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百回後の結末第1話

この話は約1906字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。

毎回、夫の南野和紀(みなみの かずき)が、不治の病にかかった幼なじみの堀之内衣織(ほりのうち いおり)に付き添って行くたびに、彼は私に「離婚できないか」とほのめかしてくる。

衣織が死ぬ前に抱いている一番の願いは──「和紀の本当の妻になりたい」ということだから。

今日もまた、彼は同じようにそれをほのめかしてきた。

私は泣きもせず、怒りもせず、ただ淡々と「いいわ」と一言返した。

こうした会話は、すでに99回も繰り返されてきたからだ。

そして今日は、ちょうど百回目。

ようやく私も、自分を納得させる離婚の理由ができたのだ。

──私と和紀の子どもが流産してしまったから。

今、私と彼の間に残っているのは、薄っぺらな戸籍謄本だけだ。

* * *

毎回、夫の南野和紀(みなみの かずき)が、不治の病にかかった幼なじみの堀之内衣織(ほりのうち いおり)に付き添って行くたびに、彼は私に「離婚できないか」とほのめかしてくる。

衣織が死ぬ前に抱いている一番の願いは──「和紀の本当の妻になりたい」ということだから。

今日もまた、彼は同じようにそれをほのめかしてきた。

私は泣きもせず、怒りもせず、ただ淡々と「いいわ」と一言返した。

こうした会話は、すでに99回も繰り返されてきたからだ。

そして今日は、ちょうど百回目。

ようやく私も、自分を納得させる離婚の理由ができたのだ。

──私と和紀の子どもが流産してしまったから。

今、私と彼の間に残っているのは、薄っぺらな戸籍謄本だけだ。

……

流産から七日目のこと。

私はショッピングモールで偶然和紀に会った。

彼は両手にいくつもの大きな買い物袋を提げ、衣織を見つめるその目は、溢れんばかりの優しさに満ちている。

けれど、私を見た瞬間、彼は眉をひそめた。

「なんでお前もここにいるんだ?先に離婚すると言っていただろ。まさか後悔したのか?」

彼の警戒した視線は冷たく、まっすぐ私の心の奥深くに突き刺さった。

衣織は彼をたしなめるように軽く睨みつけ、気まずそうに私の方へ向き直った。

「笙子、誤解しないでね。和紀は、私と早く結婚したくてたまらないだけなの」

そう言いながら、彼女はさりげなく私のお腹に視線を走らせ、得意げに微笑んだ。

「私たちの結婚式が一週間後に決まった。ぜひ、赤ちゃんと一緒に見に来てね」

私は思わずお腹に手を当てた。何かを言おうとしたその瞬間、和紀が言葉を遮った。

「妊婦が式に来られるわけないだろ。万が一、衣織にとって縁起が悪いことがあったらまずいぞ」

お腹に置いた手が固まったまま、私は再び彼の冷酷さに打ちのめされた。

彼は、衣織が不治の病を患っていても、それを「縁起が悪い」とは思わないくせに。

毎日病院を行き来していても、それを「縁起が悪い」とは思わないくせに。

――でも、私があなたの子を身ごもっているということだけが、「縁起が悪い」。

……本当に、皮肉なものだ。

でも、そうね。私は衣織じゃないし、あなたが気にかける理由なんてどこにもない。

そうでなければ、私が病院で必死にお腹の子を守ろうとしている間、あなたが一度も姿を見せなかったはずがない。

ただ一言、あなたが聞いてくれればわかるのに。

私たちの子どもは、もういないということを。

私が黙っていると、和紀は気にも留めず、頭を下げて衣織と結婚式の細かい相談を続けている。

私は黙ったままそれを見つめ、頭の中にさまざまな光景がよぎった。

衣織が病に倒れてから、和紀はまるで別人のようになってしまった。

子どものことを気にかけることもなくなり、家にも帰りたくなくなり、突然姿を消すのが当たり前になった。

最初の頃、彼は言った。

「笙子、衣織は重病なんだ。そばにいてあげないと。

安心しろ。同情してるだけで、それ以上の意味はない」

その後、彼は言った。

「笙子、衣織の最後の願いは、俺と結婚することなんだ。

俺は彼女に後悔を残したくない」

私は彼の言外の意味を理解している。

でも、理解したくなかった。

彼はそのほのめかしを99回繰り返した。

私も99回、理由を探して断った。

そして百回目──彼はもう、ほのめかすことさえやめた。

その日、私は妊娠中に受ける32回目のホルモン注射を終え、病院を出たところだった。

そこで和紀からメッセージが届いた。

気遣いも慰めもなく、ただ冷たい通知が一文。

【明後日の午前九時、役所の前で会おう。離婚だ】

たった一行の短い文章。

それだけで、私は完全に取り乱した。

その日、私は駐車場の地面に倒れ込み、和紀に何度も何度も電話をかけた。

けれど最後に繋がったのは──119だけだった。

医者は告げた。「子どもは助からなかった」

病床に横たわったまま、私は夜明けを待った。

和紀から届いたのは、たった一言だけだった。

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