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私が愛したのは、面影だけだった第3話

この話は約1875字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。

2人がケーキ店に入っていくのを見送った後、真里亞も席を立ち、モールをぶらつくことにした。

気に入ったワンピースを見つけてカードを出そうとしたその時、背後から聞き覚えのある声がした。

「そのワンピース、いただくわ。包んでちょうだい」

振り向くと、挑発するような眼差しの園子と目が合った。この幼馴染が一筋縄ではいかないと知っていた真里亞は、淡々と口を開いた。

「私が先に目をつけたの。それに結構なお値段よ。他のデザインにしたら?」

店員は園子の服装を一瞥すると、空気を読んで言葉を継いだ。

「お客様、申し訳ございませんが、こちらのお洋服は少々お値段が張りますので……もしよろしければ、下の階の量販店などいかがでしょうか」

その瞬間、店内の視線が一斉に集まった。園子の顔はかっと赤く染まり、瞳には羞恥と怒りが滲んだ。

「人を見た目で判断するわけ!?私、これが気に入ったの。今すぐ払うから!」

そう言うと、遊助から渡されたブラックカードを店員に投げつけた。

真里亞はそのカードを一瞥し、口をぽかんと開けて見守る野次馬にも目をやってから、自分のカードを差し出した。気前のいい新規客と、先に商品を選んでいた客との板挟みになり、店員はひどく困り果てていた。

どう収拾をつければいいのか分からずにいたその時、声が響いた。

「どうした?」

それを見た園子はすぐさま哀れっぽくすり寄り、先手を打って訴えた。

「遊助さん、今日私の誕生日でしょ。自分へのプレゼントにワンピースを買おうと思ったの。そしたら真里亞さんも同じのを選んでて……私が先にお金払おうとしたのに譲ってくれなくて、しかもお金なんてないくせにって言われたのよ」

遊助の顔が、さらに冷たくなった。そのワンピースにちらりと目をやり、静かに声を落とした。

「真里亞、家にも服はたくさんあるだろ。何もこれを取り合う必要はないだろう。それに、こっちのほうが園子には似合ってる」

そして、彼は園子のほうを向く。

「これだけじゃ足りないだろ。もっと選べ、俺が払う」

その言葉を聞いた園子は、まるで戦に勝った将軍のように得意満面になった。ワンピースにはもう見向きもせず、他のデザインを何十着も抱えて戻ってくる。

店内のあちこちから、羨望のざわめきが上がった。

「ここまで甘やかしてもらえるなんて、いいなあ。私にもあんな彼氏、誰かちょうだいよ」

「ちょっとあの女見てよ、さんざん選んでたくせに1着も買わないの?全身ブランド物だけど、まさか偽物じゃないでしょうね。お嬢様気取りしちゃって」

そんな囁きが耳に入っても、真里亞はもう釈明する気にもなれなかった。扉を押して立ち去ろうとした瞬間、モール中に警報音が鳴り響いた。

上階から人の群れがなだれ込むように降りてきて、「火事だ」と叫びながら四方八方に逃げ惑う。店内も一瞬にして混乱に陥り、真里亞は人波に押されて床に倒れ込んだ。

無数の足が体を踏みつけ、青黒い痣を残していく。あまりの痛みに涙が溢れ、両手で必死に頭を庇った。

ふと目を上げると、遊助が園子を胸に抱き込むようにして、安全な場所へと人混みをかき分けていく姿が見えた。

生存本能に突き動かされ、真里亞は声を嗄らして、何度も彼の名を呼んだ。その声に振り返った遊助は、踏みつけられて見る影もない真里亞の姿を目にした瞬間、目を見開いた。

すぐさま彼女を助けようと引き返しかけたその瞬間、園子に腕を引き戻された。何を言ったのかは分からないが、しばし躊躇った後、彼女を庇いながら背を向けて去っていった。

人波の中に消えていく2人の後ろ姿を、ただ見つめることしかできなかった。真里亞の心の底に残っていた最後の期待が、音を立てて崩れ落ちていく。

狭く押し潰されそうな空間では、空気さえも淀みきっていた。踏まれ、血の滲む体を引きずるようにして、痛みを堪えながら少しずつ隅へと這っていった。

壁を支えにして血に染まった手をつき、ようやく立ち上がる。押し寄せる人波に流されるようにして出口へと辿り着いた頃には、全身の力を使い果たしていた。

広場に押し出され、ようやく安全を確認できたところで、力尽きたように地面に倒れ込み、荒い息を繰り返した。

そう遠くない場所から、聞き覚えのある切迫した声が、ざわめく群衆の中を縫うように聞こえてきた。

「園子、ここで待ってろ。動くなよ、俺はもう一度中に戻る」

園子を落ち着かせると、遊助はモールへ引き返そうと振り向いた。その視界に、傷だらけの真里亞の姿が飛び込んできた。

2人の視線が、再び宙で交わる。

けれど今度、真里亞の瞳に残っていたのは、何の感情も映さない静けさだけだった。

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