百回後の結末第2話
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【これからは、そんなに電話してくるな。着信音がうるさすぎる】
スマホの画面を見つめながら、私は唇を噛みしめ、血の味を感じた。
――和紀、分かったわ。
これから先、私たちの間には、もう何の関係もなくなるだろう。
あなたに幸せが訪れますように。
……
思い出はそこで、ぷつりと途切れた。
和紀は私の肩を軽く押し、淡々と告げた。
「明日、ちゃんと離婚の手続きに来いよ。もう体調悪いふりはやめろ」
私は一瞬きょとんとし、それから思い出した。
流産から三日目。和紀から電話がかかってきた。
それは流産後のたった一度だけの電話だった。
彼はすでに役所の前に立っていた。
そのとき私は、一晩中の点滴を終えたばかりで、とても万全とは言えない状態だった。
通話を取った拍子に画面を誤って押してしまい、スピーカーモードになってしまった。和紀の苛立った声が病室中に響き渡った。
「南野笙子(みなみの しょうこ)、お前、こんな真似して楽しいのか?
九時に離婚って約束しただろう。今もう十二時だぞ。今回は何を理由に断るつもりだ?」
看護師の驚いた目を受けながら、私は震えを必死に抑え、小さな声で言った。
「私、今……病院にいるの」
電話の向こうで、和紀の呼吸が一瞬止まり、すぐに平静を取り戻した。
そして、彼の嘲笑が聞こえた。
「もういい。言い訳はやめろ。最後にもう一度だけチャンスをやる。
来週の水曜日、役所で会おう」
通話は一方的に切れた。看護師は何も言わず、ただ静かに部屋を出て行った。
ドアが閉まる音を聞いた瞬間、私の中に残っていた最後のプライドは粉々に砕け散った。
あのとき、初めて理解した。
人を最もつらくさせるものは、愛する人から受ける傷ではない。
その傷を負っている自分を、傍らで見ている人の同情である。
私はそっと目を閉じ、泥のように重い回想から自分を無理やり引き上げた。
「……分かったわ」
和紀は眉を上げ、そのまま話を続けた。
「離婚が済んだら、家でしっかり安静にしろ。用がなきゃ俺を探すな」
「……分かった」
私があまりにもあっさりと返答したせいか、和紀は一瞬、驚いたように固まった。
そして彼は衣織の肩に回していた手を離し、じっと私のお腹を見つめた。
「子どもはどうだ?最近、おとなしくしてるか?」
その言葉が落ちた瞬間、私の目に熱いものが一気に込み上げてきた。
喉が詰まりそうになったが、必死に飲み込んだ。
「……うん。すごく、おとなしいわ」
──あまりにもおとなしくて、私が傷つかないように、そっと離れていくほどに。
もう感情が溢れそうで、私は何も言えず、そのまま踵を返した。
すれ違うその瞬間、私は気づいてしまった。
和紀のシャツの襟には、口紅の跡。
衣織の唇とまったく同じ色。
そして──
あの日、駐車場の地面に広がった血の色とも、同じだった。
ベビー用品店の前を通りかかったとき、店員が明るく声をかけてきた。
「南野さん、この前ご注文いただいたお洋服が入荷しましたよ。
本日お受け取り可能ですが、いかがでしょうか?」
私は断ろうとしたのに、ふと目がポスターに映る赤ちゃんに吸い寄せられた。
もし私の子が無事に生まれていたら──きっとこんなふうに可愛らしいはず。
ぼんやりしている間に、店員は素早く服を袋に詰め、私に差し出した。
それは淡い黄色のベビー用ロンパース。
和紀の一番好きな色。
私は袋の中にある小さな服を見つめたまま、思わず逃げるように店を飛び出した。
車に乗り込み、ドアを閉めた瞬間、堰を切ったように涙があふれ出した。
子どもを失った母親の泣き声は、どれほど押し殺されたものなのか──
今になって、ようやく思い知った。
……
家に戻ったときには、すでに深夜になっている。
冷蔵庫を開けた瞬間、目に飛び込んできたのは、そこに置かれたパパイヤだ。
妊娠中は食べられなかったけれど、見るたびにどうしても食べたくてたまらなかったもの。
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