真実を知った夫は、愛する女を捨てて私のために復讐した第1話
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私が死んでから五年、夫の深沢礼司(ふかさわ れいじ)はまたしても、幼なじみの篠原玲奈(しのはら れな)が起こした飲酒運転事件の罪を私になすりつけようとしていた。
捏造した証拠を手に、礼司は私の家へ押しかけてきた。だが家の中には私の姿どころか、人が暮らしている気配すらない。
仕方なく礼司は隣の佐藤さんの家のドアを叩いた。すると隣人は怪訝そうな顔で言った。
「深沢美羽(ふかさわ みう)さん?あの子なら、とっくに亡くなってるよ。
前の事件の被害者遺族が判決に納得できなかったらしくてね。出所したその日にさらわれて、三日三晩痛めつけられたそうだよ」
だが礼司は信じなかった。私が逃げるために、佐藤さんまで金で買収して嘘をつかせているのだと思い込んだらしい。
礼司は怒鳴り声を上げた。
「美羽から金をもらって、口裏を合わせてるんだろ!
隠れたって無駄だって伝えろ。三日以内に俺へ連絡してこなかったら、あのどこの馬の骨とも知れないガキの養育費なんて、もう一円も払わない!」
礼司は知らなかった。
玲奈が飲酒運転で轢き殺したのは、礼司が「あのガキ」と吐き捨てた、まさに私たちの子供だった。
* * *
飛行機が着陸するなり、礼司は荷物を置く暇すら惜しんで秘書に電話をかけた。苛立ちを隠そうともせず、開口一番問い詰める。
「美羽は?見つかったのか?」
電話の向こうで、秘書が言葉を濁した。
「社長、それが……まだ美羽さんとは連絡が取れていません……」
「役立たずが!」
予想外の答えに、礼司はぴたりと足を止めた。
「玲奈の飲酒運転の件が、どれだけ切羽詰まってるか分かってるのか?
早く美羽を見つけて身代わりにしないと、玲奈が刑務所に入ることになるんだぞ!お前たちは、黙ってあいつを見殺しにするつもりか!」
電話の向こうから、途切れ途切れに何かが聞こえてきた。
どうせ、意味のない謝罪でも並べているのだろう。
礼司は苛立たしげに吐き捨てた。
「もういい!お前たちには任せてられない。俺が直接行く!」
一方的に電話を切ると、そのまま車に乗り込み、かつて私と礼司が暮らしていた家へ向かった。
私は宙に漂いながら、慌ただしくエレベーターへ乗り込む礼司を眺めていた。その手には、すでに捏造された証拠が何枚も握られている。
冷たい顔には焦りがありありと浮かび、まるで自分だけが世界中から理不尽な目に遭わされているかのようだった。
礼司がここまで必死になるのは、玲奈のことだけなんだろうな。
「美羽!いるんだろ、出てこい!」
礼司は玄関のドアを乱暴に蹴り開けた。だが中はがらんとしていた。積もった埃すら、誰にも掃除されていない。
礼司は忌々しげに辺りを見回すと、一部屋ずつしらみつぶしに探していった。当然どこにも私の姿はない。
「隠れてるつもりか?いつまで逃げられるか見ものだな!」
あまりの騒ぎに、隣に住む佐藤さんが顔を出した。
「ちょっと、誰を探してるの?」
礼司はぎろりと睨むと、威圧的な態度で詰め寄った。
「美羽がどこにいるか知ってますよね?今すぐ出てくるように言ってください」
佐藤さんは眉をひそめた。
「深沢美羽さん?あの子なら、とっくに亡くなってるよ」
「死んだ?」
礼司は鼻で笑った。
「よくそんな嘘が思いつきますね。俺から逃げたいからって、死んだことにするつもりですか?」
佐藤さんはため息をついた。
「嘘じゃないよ。五年前に亡くなったんだ。
前の事件の被害者遺族が判決に納得できなかったらしくてね。出所したその日にさらわれて、三日三晩痛めつけられたそうだよ……」
その言葉を聞いた瞬間、礼司の表情が一瞬だけ固まった。
だがすぐにいつもの傲慢な顔へ戻る。
「ふん。美羽から金をもらって、口裏を合わせてるんだろ!
たかが少し刑務所に入ってただけで、今さら被害者ぶるつもりかよ」
礼司のあまりにも当然といった口ぶりを聞きながら、私は心の底から冷えていくのを感じた。
少し、刑務所に入っていただけ?
私が何年も奪われたあの時間は、礼司にとってはほんの「少し」でしかなかったのか。
佐藤さんの顔も険しくなった。
「ちょっと、あんたねえ。こっちは親切で教えてあげてるのに、なんなのその言い草は。あの子は当時……」
けれど、礼司は聞く耳すら持たず、途中で遮った。
「もういい!隠れたって無駄だって伝えろ。三日以内に俺へ連絡してこなかったら、あのどこの馬の骨とも知れないガキの養育費なんて、もう一円も払わない!」
そう吐き捨てると、礼司は踵を返した。
怒りをぶつけるように、足音を響かせながら去っていく。
その後ろ姿を見送りながら、佐藤さんは呆れたように首を振った。
「でも……あの子なら、とっくに車に轢かれて亡くなってるのに……」
だが礼司はもう遠くまで行っていた。その言葉は、一つも届かなかった。
私は礼司の後ろを漂いながら、その怒りに満ちた背中を眺めた。ただただ疲れていた。
礼司は知らない。私は本当に死んでいる。
そして彼は、もっと知らない。彼が「あのガキ」と吐き捨てた子は、私と礼司の実の娘だった。
その娘を飲酒運転で轢き殺したのは、今まさに礼司が、何がなんでも守ろうとしている幼馴染の女、玲奈だった。
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