盲目的な恋は二度としない第2話
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すぐにスマホが鳴り、通話ボタンを押すと、陽斗の怒鳴り声が響いた。
「綾香!また何を勝手にしてるんだ!
結婚式を中止?別れるって?お前、自分が何言ってるかわかってるのか!」
電話の向こうで、彼の仲間たちの声も混じった。
「篠原さん、さすがにやりすぎだろ?陽斗はあんなに優しくしてくれてんのに!」
「お前みたいにまともに歩けない女、誰がもらってくれると思ってんだ?陽斗だからこそだろ!他の人ならもう放り出してるよ!」
「結婚式取りやめ?ふざけんなよ、陽斗の面子どうしてくれんだ。今すぐ戻って謝れ!」
私はくしゃくしゃに折れた視力回復の診断書を見つめ、感情のない声で言った。
「――本当に、勝手なのはどっち?」
そして通話を切り、そのまま陽斗の番号をブロックした。
私は陽斗との新居には戻らず、昔暮らしていたアパートへ向かった。
ウェディングドレスを脱ごうとしたそのとき、母からメッセージが届いた。
【綾香、そんなに陽斗くんを愛してたのに……本当にいいの?】
角膜を提供するために、私は家族と決裂した。父は激怒し、結婚式への出席も拒んだ。
母はひそかに私を気遣うしかなかった。母が一番よく知っている、私がどれほど陽斗を愛しているかを。
鏡に映る自分を見つめながら、息を吐いた。
――どうして、人はこんなにも変わってしまうのだろう。
子供のころ、両親は仕事で海外に暮らし、私はいつもひとりだった。
学校で、よくいじめられていた。
教科書を破かれ、水筒に唾を吐かれ、最悪のときは路地裏に追い込まれ、服を引き裂かれ、犬の真似をさせられた。
涙を流したのに、彼らは私のみっともない姿を撮影していた。
そのとき、陽斗が現れた。
彼は少し背が高いだけの、細い少年だった。
目は見えなかったが、まっすぐ立って私の前に腕を広げた。
「彼女をいじめるな!」
同級生たちは笑い飛ばした。「盲目のくせにヒーロー気取りかよ!」
彼らは陽斗を地面に押し倒し、何度も殴った。三本の肋骨が折れた。
それでも彼は泣かずに言い続けた。「綾香、怖くない。僕がいる」
それ以来、彼は毎日遠回りして私と一緒に登校した。
私は暗闇が怖いと知ったら、家からナイトライトを盗み出して鞄に入れ、帰り道で点けてくれた。
――その頃、私は心の中でそう決めていた。陽斗は唯一信じられる「光」だった。
彼が一生暗闇で生きるのを見たくなかった。
だから、自分の角膜を差し出した。
手術後、陽斗は泣きながら私の手を握った。
「綾香、これからは俺が、お前の目になる。
一生大事にする。もう絶対にお前を傷つけない」
八歳の陽斗は、ポケットの中の最後の飴をくれた。
十八歳の陽斗は、目が見えなくても必死に私を守った。
けれど二十七歳の陽斗は、私を「足手まとい」と呼んだ。
――あの約束を覚えていたのは、私だけだった。
彼は私に十年以上も寄り添ってくれ、私は自分の角膜を彼に捧げた。
もう、互いに借りはないよね。
【考えは変わらない】
メッセージを送ってから十分も経たないうちに、母は明日の航空券を手配してくれた。
荷物をまとめようとした瞬間、玄関のチャイムが鳴った。
扉を開けると、息を切らした陽斗が立っていた。
タキシードの胸ポケットにはまだブートニア。目の縁は赤く腫れ、肩で大きく息をしている。
私を見た瞬間、彼の瞳にふと期待の光が宿った。
「綾香、もう怒るなよ。今日は俺たちの結婚式だぞ。
まさか、もう俺と結婚したくないのか?みんな待ってる。話はあとでゆっくりすればいいだろ?」
そう言いながら、彼は私の手に触れようとした。
私は目を伏せたが、彼の薬指にある結婚指輪が、私のものとは違うデザインだと目に入った。
私は嘲るように笑い、一歩下がった。陽斗の手が宙に止まったまま固まる。
「何なんだよ、今日一日でどうした?
ドレスを替えたときには、涙で目が潤んでいたじゃない?急に態度変えるなよ。
俺が甘やかしすぎたか?結婚式まで茶番にする気か?」
そんな言葉に、胸が苦しくなった。
――私は夢を見ていた。幼いころから共に歩いた十数年。彼を信じて、愛して、何もかも捧げた。彼もまた、私の一生の支えとなるだろう。
今になってやっとわかった。そのすべてが、私の幻想だった。
彼にとって私は、ただの「足手まとい」だった。真実の愛に辿りつくための、邪魔な存在。
私は息を整え、淡々と言った。「私は本気よ。結婚式は中止。終わりにしたいの」
陽斗の瞳が暗く染まり、怒りが閃いた。
「綾香、いい加減に――」
ちょうどその時、彼のスマホが鳴った。
「陽斗!早く戻ってきてください!依衣さんが――自殺未遂です!」
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