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社員旅行を潰した新人が泣いた日第2話

この話は約1989字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。

椅子に座り直すと、スマホがまた震えた。

画面を見ると、紗季がまた動画を投稿していた。

カメラの前の紗季は目を赤くし、震える声で話していた。

「みんな、応援してくれてありがとう。私はただ、普通に働きたいだけなんです。こんなおかしな会社のやり方で、これ以上つらい思いをする人を増やしたくありません」

俺はスマホを置き、机の上ですっかり冷めたコーヒーに手を伸ばした。

直後、ドアの向こうから、また誰かが机を叩いたような大きな音がした。

久美子はドアのそばに立ち、何か言いたそうに俺を見ていた。

俺は久美子に目を向けた。

「小川の入社時の書類も出しておいてくれ」

……

翌日、紗季は会社を休んだ。

病欠の連絡と一緒に出された診断書には、急性胃腸炎と書かれていた。

ところが動画アプリを開いてみると、紗季は自宅のベッドに座ってライブ配信の真っ最中だった。後ろの壁には「職場改革」と大きく書かれた横断幕まで掛けられていた。

「みんな聞いて。私、本当のことを言ったら会社に目をつけられちゃって……今日は怖くて、会社に行けなかったの」

ノーメイクで薄手の白いTシャツ姿の紗季は、もともと細身なこともあって、いかにも弱々しく見えた。

視聴者はすでに2万人を超え、紗季を心配するコメントがひっきりなしに流れ、投げ銭も次々と飛んでいた。

「私、まだインターンなんだよ。給料だって決して高くないの。でも後悔はしてない。雇われてる側だからって……」

そこで紗季はわざと声を詰まらせ、手の甲で目元をぬぐった。

「こんな扱いをされていいわけじゃないから」

声を詰まらせるタイミングも、その仕草も、あまりに出来すぎていた。

俺は紗季にメッセージを送った。

【小川、入社してまだ1か月だ。これまで会社がどんな社員旅行をしてきたか、まだ知らないだろう】

【今ならまだ引き返せる。ここでやめれば、これ以上大事にはならない】

既読はついたが、返事はなかった。

ところが30分後、紗季の配信を覗くと、さっき送ったメッセージをそのまま読み上げていた。

紗季は俺とのやり取りのスクショまで配信画面に出した。

「みんな、これ見て。社長本人からこんなメッセージが来たの。

『今ならまだ引き返せる』って……要するに、黙れってことでしょ?こんなの脅しと同じじゃない?」

その瞬間、コメント欄が一気に荒れた。

【え、これ普通にアウトじゃない?】

【怖すぎる……やり取りは全部残しといたほうがいいよ】

【スクショ取っといた。何かあったとき証拠にできると思う】

投げ銭の額も、見るたびに増えていた。

午後になると、久美子と和彦がそろって俺のところへやってきた。二人とも浮かない顔をしていた。

和彦が先に口を開いた。

「社長、もう黙ってるだけじゃまずいですよ。ネットじゃ話がどんどん大きくなって、今度は裏金だの賄賂だのって言い出す連中まで出てきてます」

久美子も頷いた。

「和彦とも話したんですけど、一度、会社の公式サイトでこれまでの経緯をきちんと説明したほうがいいと思います。

去年、自治体からいただいた優良事業所の表彰状と、納税証明書も一緒に載せましょう」

少し考えてから、俺もそうすることにした。

ところが、会社の説明を掲載してから2時間もしないうちに、紗季はその内容を配信で取り上げていた。

しかも、まるでこちらが必死になるのを面白がっているような笑い方だった。

「みんな見て。今度は『うちは表彰された会社です』って、表彰状まで持ち出してきたよ。

でも、こういう表彰だって、どういう基準で選ばれたのかなんて私たちにはわからないよね。裏でお金が動いてても、外からじゃわからないし」

それを聞いた途端、コメントの流れがまた変わった。

【急に表彰歴まで出してくるの、逆に怪しくない?】

【その表彰、どういう基準で選ばれたのかも調べてほしい】

【本当に何もないなら、ここまで必死にアピールする必要なくない?】

向かいに座っていた久美子は表情をこわばらせ、手にしたペンをぎゅっと握っていた。

「ここまで好き勝手言えるなんて……信じられません」

俺はそこで配信を閉じた。

和彦がこちらに寄ってきて、声を落とした。

「社長、あの子、最初から狙ってやってますよ。言葉の選び方も、人を煽るやり方も慣れすぎてる。まだ社会人経験も浅いインターンが、一人でここまでやれるとは思えません」

その可能性なら、俺もとっくに考えていた。

今まで動かなかったのは、こちらが気づいていると悟らせたくなかっただけだ。

「もう少しだけ好きにさせておけ。こっちも、このまま黙って終わるつもりはない」

久美子はまだ不安そうだったが、俺が慌てていないのを見ると、それ以上は何も言わなかった。

俺はパソコンを開き、紗季が入社初日に提出した人事書類を確認した。

緊急連絡先の欄に書かれていたのは家族ではなく、鈴木健太(すずき けんた)という名前だった。

本人との関係の欄には、「友人」と書かれていた。

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