盲目的な恋は二度としない第3話
この話は約1652字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。
陽斗が電話を取った瞬間、手がびくりと震え、スマホを落としかけた。
さっきまで私に向けていた怒りは、一瞬で焦りに変わる。「何があった!?ちゃんと見張ってろって言っただろ!すぐ戻る」
電話を切るやいなや、私の方など一瞥もくれず、踵を返して駆け出す。
すれ違いざま、ようやく思い出したように立ち止まり、苛立ちを隠そうともせずに言い放った。
「綾香、俺がいない間にまた勝手なことするな!依衣を落ち着かせたら、式をぶち壊した件、きっちり話をつけるからな」
私はその場で、彼の背中を見送った。震える彼の手が目に焼きつく。
――彼はその手で、幼いころ、狭い路地で私の手をしっかりと握りしめ、私を庇ってくれた。視力を取り戻したあの日、私の髪を撫でて「これからは俺が守る」と誓ってくれた。
けれど今は、別の女が「自殺の茶番」と聞いただけで、私にかける言葉すら惜しむ。
私は勢いよくドアを閉めた。
一睡もできないと思っていたのに、驚くほどぐっすりと眠れた。
そのまま翌日の午後まで眠り続けた。
荷物をまとめて空港へ向かうと、そこに陽斗の姿があった。
人だかりの中心で、みんなが依衣を囲み、まるで姫様でも守るかのように気を遣っている。
反射的に背を向けようとした私に、陽斗の声が飛んだ。
「綾香!別れるだの何だの言って、今度は何のつもりだ!?
昨日、依衣はお前が式をキャンセルしたせいで責任を感じて、飛び降りようとしたんだぞ!
どうせ式は台無しだ。俺は依衣を連れてオーロラを見に行く。お前は国内で反省でもしてろ!
少しは良心ってもんがあるなら、依衣に謝れ。頭を冷やしたら、もう一度結婚の話をしよう」
理不尽すぎて、思わず冷笑が漏れた。
依衣が現れてからというもの、何が起きても悪いのは私だったね。
去年の冬、私は高熱で寝込んでいた時。陽斗は「薬を買ってくる」と言い残し、代わりに依衣を家に残した。
けれど彼女は、私の白杖をベランダの物入れに隠したのだ。喉が渇いて水を飲もうとした私は、足を滑らせて割れたガラスの上に倒れ込み、血まみれになった。
そこへ戻ってきた陽斗に、依衣は涙を浮かべて言った。「綾香さんが、私の顔見たくないって……それでつい、慌てちゃって……」
陽斗は私の傷口を一瞥もせず、逆に怒鳴った。
「綾香、お前って本当にわがままだな。依衣は好意でお前の面倒を見てくれているのに、何するんだ?早く謝れ」
一番滑稽だったのは、先月、陽斗が私を連れて結婚写真を撮ったことだ。
依衣はどうしてもついて行きたがった。カメラマンは私に陽斗にもう少し近づくように言った時、彼女はわざと私にぶつかり、照明器具に当たって腕を擦りむいた。
「綾香さん、ごめんなさい。邪魔したくなかったのに……ただ、ドレス姿を見たくて……」彼女は腕を抱えて泣いていた。
陽斗は私の腕をつかんでいた手をぱっと放し、私はバランスを崩して、はしごから落ちてしまった。
「綾香、嫉妬にもほどがあるだろ。
依衣は妹みたいな存在だ。手を出すとか、最低だぞ。
今すぐ謝れ。嫌なら式は中止だ」
あのときの私は、彼が依衣に騙されているだけだと信じていた。
それに、私たちはこれから結婚するのだから、こんなことを気にしてはいけないと……
でも今は分かる。
それは、愛しているかどうかの違いだった。
依衣は勝ち誇ったように微笑み、わざと甘えた口調で陽斗に言った。「そんな言い方しないでよ。綾香さんを責めても仕方ないでしょ?」
そして私の手を取るふりをして、持っていた白杖を引き抜いた。
「綾香さん、昨日は本当に申し訳なかったの。
あんな大勢の前で怒っちゃって、陽斗も立場がなかったでしょう?
やっぱりお嬢様だね、私ならそんなことできないよ」
言葉の端々に、私がわがままだと責められているのが感じられた。
私は冷ややかに笑い、彼女の手を振り払った。
「そんなに罪悪感で死にそうなら、どうしてまだ元気そうに生きてるの?
飛び降りるって言ってたのに、まさか同情でも買いたいわけ?
それと、私たち別に仲良くないから。『綾香さん』なんて馴れ馴れしく呼ばないで。気持ち悪いから」
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