父に選ばれなかった娘第2話
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「美南は……」
父は少し間を置き、あまり気にかけていないように手を振る。
「先に部屋に戻れ。用がなければ降りてくるな。目障りだ」
彼らは次々と言葉を重ねた。今日が私の大事なオーディションの日だということを、誰一人として覚えていない。
まあいい。慣れたことだ。
私は靴を履き替え、彼らに目もくれずに通り過ぎ、階段を上ってドアを閉める。そして、ピン留めしたアイコンにボイスメッセージを送る。
「お母さん、オーディション、合格したよ。
オーケストラの先生が、寮に空きがあるから、今夜すぐ引っ越してもいいって言ってくれた。
お母さん、これから一人で生きていくね。心配しないで」
メッセージを送っても、返事は永遠に返ってこない。
私は習慣的に、古い携帯を取り出し、自分宛てに【美南、よく頑張ったね】というメッセージを送り、荷造りを始める。
階下の明かりが消える。十分後、車が別荘の庭に入ってくる。
突然、階下でクラッカーが弾け、割れんばかりの歓声が上がる。
私はスーツケースのファスナーを引く手を一瞬止め、マフラーをしっかり巻き直して、荷物を持って階下へ向かう。
階下では、知香がいつもは落ち着いている長兄に抱き上げられ、くるくると回されている。
「知香、できるって信じてたよ」
次兄はうらやましそうに見つめながら、慌ててプレゼントを差し出す。
「知香、これはフランスからわざわざ取り寄せたブレスレットだ。週末の発表会でダンサーに選ばれたお祝いだよ」
「僕も!僕も」
弟は彼を押しのけて割り込む。
「姉さん、練習大変だって知ってるから。これは僕が買ってきた痛み止めだ。念のため持っておいて」
修平と父は並んで座り、目の中に溢れんばかりの優しさをたたえている。
知香は感動して口を押さえる。
「みんな……私、こんなにしてもらっていいのかな。姉さんが知ったら、きっと……」
そう言い終えると、私に気づいたように、目をくらりと動かし、私の目をまっすぐに見つめる。
「姉さん、そのスーツケースは……どこかへ行くの?」
リビングは一瞬にして静まり返った。
知香が最初に涙目で駆け寄ってくる。
「姉さん、ごめんね。修平さんが私を送るためにあなたを途中で降ろすなんて、本当に知らなかったの。全部私が悪いんだ……家出なんてしないで」
修平は鼻で嘲るように息を吐き、私を見ずに顔を背ける。まだ別れ話を蒸し返されたことで腹を立てているようだ。
「知香、あいつにかまうな。別れるだの何だのを軽々しく口にするような奴が、こんなくだらないことするのも驚かない」
父の表情は険しくなり、私を睨みつける。
「ふざけるな。何度言えばわかるんだ。知香は妹だ。譲ってやるのが当たり前だろう。そんなちっぽけなことで、わがまま言うなんて。
美南、俺はそう教えたのか?」
私は顔を上げ、静かに彼を見つめる。
「ちっぽけなことじゃない」
母と私の夢を叶えることは、ちっぽけなことじゃない。
そう言い終えると、私は荷物を引いて階段を下り始める。
長兄が階段を上ってきて私のスーツケースを掴む。
「美南、ふざけるな。そんなことしたら知香の立場はどうなる。もし外に漏れたら、みんな知香が君を追い出したと思うぞ。彼女の評判はどうするんだ?」
私は彼の手を振りほどき、歩みを止めない。
次兄が階段口に立ちはだかり、口調はうんざりしている。
「美南、本気でここまでやる気か?出て行ったら、もう誰も君を引き止めたりしないぞ」
私は彼の横を通り過ぎ、振り返らない。
玄関に近づいた時、弟が嘲るように笑う。声は皆に聞こえるほど大きく響く。
「兄さん、構うなよ。美南ってやつは頭がおかしいんだよ。いつも仏頂面して、誰かにいじめられてるみたいな顔してさ」
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