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百回後の結末第2話

この話は約1563字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。

【これからは、そんなに電話してくるな。着信音がうるさすぎる】

スマホの画面を見つめながら、私は唇を噛みしめ、血の味を感じた。

――和紀、分かったわ。

これから先、私たちの間には、もう何の関係もなくなるだろう。

あなたに幸せが訪れますように。

……

思い出はそこで、ぷつりと途切れた。

和紀は私の肩を軽く押し、淡々と告げた。

「明日、ちゃんと離婚の手続きに来いよ。もう体調悪いふりはやめろ」

私は一瞬きょとんとし、それから思い出した。

流産から三日目。和紀から電話がかかってきた。

それは流産後のたった一度だけの電話だった。

彼はすでに役所の前に立っていた。

そのとき私は、一晩中の点滴を終えたばかりで、とても万全とは言えない状態だった。

通話を取った拍子に画面を誤って押してしまい、スピーカーモードになってしまった。和紀の苛立った声が病室中に響き渡った。

「南野笙子(みなみの しょうこ)、お前、こんな真似して楽しいのか?

九時に離婚って約束しただろう。今もう十二時だぞ。今回は何を理由に断るつもりだ?」

看護師の驚いた目を受けながら、私は震えを必死に抑え、小さな声で言った。

「私、今……病院にいるの」

電話の向こうで、和紀の呼吸が一瞬止まり、すぐに平静を取り戻した。

そして、彼の嘲笑が聞こえた。

「もういい。言い訳はやめろ。最後にもう一度だけチャンスをやる。

来週の水曜日、役所で会おう」

通話は一方的に切れた。看護師は何も言わず、ただ静かに部屋を出て行った。

ドアが閉まる音を聞いた瞬間、私の中に残っていた最後のプライドは粉々に砕け散った。

あのとき、初めて理解した。

人を最もつらくさせるものは、愛する人から受ける傷ではない。

その傷を負っている自分を、傍らで見ている人の同情である。

私はそっと目を閉じ、泥のように重い回想から自分を無理やり引き上げた。

「……分かったわ」

和紀は眉を上げ、そのまま話を続けた。

「離婚が済んだら、家でしっかり安静にしろ。用がなきゃ俺を探すな」

「……分かった」

私があまりにもあっさりと返答したせいか、和紀は一瞬、驚いたように固まった。

そして彼は衣織の肩に回していた手を離し、じっと私のお腹を見つめた。

「子どもはどうだ?最近、おとなしくしてるか?」

その言葉が落ちた瞬間、私の目に熱いものが一気に込み上げてきた。

喉が詰まりそうになったが、必死に飲み込んだ。

「……うん。すごく、おとなしいわ」

──あまりにもおとなしくて、私が傷つかないように、そっと離れていくほどに。

もう感情が溢れそうで、私は何も言えず、そのまま踵を返した。

すれ違うその瞬間、私は気づいてしまった。

和紀のシャツの襟には、口紅の跡。

衣織の唇とまったく同じ色。

そして──

あの日、駐車場の地面に広がった血の色とも、同じだった。

ベビー用品店の前を通りかかったとき、店員が明るく声をかけてきた。

「南野さん、この前ご注文いただいたお洋服が入荷しましたよ。

本日お受け取り可能ですが、いかがでしょうか?」

私は断ろうとしたのに、ふと目がポスターに映る赤ちゃんに吸い寄せられた。

もし私の子が無事に生まれていたら──きっとこんなふうに可愛らしいはず。

ぼんやりしている間に、店員は素早く服を袋に詰め、私に差し出した。

それは淡い黄色のベビー用ロンパース。

和紀の一番好きな色。

私は袋の中にある小さな服を見つめたまま、思わず逃げるように店を飛び出した。

車に乗り込み、ドアを閉めた瞬間、堰を切ったように涙があふれ出した。

子どもを失った母親の泣き声は、どれほど押し殺されたものなのか──

今になって、ようやく思い知った。

……

家に戻ったときには、すでに深夜になっている。

冷蔵庫を開けた瞬間、目に飛び込んできたのは、そこに置かれたパパイヤだ。

妊娠中は食べられなかったけれど、見るたびにどうしても食べたくてたまらなかったもの。

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