見ただけで心臓が縮むような形相だ。
けれど兄は眉ひとつ動かさず、助手に指示を出す。「DNAを採取しろ。ここまで損壊してるとデータベース照合しかない」
助手が「あれ?」と声を上げる。「風真(ふうま)さん、この靴……雨芽さんが履いてたのに似てません?」
以前、私が兄に弁当を届けた時、この助手に踏まれたことがあった。
その時、彼は気まずそうに「靴がかわいいね」なんて言ってきた。まさか覚えてるとは。
この靴、実は兄の分も買って渡したやつだ。
だが、彼は一度も開封してくれなかった。
兄は不機嫌そうに言い捨てる。「関係ない奴の名前出すな。死者への侮辱だ」
私はため息をついて、唇が思わず震える。
兄にとって、彼の担当するどんな死者よりも、私は価値がない。
私は、彼の人生の汚れだから。
兄は手際よく一次解剖を終え、ため息まじりに言う。「胃の内容物と肝温は戻ってから再確認だな」
死体が袋に戻されるのを見て、隊長は兄の肩を叩く。「風真、この死体……虐待殺人だろ。こりゃ厄介だぞ」
夕暮れ時に死体が発見され、人だかりはすぐにできた。
公園で死体が見つかったという噂はあっという間に広まる。
署長は「社会不安を抑えるため早く解決しろ」の命令を出した。
隊長はまた兄の肩を叩く。「どうだ?どれくらい掛かりそうだ?」
兄は眉間を揉みながら、少し悩んだ声で答える。「公園の川に死体遺棄、損壊もひどい……期待すんな」
今にも手を伸ばして、兄の眉間の皺を伸ばしてあげたい。
でも私の指先は、空を切るだけだ。
私はずっと、拗れた関係こそが私たちの距離を遠ざけてるんだと思っていた。
だけど今になってわかる。
生と死こそが、私たちの間に横たわるどうしようもない溝なんだ。
そして私はもう、兄に「妹」と呼ばれるチャンスすら、永遠に失ってしまう。
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