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百回後の結末第3話

この話は約1452字。当サイトで読める3話の試し読みのうち、最後の話です。続きの第4話からは公式アプリで読めます。

今ならパパイヤを食べられるのに、目にしただけで私は涙がこぼれそうになった。

台所に戻って、私は二品料理を作った。

パパイヤのミルク煮と茶碗蒸し。

ちょうど食べようとしたとき、玄関の鍵が開く音が聞こえた。

和紀が入ってきて、手にスーツケースを提げている。

私は不思議に思った。衣織が倒れてからというもの、彼はずっと家に帰ってきていなかったのに。

「どうして戻ってきたの?衣織に付き添わなくていいの?」

和紀はスーツケースをそのまま引きずりながら寝室へ向かい、気軽な調子で言った。

「衣織と結婚するんだから、荷物取りに来たんだ。

あとで面倒になると嫌だしな」

私は「そう……」と答えたが、心の奥底では、さっきの衣織の言葉が蘇った。

「私たちの結婚式が一週間後に決まった。ぜひ、赤ちゃんと一緒に見に来てね」

そうか、もうすぐだな。

早く荷物を運ばないと、後で「縁起が悪い」私に影響されたら大変だとでも思っているのだろう。

ぽたりと涙が茶碗に落ちて消えた。跡形もなく、音もなく消えていったのは、まるで和紀が私に向けていた愛情のようだ。

でも、以前はそうではなかったのに。

確かに彼は、この子の誕生を心から楽しみにしていたのに。

私たちは、あれほど幸せだったのに。

俯いて茶碗蒸しを口に運ぼうとしたとき、荷物をまとめ終えた和紀が、不意に声をかけてきた。

「茶碗蒸し、作ったか?

ちょうどいい。衣織、今夜まだ何も食べてないんだ。何か食べ物が欲しかった」

言い終わると同時に、和紀は当然のように私の手から茶碗を取り上げた。

空になった自分の手を見つめ、私はしばらくの間、動けずにいる。

我に返る頃には、彼はすでにきれいな弁当箱を取り出し、詰め始めた。

「それ……私の晩ごはんよ」

和紀は顔を上げることなく、淡々と弁当箱を閉じた。

「テーブルにもう一品あるだろ。そっち食べればいい」

視線の先にはパパイヤのミルク煮。私は乾いた笑みを浮かべ、そっと呟いた。

「妊婦は……パパイヤ、食べちゃいけないのよ」

和紀は一瞬きょとんとし、弁当箱を置いた。

「じゃあ……ちょっとだけ食べれば?

お前、検診でいつも異常なかったんだし、少しくらい平気だろ」

鼻の奥がツンとし、涙がこぼれそうになって、私は上を向いた。

「……平気よ」

──だって、もう子どもは亡くなったのだから。

何を食べても、何をしても、もう関係ない。

私の変化に気づいたのか、和紀はため息をつき、私を抱き寄せた。

「笙子、もう少しだけ我慢してくれないか?

結婚式が終わったら、ちゃんとお前のそばに戻る。

だから、あと少しだけ耐えてくれ」

「……うん」

私は答えながら、自然と昔の言葉が次々と頭に浮かんできた。

「笙子、衣織から目が離せないんだ。彼女の機嫌が落ち着いたら、一緒に検診に行こう」

「笙子、衣織が熱を出した。検査が終わったら連絡する」

「笙子、衣織が俺を行かせたくないって……寝かしつけたら帰るよ」

――和紀、あなたはいつ気づくのだろうか。

私はもう、とっくに待ちきれなくなっていた。

そっと彼の腕の中から身を引き、私は弁当箱を手渡した。

「行って。早く」

──振り返らないで。

ドアが閉まろうとしたとき、私は彼を呼んだ。

「和紀、あの日あなたが私に離婚を言い出したのは、何回目だったか覚えてる?」

和紀の背筋がぴくりと止まった。彼が答えようとする前に、私は話を続けた。

「百回目よ。

今日は101回目。

明日、役所で会おう。

絶対に来てね。私も行くから」

そう告げて、私は一歩踏み出し、ゆっくりと確実にドアを閉めた。

そしてドアにもたれると、和紀の荒い呼吸が聞こえてきた。

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