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無垢を求めた夫と、離婚を決意しました第2話

この話は約1474字。当サイトでは第1〜3話を試し読みできます。

電話を切った後も、胸の奥にはぽっかりと穴が空いたような虚しさが残っていた。心なんてもう空っぽになったはずなのに、その奥だけがずきずきと痛み続けていた。

私はひなたのタイムラインを、何度も遡って見返した。そこでようやく気づいた。彼女と諒の曖昧な関係は、もうけっこう長く続いていたのだ。

彼女は諒のゼミ生だった。

毎日のようにメッセージを交わし、キャンパスを並んで歩き、大学帰りには近くの店へ立ち寄っていた。

諒は彼女にだけ妙に甘かった。課題を個別で見てやり、レポートを何度も添削し、採点も明らかに甘かった。学内奨学金の推薦にまで口を利いていたらしかった。

投稿の端々から、ひなたのときめきが滲んでいた。熱に浮かされたような、恋する者だけが纏う空気だった。

私がいなければ、2人はもっと自然に恋に落ちていたのかもしれない。

私は彼女の写真を何度も見返した。明るく笑う姿は、まるで陽だまりのようで、塞ぎ込みがちな私とは正反対だった。諒が彼女に惹かれた理由も、分からないでもない。

じめじめとした場所に長くいれば、誰だって明るいほうへ惹かれてしまう。

パソコンを閉じても、眠気は少しも来なかった。その夜、諒は結局、朝まで帰ってこなかった。

翌日の午後になって、ようやく諒は帰ってきた。

「なあ、何持っていると思う?」

玄関を開けるなり、諒は目を輝かせて私を見た。

「……なに?」

私はできるだけ素っ気なく返した。

すると諒は背中に隠していた手を差し出した。そこにあったのは、花火大会のチケットが2枚。

「花火師・早川駿(はやかわ しゅん)の渾身の一作だよ。ずっと見たいって言ってただろ。昨日、発売の時間に張り付いて、やっと取れたんだ。しかも特等席」

私は花火が好きだ。ずっと前から、今回の大作を楽しみにしていた。諒はもうそんなこと、とっくに忘れていると思っていた。

なのに、その2枚のチケットを受け取っても、心は少しも弾まない。

こういうとき、男って優しくなる。後ろめたいことがあると、埋め合わせをするみたいに、いつもよりずっと優しくなる。

自分の罪悪感を、少しでも軽くしたいから。

「どうした?行きたくないのか?」

私は無理やり口元を上げた。

「……行くわ」

その日の夜、諒は親友の江原晃一(えばら こういち)と、その妻の葵(あおい)まで誘っていた。

やっぱり、と思った。浮気をしている男が、妻と2人きりで過ごしたがるはずがない。

葵は私の幼馴染だ。だから私は、ほとんどずっと彼女と腕を組んで歩いている。

「どうしたの、澪。なんか全然楽しそうじゃないけど」

葵が心配そうに私の顔を覗き込む。

私は小さく笑った。

「そんなに分かる?」

「分かるに決まってるでしょ。澪って、機嫌悪いと黙り込むもん」

私は前を歩く諒の背中を見つめる。晃一と楽しそうに話し込みながら、絶え間なく言葉を交わしていた。

こんなに分かりやすいのに、どうして一番近くにいるはずの夫だけが気づかないのだろう。

それとも、気づいていても、もうどうでもいいのだろう。

急に鼻の奥がつんとした。これ以上ここにいたら、本当に泣いてしまいそうで、私は気づかれないようトイレへ逃げ込んだ。

しばらくして、ようやく呼吸が整った。そっと外に出た瞬間、隣の喫煙スペースから、聞き間違えるはずもない声が聞こえた。

「お前、澪さんのこと本気で好きだったんじゃないの?なんで急にゼミの学生に手を出してるんだよ」

少し間を置いて、煙を吐き出す気配がした。続いて、諒のしゃがれた声が響いた。

「昔は、守ってやりたいって思ってた。でも、いつからか……彼女のことが、どこか汚れて見えるようになった」

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