私が愛したのは、面影だけだった第2話
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まさかこんなに早く戻ってくるとは、真里亞も思っていなかった。けれどこの関係において、常に主導権を握るのは彼女の方だ。だから何も隠すことなく、堂々と結論を告げた。
「結婚はやめるって言ったの。それが何?」
素っ気ない表情を見て、遊助はいつものように少し拗ねているだけだと思った。本気にすることもなく、上着を脱ぎながら、冷めた声で返した。
「しつこく結婚を迫ってきたのはお前だろ。なのに今度は結婚しないって、また何のつもりだ?」
遊助は、部屋の中で神妙な顔をして座っているデザイナーたちを一瞥すると、1着のドレスを無造作に指差した。
「これにしろ」
真里亞が彼の指先を追うと、選んだドレスは数日前に動画で見て気に入っていたものと同じだった。少し意外に思いながらも、深くは考えずただ一瞥して尋ねる。
「今日、どこに行ってたの?」
「仕事だ。安心しろ、1日1回抱くって約束は、忘れちゃいない」
顔色ひとつ変えずに嘘をつくと、遊助は身を屈めて抱き上げ、寝室へ運ぼうとした。だが真里亞はいつになく押しのけた。
「しばらくはいらない。ゲストルームで寝て」
手がぴたりと止まる。瞳に浮かんだのは、まるで初めて見るような、信じがたいという色だった。
「前はいつも欲しがってきただろ」
真里亞は自嘲するように笑った。
「まあ、あなたよく言ってたじゃない。無理強いしてもいいことはないって」
遊助の瞳がわずかに翳る。しばしの沈黙の後、真里亞をそっと下ろした。
「好きにしろよ」
そう言い残すと、振り返ることもなく階段を上り、ゲストルームへと消えていった。
翌朝、ずいぶん早くに目を覚ました。使用人がコーヒーを運びながら、ついでのように様子を報告する。
「三宮社長は朝早くから運動にお出かけになりました。お戻りをお待ちになって、ご一緒に朝食を召し上がりますか?」
「後で出かける用事があるから、待たなくていいわ」
朝食を済ませると、車を出して永住手続きを終わらせ、見晴らしのいいオープンカフェに入って景色を眺めることにした。しばらくスマホをいじってからふと顔を上げると、遊助の姿が目に入った。
園子に腕を引かれ、階下のタピオカ店へと入っていくところだった。2人分のミルクティーを注文する際、1つはホットにしてくれと頼んでいる。
園子が甘えるように「アイスがいい」とねだると、彼は仕方なさそうにその頭を撫でた。
「駄目。今日は冷たいのはやめとけ。体を冷やすだろ」
さすが幼馴染ということか。そこまで優しくできるなんて。
真里亞は瞬きも忘れて2人を見つめ続けた。園子の靴紐がほどけると、自ら屈み込んで結び直してやる。一口飲みたいと言えばためらいなく差し出し、ショーウィンドウの服を見て歓声を上げれば、店に連れて行って1着ずつ試着させる。
まるで恋人同士のように寄り添う2人の姿を見て、初めて本当の遊助を知ったような気がした。
好きな相手の前でなら、いつも冷たい顔をしているわけではなく、笑って冗談を言い、相手とふざけ合って変顔をするのも甘い眼差しで見つめるのだ。
彼はわざと距離を置いたり、何にも無関心なふりをしたりせず、好みや趣味をきちんと覚えていて、服を買うときも似合うものを選んでやる。
どんな話題を振られても、適当な相槌で済ませず、話を弾ませて会話を途切れさせない。
園子の前でだけ、演じてきた冷たい仮面を脱ぎ捨て、素の自分に戻っていた。生き生きとした活力と、人を愛する力に満ちた、本来の遊助に。
それは、真里亞と一緒にいる時には決して見せることのない、心から楽しそうな本当の姿だった。
真里亞はようやく悟った。愛することと愛さないことの間には、絶望的な隔たりがあるのだと。
それはお金では、決して埋められないものだった。
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