真実を知った夫は、愛する女を捨てて私のために復讐した第2話
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礼司はマンションを出ると、そのまま玲奈のマンションへ車を走らせた。
私は助手席に座り、ハンドルを握りしめる彼の手を眺めていた。指の関節が白くなるほど力が入り、唇はきつく結ばれている。
窓の外を流れるネオンが礼司の横顔を明滅させていた。だがその光さえ、冷えきった瞳の奥までは届かない。
「礼司、来てくれたの!」
ドアが開くなり、玲奈の偽善に満ちた顔が目に飛び込んできた。
ゆったりとした部屋着に、乱れた髪。ひどく憔悴した、いかにも可哀想な女を演じている。
そんな玲奈を見るなり、礼司の表情は一瞬で柔らかくなった。
彼は玲奈の頬に手を添え、信じられないほど優しい声で言った。
「心配するな。もう美羽を捜してる。必ずお前の身代わりにさせるから」
玲奈は礼司に抱きつくと、その首元に顔を埋めた。
「でも……もし美羽さんが嫌だって言ったら?」
「言わせるものか」
礼司はきっぱりと言い切った。
「従わせる方法なんていくらでもある。俺がいる限り、誰にもお前を傷つけさせない」
私は二人のそばに漂いながら、その言葉を聞いていた。魂まで震えそうだった。
そうだ。礼司にとって私は、玲奈を引き立てるための脇役でしかない。何かあれば代わりに傷つき、代わりに罪をかぶる。
私が存在する意味なんて、玲奈を守るため、それだけだった。
玲奈が顔を上げた。目元はうっすら赤く、今にも泣きそうな表情を浮かべている。相変わらず見事な演技だ。
「礼司、ごめんなさい。全部私が悪いの。あの日、お酒なんて飲まなければ……」
「お前は悪くない」
礼司は玲奈の頬を両手で包み、痛ましげに見つめた。
「悪いのは美羽だ。本当ならお前を助けるべきなのに、こんなときに姿をくらませやがって。見つけたら、ただじゃおかない」
目の前の女を、礼司はどこまでも優しく慰めていた。
昔は私にも、同じようにしてくれたのに。私の頬を両手で包み、俺にとって美羽が一番大切だ、とそう言ってくれたこともあった。
あの頃、礼司は起業に失敗したばかりで、毎晩のように眠れずにいた。
そんな彼のそばにいたのは私だった。何度も何度も同じ言葉をかけた。
「大丈夫。私がいるから」
やがて礼司は事業を成功させた。だがその頃にはもう、彼の目に私は映っていなかった。
玲奈が帰国した日、礼司は会社の会議すら取りやめ、空港まで迎えに行った。
玲奈は彼にこう嘘をついた。昔、礼司のもとを去ったのは、自分が重い病気にかかっていて、迷惑をかけたくなかったからだと。
礼司はそれを疑いもしなかった。玲奈をひどく不憫に思い、罪悪感まで抱いた。
それからというもの、礼司の優しさも、気遣いも、愛情も、何もかもが玲奈だけのものになった。
あの頃、私は妊娠していた。出産を目前に控えたある日、事故に遭った。
すると玲奈は礼司に、もしかしたらお腹の子供は別の男との子で、妊娠した時期をごまかすためにわざと事故を起こしたのかもしれない、と吹き込んだ。
あまりにも馬鹿げた話だった。それなのに礼司は信じた。
そのときにはもう分かっていた。礼司の心の中に、私と娘の深沢ひなた(ふかさわ ひなた)の居場所なんて、少しも残っていないのだと。
夜が更ける頃、玲奈は礼司の腰に腕を回し、わざと艶を含ませた声で囁いた。
「礼司って、本当に優しいね」
礼司は玲奈を抱き寄せ、小さく答えた。
「これくらい当たり前だ」
玲奈の手がゆっくりと礼司の服の裾から中へ滑り込んでいく。
礼司は拒むどころか、自ら体を寄せて彼女を受け入れた。
私は顔を背けた。もう見たくなかった。
かつて礼司は、こうして私を抱きしめながら言った。一生、一緒にいようと。
それなのに今では、玲奈のために妻の命を差し出せと言われても、きっと彼は迷うことなく頷くのだろう。
その瞬間ふと思った。もしいつか礼司が真実を知ったら?
自分が命がけで守ろうとしている玲奈こそ、実の娘を轢き殺した張本人だと知ったら?
礼司はいったいどんな顔をするのだろう。
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